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記憶力や認知力をアップさせるサプリメントは存在するか

ニューズウィーク日本版 2015年11月11日 16時12分

「大人になると神経細胞は再生しない」――最近までそう信じられていた。脳の機能は年齢とともに低下するばかりだと。ところが近年、生きている脳の活動を「見る」ことができる技術が登場し、脳科学が飛躍的に発展。「脳は鍛えることができる」という発見が広まった。

 日本では2005年に「脳を鍛える大人のDSトレーニング」(脳トレ)がブームになり、アメリカでも2007年にPBS(公共放送)で「ザ・ブレインフィットネス・プログラム」というスペシャル番組が放送されるなどして、脳トレーニングの関連市場が立ち上がった。ちなみに「脳トレ」は、米欧や韓国などでも発売されている。

 その後、さまざまな報道や研究発表、商業的な主張が入り乱れ、混乱と誤解が広まったのも事実だ。それでも、「脳は鍛えることができる」あるいは「脳の活性化に好ましい習慣や行動がある」といった点については、一般に認められるようになったと言えるだろう。

 そうした「ブレインフィットネス」分野の最新の知見をまとめたのが、『脳を最適化する――ブレインフィットネス完全ガイド』(山田雅久訳、CCCメディアハウス)だ。神経科学における健康管理と教育手法を専門とするマーケットリサーチ会社、シャープブレインズの最高経営責任者であるアルバロ・フェルナンデスと、同社の最高科学顧問エルコノン・ゴールドバーグ、そして認知心理学博士のパスカル・マイケロンが著した。

「ブレインフィットネスとは、クロスワードパズルを何回か余計にやることでも、朝食でシリアルと一緒にブルーベリーをたくさん食べることでも、少し長い距離を歩くことでもない」と、本書では述べられている。運動から食事、瞑想、レジャー、人間関係、ストレス、脳トレまで、あらゆる側面から脳を「最適化する」具体的アドバイスを盛り込んだという本書から、「Chapter 4 私たちはほぼ食べたものでできている」を抜粋し、3回に分けて掲載する。

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『脳を最適化する
 ――ブレインフィットネス完全ガイド』
 アルバロ・フェルナンデス、エルコノン・ゴールドバーグ、
 パスカル・マイケロン 著
 山田雅久 訳
 CCCメディアハウス


※抜粋第1回:脳を健康にするという「地中海食」は本当に効果があるか はこちら

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オメガ3脂肪酸と抗酸化物質

 脳の活動にグルコースが重要であることはすでに述べたが、脳機能を良好な状態に保つのに必要な分子はほかにもある。

 脳は脂質でできている器官だ。たとえば、ニューロンの細胞膜の柔軟性は、細胞膜に含まれる脂質によって保たれている。脂肪酸のなかで、とくに脳の健康に関係するのはオメガ3とオメガ6だ。両者は、化学的な構造においても、栄養的な役割においても異なっている。そして、ドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic acid, DHA)は、脳内の細胞膜にもっとも含まれているオメガ3脂肪酸である。

 私たちの脳は、脂肪酸の供給を食事で摂る脂肪に頼っている。健康的な食事には、概して、オメガ3とオメガ6のふたつの脂肪酸がバランスよく含まれている。そして、オメガ3脂肪酸を十分に摂取していると、認知力が低下するリスクが減ることを最近の研究が示している。不幸なことに、アメリカとヨーロッパに住むほとんどの人の食事はオメガ6過剰であり、オメガ3が不足気味だ。ちなみにオメガ3脂肪酸は、冷水魚(サバ、ニシン、サケ、マグロなど)、キウイ、ナッツ(亜麻の種子、くるみ)などに多く、オメガ6脂肪酸は、種子やナッツのほか、ひまわり、コーン、大豆、ごまなどから抽出された油に多く含まれている。

