先週末のパリ同時テロを受けて、週明けのアメリカでは「共和党知事によるシリア難民拒否」が大きな議論になっています。全米50州のうち31州の知事が「自分の州ではシリア難民を受け入れない」と表明し、そのうち30州が共和党知事なのですから、これは顕著な動きです。
特に私の住んでいるニュージャージー州では、大統領候補でもあるクリス・クリスティー知事(共和党)が、「5歳の孤児であっても受け入れない」と宣言しており、大変な物議を醸しています。
こうした動きに対して「まず1万人の受け入れを行う」としていたオバマ大統領はカンカンです。「孤児や寡婦にまで恐怖心を抱く心理は異常」、「ISILにとって兵士募集のプロパガンダとして、これ以上に有効なネタがあるだろうか?」と最大限の表現を使って非難しています。
では、どうして共和党はそこまでハッキリ拒否の姿勢を示したのでしょうか?
1番目としては、共和党の外交政策としての「孤立主義」があります。第一次大戦においても、また第二次大戦の際にも、共和党は当初は強硬に「参戦反対」、「局外中立」を叫びましたが、そうした姿勢の背景には「ヨーロッパの混乱に巻き込まれたくない」という強い心情がありました。
今回のパリ同時テロに対する、アメリカの保守の深層心理にはこの伝統が作用していると考えられます。その以前から続いている、南ヨーロッパを中心とした「難民危機」に対してもそうですが、とにかく「欧州のトラブルには距離を置く」というのが、共和党的な孤立主義の原点であり、今回の反応もそこから来ているという考え方をする必要があります。
2番目には、共和党の党是にある「小さな政府論」というのは、徴税や歳出のコンパクト化だけでなく、連邦政府の権限を「小さく」するという政治哲学でもあるからです。ですから、オバマ大統領が連邦の政策として、各州に「難民受け入れ」を「押し付けて」くることに対して、州の「自治権を守る」というのは、共和党にとって自然な反応というわけです。
この点に関しては、国として決定した「戦争難民の受け入れ」を、各州レベルで法律上は「拒否できない」という説もあり、大統領がAPEC首脳会議から戻った後には激しい論争になりそうです。
3番目には、アメリカは自由と民主主義の理想郷だとして、混乱した「旧世界」からの脱出者を救済する存在だという理想主義があるわけですが、その伝統を受け継いでいるのは、どちらかと言えば民主党です。これに対して共和党は、開拓に苦労する中で過酷な自然や先住民との争いなどを通じて「自分たちのコミュニティの安全を守る」ためには自らが武装するなど「生き延びるためにはキレイ事を信じない」という現実主義を伝統として取り込んでいます。
そうした共和党の現実主義は、時に民主党の理想主義と厳しく対立します。今回の論争はその典型例だと言えます。民主党の側では、ヒラリー・クリントン氏に次ぐ「女性政治家の大物」とみなされているエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)が、「共和党知事の難民受け入れ拒否」について上院の審議の中で激しい言葉で非難していましたが、どんなに批判しても哲学が違う以上は合意形成は難しいと思われます。
そして4番目には、何よりも現在の共和党は大統領選へ向けて「ポピュリズムが全開モード」になっているということがあります。「不法移民は全員国外退去」、「メキシコ国境には高い壁を建設」といった極論で人々の心理を煽る「トランプ旋風」が荒れ狂っているからです。共和党の知事たちは、その風に立ち向かうことはできないという判断から「類似のメッセージ発信」をしているのだと考えられます。
一部には、パリの事件を受けて「非常時だから保守の中ではジェブ・ブッシュへの待望論が拡大するだろう」という声もありましたが、現時点では「ジェブ復活の期待は空振り」で、むしろ「事件はトランプに追い風になっている」という兆候もあるぐらいです。
各州レベルに続いて、議会共和党も同様の動きに出ており、就任早々のライアン下院議長は、「議会としてシリア難民受け入れ拒絶の法制化」に着手しました。そんな法案を通しても、オバマ大統領が拒否権を行使をすれば意味はありません。ですが、予算問題で「中道派的な工作」をして右派に微妙な距離感を残した新任の議長としては「自分の真正保守度」をアピールする機会と捉えている気配もあり、大統領との「正面衝突コース」へ向かいつつあるようです。
一方で、フランスのオランド大統領は、シリア領内のISIL拠点であるラッカなどへの集中的な空爆を行い、パリ郊外サンドニでの激しい銃撃戦で容疑者グループを制圧した後に、シリア難民の「3万人受け入れ」を決定したと報じられています。
そのオランド政権の判断の中に重たい「当事者性」を見るのであれば、アメリカの共和党が展開している「難民拒否という政治ゲーム」には、やはり「トラブルから距離を置こうという孤立主義」がクッキリと透けて見えるのです。
特に私の住んでいるニュージャージー州では、大統領候補でもあるクリス・クリスティー知事(共和党)が、「5歳の孤児であっても受け入れない」と宣言しており、大変な物議を醸しています。
こうした動きに対して「まず1万人の受け入れを行う」としていたオバマ大統領はカンカンです。「孤児や寡婦にまで恐怖心を抱く心理は異常」、「ISILにとって兵士募集のプロパガンダとして、これ以上に有効なネタがあるだろうか?」と最大限の表現を使って非難しています。
では、どうして共和党はそこまでハッキリ拒否の姿勢を示したのでしょうか?
