人間は加齢とともに成長してやがて老いるが、それは社会にもあてはまる。このアナロジー(類推)で言えば、日本はすでに老いを迎えた社会だ。経済発展(成長)の山はとうに越え、これから先は縮小するだけ。このような見通しは、人々の将来の展望にも反映され、「これから先、生活は悪くなる」と考える人が増えてきている。
子どもの将来を悲観する人も多い。アメリカの調査機関ピュー研究所が2014年に実施した国際意識調査では、「子どもの将来の暮らし向きは、親世代よりも良くなるか、それとも悪くなるか」と尋ねている。これに対する日本人の回答を見ると、79%が「悪くなる」と答え、「良くなる」は14%しかいない(残りは「同じようなもの」、「分からない」)。
まさに「希望が持てない社会」だ。しかしこうした傾向は万国共通ではなく、上記の設問への回答は社会によって大きく異なる。下の<図1>は、横軸に「良くなる」、縦軸に「悪くなる」の回答比率をとった座標上に、調査対象の44カ国を配置したものだ。
きれいなクラスターに分かれている。希望が持てる社会と、そうでない社会。日本や欧米諸国は後者だ。発展を遂げた後、将来の見通しは悪くなる一方という、先進国の悲哀が感じられる。
対極の右下には、今後も発展が望める途上国が多く位置している。昨今の経済発展が著しい中国やインドネシアも、この中に含まれている。上図の配置には,それぞれの社会の位置付けが如実に表れている。日本も高度経済成長期の頃は右下にあったのだろうが、現在では左上にシフトしてしまっている。
各国の位置は、高齢化のレベルとも関連が深い。日本では少子高齢化が急速に進行し、将来の現役層の負担が大きくなることが見込まれている。子どもの将来を悲観する人が多いのも無理からぬことだ。イタリアやギリシャも同様の事情を抱えている。
実際に働いている人に尋ねても、「父親を超えられていない」という回答が日本では多い。<図2>は、ISSP(国際社会調査プログラム)が2009年に実施した『社会的不平等に関する国際意識調査』のデータをグラフにしたものだ。
日本の30代男性就労者の6割が、「今の仕事の地位レベルは、(自分が)14~16歳の頃の父親よりも低い」と答えている。他国では「父親よりも高い」という回答が多いのと比べると、日本の特異性が際立っている。日本は「子が親を越えられない」社会だ。
実は子どもの世代は、この現状をよく認識している。一方の親世代はその認識が低く、そこで親子間の軋轢が生じている。親は自分と同等ないしはそれ以上の所得、地位をわが子に望み、子どもの結婚相手にも自分と同等以上の人物を望む。
しかし、日本の経済成長はとうにピークを越えたのだ。上の2つのグラフはあくまで主観的評価のまとめだが、所得の減少や雇用の非正規化など、客観的な経済条件そのものが大きく変わっている。親の世代は、自分たちが歩んできた人生を子どもの世代が何の苦労もなくたどって来る(来られる)と思ってはいけない。「一人前になる」とか「社会的に成功する」といった、人生を定義する言葉に関しても、親子の世代では認識が異なってくる。
こうした時代変化の認識を共有することが、世代間の無用な緊張を緩和して、より現状に即したやり方で若年層の自立を促すことに繋がるのではないだろうか。
<資料:ピュー研究所『Global Attitude Survey Spring 2014』、ISSP『Social Inequality IV - 2009』>
≪この筆者の過去の人気記事≫(過去記事の一覧はこちら)
『若者の貧困化が「パラサイト・シングル」を増加させる』
『日本の学生のパソコンスキルは、先進国で最低レベル』
『生涯未婚率は職業によってこんなに違う』
[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]
舞田敏彦(武蔵野大学講師)
子どもの将来を悲観する人も多い。アメリカの調査機関ピュー研究所が2014年に実施した国際意識調査では、「子どもの将来の暮らし向きは、親世代よりも良くなるか、それとも悪くなるか」と尋ねている。これに対する日本人の回答を見ると、79%が「悪くなる」と答え、「良くなる」は14%しかいない(残りは「同じようなもの」、「分からない」)。
まさに「希望が持てない社会」だ。しかしこうした傾向は万国共通ではなく、上記の設問への回答は社会によって大きく異なる。下の<図1>は、横軸に「良くなる」、縦軸に「悪くなる」の回答比率をとった座標上に、調査対象の44カ国を配置したものだ。
きれいなクラスターに分かれている。希望が持てる社会と、そうでない社会。日本や欧米諸国は後者だ。発展を遂げた後、将来の見通しは悪くなる一方という、先進国の悲哀が感じられる。
対極の右下には、今後も発展が望める途上国が多く位置している。昨今の経済発展が著しい中国やインドネシアも、この中に含まれている。上図の配置には,それぞれの社会の位置付けが如実に表れている。日本も高度経済成長期の頃は右下にあったのだろうが、現在では左上にシフトしてしまっている。
各国の位置は、高齢化のレベルとも関連が深い。日本では少子高齢化が急速に進行し、将来の現役層の負担が大きくなることが見込まれている。子どもの将来を悲観する人が多いのも無理からぬことだ。イタリアやギリシャも同様の事情を抱えている。
実際に働いている人に尋ねても、「父親を超えられていない」という回答が日本では多い。<図2>は、ISSP(国際社会調査プログラム)が2009年に実施した『社会的不平等に関する国際意識調査』のデータをグラフにしたものだ。
日本の30代男性就労者の6割が、「今の仕事の地位レベルは、(自分が)14~16歳の頃の父親よりも低い」と答えている。他国では「父親よりも高い」という回答が多いのと比べると、日本の特異性が際立っている。日本は「子が親を越えられない」社会だ。
実は子どもの世代は、この現状をよく認識している。一方の親世代はその認識が低く、そこで親子間の軋轢が生じている。親は自分と同等ないしはそれ以上の所得、地位をわが子に望み、子どもの結婚相手にも自分と同等以上の人物を望む。
しかし、日本の経済成長はとうにピークを越えたのだ。上の2つのグラフはあくまで主観的評価のまとめだが、所得の減少や雇用の非正規化など、客観的な経済条件そのものが大きく変わっている。親の世代は、自分たちが歩んできた人生を子どもの世代が何の苦労もなくたどって来る(来られる)と思ってはいけない。「一人前になる」とか「社会的に成功する」といった、人生を定義する言葉に関しても、親子の世代では認識が異なってくる。
こうした時代変化の認識を共有することが、世代間の無用な緊張を緩和して、より現状に即したやり方で若年層の自立を促すことに繋がるのではないだろうか。
<資料:ピュー研究所『Global Attitude Survey Spring 2014』、ISSP『Social Inequality IV - 2009』>
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[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]
舞田敏彦(武蔵野大学講師)