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アップル発、金融業界の大異変

ニューズウィーク日本版 2015年11月20日 13時0分

 音楽の楽しみ方や人と人とのコミュニケーションに次々と革命を起こしてきたアップルが、お金の使い方も変えようとしているらしい。次に狙うのは、IT技術を使った金融サービス「フィンテック」(金融と技術を組み合わせた造語)だ。

 過去にもさまざまな業界の勢力地図を塗り替えてきたアップルのこと。本気になれば、既存の銀行やカード会社にとっては大きな脅威となるだろう。

 iPhoneさえあれば、友達に借金を返すのも祖国の家族へ送金するのも簡単。そんな個人間の決済サービスを開始するために、アップルが複数の大手銀行と交渉に入ったと報じられた。事実ならばグーグルのアンドロイド・ペイやペイパルのベンモなど、既存のサービスと競合することになる(報道を受けてペイパルの株価は急落した)。

 銀行に対する影響はどうか。少なくとも短期的には、アップルとの連携にはプラスの効果がありそうだ。一定の手数料をアップルに支払うことになるとしても、アップルのブランド力で電子決済の取引量が爆発的に増えれば手数料収入は増える。

 だが長期的には、銀行は顧客の資金管理に中心的な役割を果たすという役割をアップルに奪われ、顔の見えない決済エンジンと化す恐れがある。「銀行の扱う決済件数は確実に増える」と市場調査会社ガートナーのアナリスト、ペニー・ギレスピーは言う。「だが顧客との接点や顧客の満足度といった点では、アップルとの競争になる」

 今のところアップルは詳細を明らかにしておらず、どの程度まで銀行と顧客データを共有するつもりかも不明だ。

アプリ決済が主流に?

 預金や融資部門はともかく、銀行が決済業務の「顔」をアップルなど第三者に譲れば、投資商品や住宅ローン、個人年金プランといった多様な金融商品を売る力が損なわれる可能性がある。「アプリへの依存が高まれば高まるほど、消費者は使用しているアプリのブランドを信頼する。金銭の管理を託す相手を決める際にもそれが影響してくる」と、コンサルティング会社アクセンチュアの電子決済専門家サフワン・ザヒールは言う。

 現在のところ、大手銀行が痛手を被っている気配はない。米連邦預金保険公社によれば、今年第2四半期の銀行の利益は前年同期比で7.3%増加しており、増益率は09年以降で最大規模だった。だが銀行は低金利の継続と預金準備率の上昇による利幅の減少を含め、まだいくつかの逆風に直面している。

 銀行が消費者と直接の結び付きを失い、提携会社と手数料を分け合わなくてはならなくなると、利幅はさらに縮小しかねない。しかもアップル以外の脅威も存在する。タクシー配車サービスのウーバーから民泊仲介のAirbnb(エアビーアンドビー)まで、いわゆるシェア・エコノミーの原動力となるアプリの多くは、アプリ上で自動的に支払いを済ませてしまう。

 新しいサービスを開始した場合、アップルはモバイルを個人間決済の主流にできるだろうか。米調査会社アイテ・グループの最近の調査によれば、ベンモを個人対個人の支払いに使っている消費者はわずか5%。約73%が今も現金を使っている。
それでもアップルがiPhoneでスムーズに機能する決済サービスを導入できるなら、モバイル決済は急成長するだろう。「顧客の習慣を変えさせたいなら」と、ガートナーのギレスピーは言う。「勝負どころは操作のスムーズさだ」


[2015.11.24号掲載]
ポール・マクドゥーガル

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