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台湾が中国の不沈空母に? 2つの中国が尖閣を狙う

ニューズウィーク日本版 2015年11月19日 16時0分

 中華民国(台湾)と中華人民共和国の首脳が11月7日にシンガポールで会談する──たまたま沖縄に出張していた私はすぐに台湾に飛んで、一部始終を現地観察することにした。

 台北では、対中国貿易自由化に反対して昨年立ち上がった「ひまわり学生運動(太陽花革命)」のメンバーらによって、「馬習会(マーシーホイ)」開催に抗議するデモが発生。代表者4人が抗議のためにシンガポールに派遣された。

 突如発表された「2つの中国」を代表する馬英九(マー・インチウ)総統と習近平(シー・チンピン)国家主席の会談。共に手柄を立てたいとの思惑で一致したのでは、との分析が多い。馬の中華民国が外交関係を結んでいるのはわずか22カ国。経済的に対中一辺倒が進んだ結果、中国大陸への資本流出が著しく、産業の空洞化をもたらした。雇用も悪化し、就職の見込みのない大学生たちは昨年から嫌中デモを組織して政府に是正を求めている。来年1月の次期総統選挙では野党・民進党候補の当選が確実視されるようになってきた。

 習も多くの難題を抱えている。9月下旬に訪米したものの、外交的な成果は皆無に近い。アメリカから帰って程なくしてイギリスを訪問。バッキンガム宮殿に泊まるなど派手な動きを見せたものの、人民元を欲しがるキャメロン英首相の術中にはまった感は否めない。日本や東南アジア諸国との対立も解決の見通しは立っていない。

 中国国内では株価が続落し、何ら実態を伴わない「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」構想も経済的な効果をもたらしていない。強硬な対外膨張路線は外資の引き揚げを招き、輸出業も凋落が目立つ。

南シナ海領有権の隠し玉

 かつて毛沢東は「われわれの友は世界中にいる」と豪語して、非同盟外交を謳歌した。それに対して習は、世界第2位の経済大国にふさわしい覇権の実現を追求してきた今、世界中に真の友人がいないのに気付いたのかもしれない。馬と習という、2つの中国の2人のプレジデントは外交と経済、政治的な苦境を打破するために、1949年の中台分断後初めて握手したのである。

 2人を一気に引き付けた最大の要因はアメリカのアジアへのリバランス(再均衡)政策の実施だろう。習政権が核心的利益と位置付ける南シナ海の領有をオバマ米大統領は認めなかったどころか、逆に先月下旬に駆逐艦を派遣して中国が建設する人工島の12カイリ(約22キロ)内を航行させた。オランダのハーグにある国際仲裁裁判所もフィリピンの提訴による仲裁手続きを進めることを決め、人工島の建設は領土・領海の主張につながらない可能性が示された。

 中国は国際裁判所の仲裁は認めないと強硬論を唱えながらも、実は台湾に眠る資料をひそかに狙っている。第二次大戦後に日本が南方から撤退した際、中華民国が南シナ海の領有権を主張したことがある。古くからの権利を示すという資料は国共内戦で台湾に持ち去られた。来年の総統選挙で台湾独立派の民進党政権に代わる前に何とか同じ「中華」同士で情報共有できないかと、習は馬の国民党政権にウインクを送っている。

 アメリカにとって、台湾は中国をにらむ「不沈空母」であり続けたが、馬総統在任7年間の対中傾斜政策を見ていると、いつ中国側に寝返るかも不安材料だった。馬も「統一された大中華」の夢を思い描き、その版図には日本の尖閣諸島も含まれている。尖閣諸島の領有権については誰よりも法的に詳しいと自任する馬の主張は日米同盟にも影響を及ぼしかねないと、アメリカは不信感を抱く。不安が的中したのが今回の中台会談だ。馬は国際社会が主張する南シナ海の自由航行よりも、「中華の内海」化を選んだ。

「中台は1つの家族」と習が一方的に親縁関係を強調しても、台湾の民衆は冷めた視線で会談を見ている。ただ、「2つの中国」が「空想上の中華」の利益を優先しようとして実際に動きだすと、国際社会も戦略を練り直さなければならなくなる。


楊海英(本誌コラムニスト)

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