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とうとうグローバル市場に解き放たれた、「郵貯」と「簡保」の巨大マネー - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年11月4日 15時10分

 日本郵政グループ3社が株式上場をしました。「28年前のNTT株以来の大型上場」であるとか、「最後の大型民営化案件」というような表現が飛び交う中で、3社合計の「売り出し額」の合計は1兆4000億円を超える見通しです。つまり今回の上場で1兆4000億のカネが飛び交うことになります。

 ただ、この上場ですが、何が本当の目的なのか今ひとつ見えないところがあります。また、国際的な常識からすると異例の親子同時上場、つまり親会社と子会社が同時に上場するという例外的事態になっているのも気になります。「親子上場」というのは、子会社の利益より親会社の利益の方が重視されたような場合、下手をすると子会社の株主から訴訟を起こされるリスクを負うからです。

 では、どうして3社同時上場ということになったのでしょう?

 実は、この「日本郵政グループ」というのは3社ではなく、4社あります。まず全体の持株会社である「(1)日本郵政」そして、その下に3つの事業会社があります。「(2)日本郵便」は郵便事業。「(3)ゆうちょ銀行」は元の郵便貯金を継承した銀行業務。そして「(4)かんぽ生命」は元の簡易保険ですから、生命保険会社です。

 問題は(2)の「日本郵便」です。郵便事業というのは民営化したと言っても、法律でどんな離島でも過疎地域でも集配の義務があるなど縛りが多いのと、競争が激しい中で事務的な郵便物はネットに押されて減っていることなどから、収益体質ではありません。ですから日本郵便を上場することは、今後もおそらくできないでしょう。

 こうした企業グループの場合、持株会社(ホールディング・カンパニー)の「日本郵政」だけを上場させるというのが常道です。ですが、そうするとその傘下の「ゆうちょ」と「かんぽ」の資産価値から、「日本郵便」の収益の悪い事業がマイナスされてしまい、「日本郵政」全体の価値がそれほど高く評価されないということが起きる可能性があります。

 しかし「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」は金融機関であり、それぞれに日本でトップの巨大銀行、生保です。官営時代の名残りがあるにしても巨大な契約高と資金量を誇る中で、大変な資産価値があります。

 そこで、「ゆうちょ」と「かんぽ」という巨大金融機関が、それぞれ単体でも上場していれば、それぞれの企業価値は上場で大きくなり、その大株主である「日本郵政」の価値も大きくなるわけです。そこで「日本郵政」も上場させれば、その大きくなった価値を市場に評価されてそこでも巨額の資金を集めることが可能になります。

 これは、非常に大ざっぱなストーリーで、他にも色々な理由が加わることで、とにかく「日本郵政」、「ゆうちょ」、「かんぽ」の同時上場というのが全体の企業価値を高め、株の売り出しによる収入を最大化することになる、それが「親子上場」という判断がされた理由だと思います。

 そこには「別の目的」もあると思います。特に「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」については、上場することで否が応でもグローバルな金融市場に組み込まれていくことになります。その結果として、元来は極めてリスクを嫌う種類である巨大なマネーの塊が、間接的にではありますが、多くの民間の事業会社の資金として回っていくことになります。

 当面は、投資の妙味が薄いことから外国からの投資は少ないだろうというのが事前の「触れ込み」でしたが、上場してしまえば、そんな保証はありません。結果的にこの3社、特に金融2社については、グローバルな出資を受けることで、その投資先についてもグローバルな金融市場にリンクしていくことになると思います。

 そうなれば、日本人の個人金融資産の巨大な塊が、元来はリスク選好型のマネーではないにも関わらず、リスクを含んだグローバルな市場でグルグル回る事になります。同時に、日本円と心中するリスクは薄められるとも言えます。

 要するに、これで「郵便貯金+簡易保険」という、極端にリスクを嫌い、極端に地域通貨(日本円)の中に閉じこもっていた巨大な資金の塊が、民間事業への投資、そしてグローバルな金融市場の中へとようやく入っていき、その上で「リスクを取れないというリスク」の呪縛から自由になることができます。これが、郵政3社の上場の究極の目的だと言えるでしょう。

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