1番目としては、共和党の外交政策としての「孤立主義」があります。第一次大戦においても、また第二次大戦の際にも、共和党は当初は強硬に「参戦反対」、「局外中立」を叫びましたが、そうした姿勢の背景には「ヨーロッパの混乱に巻き込まれたくない」という強い心情がありました。
今回のパリ同時テロに対する、アメリカの保守の深層心理にはこの伝統が作用していると考えられます。その以前から続いている、南ヨーロッパを中心とした「難民危機」に対してもそうですが、とにかく「欧州のトラブルには距離を置く」というのが、共和党的な孤立主義の原点であり、今回の反応もそこから来ているという考え方をする必要があります。
2番目には、共和党の党是にある「小さな政府論」というのは、徴税や歳出のコンパクト化だけでなく、連邦政府の権限を「小さく」するという政治哲学でもあるからです。ですから、オバマ大統領が連邦の政策として、各州に「難民受け入れ」を「押し付けて」くることに対して、州の「自治権を守る」というのは、共和党にとって自然な反応というわけです。
この点に関しては、国として決定した「戦争難民の受け入れ」を、各州レベルで法律上は「拒否できない」という説もあり、大統領がAPEC首脳会議から戻った後には激しい論争になりそうです。
3番目には、アメリカは自由と民主主義の理想郷だとして、混乱した「旧世界」からの脱出者を救済する存在だという理想主義があるわけですが、その伝統を受け継いでいるのは、どちらかと言えば民主党です。これに対して共和党は、開拓に苦労する中で過酷な自然や先住民との争いなどを通じて「自分たちのコミュニティの安全を守る」ためには自らが武装するなど「生き延びるためにはキレイ事を信じない」という現実主義を伝統として取り込んでいます。
そうした共和党の現実主義は、時に民主党の理想主義と厳しく対立します。今回の論争はその典型例だと言えます。民主党の側では、ヒラリー・クリントン氏に次ぐ「女性政治家の大物」とみなされているエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)が、「共和党知事の難民受け入れ拒否」について上院の審議の中で激しい言葉で非難していましたが、どんなに批判しても哲学が違う以上は合意形成は難しいと思われます。
そして4番目には、何よりも現在の共和党は大統領選へ向けて「ポピュリズムが全開モード」になっているということがあります。「不法移民は全員国外退去」、「メキシコ国境には高い壁を建設」といった極論で人々の心理を煽る「トランプ旋風」が荒れ狂っているからです。共和党の知事たちは、その風に立ち向かうことはできないという判断から「類似のメッセージ発信」をしているのだと考えられます。
一部には、パリの事件を受けて「非常時だから保守の中ではジェブ・ブッシュへの待望論が拡大するだろう」という声もありましたが、現時点では「ジェブ復活の期待は空振り」で、むしろ「事件はトランプに追い風になっている」という兆候もあるぐらいです。
各州レベルに続いて、議会共和党も同様の動きに出ており、就任早々のライアン下院議長は、「議会としてシリア難民受け入れ拒絶の法制化」に着手しました。そんな法案を通しても、オバマ大統領が拒否権を行使をすれば意味はありません。ですが、予算問題で「中道派的な工作」をして右派に微妙な距離感を残した新任の議長としては「自分の真正保守度」をアピールする機会と捉えている気配もあり、大統領との「正面衝突コース」へ向かいつつあるようです。
一方で、フランスのオランド大統領は、シリア領内のISIL拠点であるラッカなどへの集中的な空爆を行い、パリ郊外サンドニでの激しい銃撃戦で容疑者グループを制圧した後に、シリア難民の「3万人受け入れ」を決定したと報じられています。
そのオランド政権の判断の中に重たい「当事者性」を見るのであれば、アメリカの共和党が展開している「難民拒否という政治ゲーム」には、やはり「トラブルから距離を置こうという孤立主義」がクッキリと透けて見えるのです。