 脳によい栄養素には、抗酸化物質として知られる分子のグループもある。抗酸化物質は、何種類かのビタミンにも含まれている。

 脳は、フリーラジカルと呼ばれる帯電した分子が引き起こす酸化ダメージの影響をきわめて受けやすい。フリーラジカルは、脳細胞そのものを傷つけるだけでなく、細胞内のDNAにもダメージを与える。抗酸化物質にはフリーラジカルの消去を助ける働きがあり、フリーラジカルによる脳へのダメージを防ぐことができる。

 抗酸化物質には、ほうれんそうやブロッコリー、芋などに含まれるα リポ酸、植物油やナッツ、緑の葉野菜に含まれるビタミンE、柑橘類や野菜に含まれるビタミンCなどがある。ベリー類は強い抗酸化力で知られているが、多種類ある成分のなかのなにが認知力に影響しているかはあきらかになっていない。

 脳機能への肯定的な影響を期待できることから、どんな食品が抗酸化力に優れているかが広く知られるようになっている。野菜のうちでも、とくに緑の葉野菜をたくさん、フルーツはそれより少なめに摂ることが認知力の低下率を抑え、認知症になるリスクを低下させることがわかっている。

 しかし、2010年の研究によって、サプリメントのかたちで抗酸化物質を摂っても認知力には影響を与えないこともあきらかになっている。

サプリメントは良い? 悪い? 効果はない?

 脳に良いといわれるサプリメントを買おうと考える日が、あなたにも来るかもしれない。確かに、すべての重要な栄養素を食事から摂るのはむずかしい。サプリメントは、ある個別の栄養素が不足し、その欠乏が認められるときに価値を持つものだが、脳のカテゴリーでもっとも購入されるのは、記憶力や〝ブレインパワー〞をアップさせると主張する類いのハーブやビタミンのサプリメントだ。

 しかし、現在までに、プラセボ効果以上に認知機能を向上させたり、認知力低下を緩和したり、アルツハイマー病の発症を延期させたりするサプリメントは現れていない。国立衛生研究所が2010年に報告したメタ分析のなかにイチョウ葉エキスに関するものがある。そして、イチョウ葉エキスにはアルツハイマー病になるリスクを低下させる働きがないことが厳密な研究結果によって示されている。実際、最近の研究結果のほとんどが、入手が容易で、記憶力を向上させることで知られたこのサプリメントの効果を否定する内容になっている。

 たとえば、認知力が健常である75歳以上の2587人を対象にした無作為化比較対照研究がある。120ミリグラムのイチョウ葉エキスを日に2回飲んでもらったものだが、認知症の発生率を低下させる効果を確認することはできなかった。別の研究で、認知的に健常な人と軽度認知障害を持つ人にイチョウ葉エキス120ミリグラムを日に2回飲んでもらったものがある。その後の認知症の出現頻度を調べたが、出現率が低下しないことが立証されている。ほかの臨床試験では、3069人の被験者に120ミリグラムのイチョウ葉エキスを日に2回、平均6年間にわたって飲んでもらっている。ここでも、認知的に健常であっても、軽度認知障害を持っていても、高齢者(72~96歳)の認知力低下を食い止める効果は少ないという結果になった。

 同様に、ビタミンB12、E、C、ベータカロテンをサプリメントのかたちで摂ってもアルツハイマー病になるリスクや認知力が低下するリスクを小さくする効果がないことを、相当数の研究結果が示している。葉酸サプリメントだけにアルツハイマー病のリスクを低下させる可能性が見られるが、認知力そのものの低下を軽減する効果は確認されていない。

 ハーブのサプリメントに注意したいほかの理由として、別の処方薬や市販薬の効力を無効にする副作用が見られる点もある。たとえば、国立衛生研究所のスティーブン・ピスチテッリらは、サプリメントとして売られているセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)とHIV感染の治療に使われるプロテアーゼ抑制剤「インジナビル」の間に著しい薬物相互作用があることをあきらかにしている。セント・ジョーンズ・ワートは、がんの化学療法に使う薬や産児制限薬との間でも好ましくない相互作用を起こす可能性がある。

※抜粋第3回:コーヒー、アルコール、喫煙、肥満......脳によくないのはどれ? はこちら

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