Infoseek 楽天

だから、もう「お金」は必要ない

ニューズウィーク日本版 2015年11月26日 16時8分

「楽天はすでにオールドエコノミー」と、本誌ウェブコラム「経済ニュースの文脈を読む」でお馴染みの評論家であり、億単位の資産を運用する個人投資家でもある加谷珪一氏は言う。インターネット環境の急激な進展により、新しい資本の時代が動き始めており、そこでは稼ぎ方も働き方も、すべてが変わるのだという。

 楽天は設立が1997年で、株式店頭上場が2000年。わずか3年で上場している。今では1万2000人以上(連結)の従業員を抱え、売上高は6000億円弱(2014年)という日本を代表するネット企業だ。これのどこがオールドエコノミーなのか。

 加谷氏によれば、最近では「設立からわずか数か月で企業を売却し、上場することなく巨額の富を生み出すケースが続出している」という。オフィスなどなく、自宅で始めたビジネスというのも珍しくない。もはや会社の体裁を整え、社会的な信用を得る必要さえないのだ。加谷氏が「新しい資本の時代」と呼ぶゆえんである。

 これまでは、お金持ちになれる人は、起業家か投資家と相場が決まっていた。これからの時代には、新しい「富のルール」を知り、情報を制する者だけがお金持ちになれる、と説く加谷氏。11月27日発売の新刊『これからのお金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)では、10年後の未来を前提に、どうすればお金持ちになれるかを分析・解説している。

 ここでは、本書の「第4章 これからの『富のルール』を知る」から一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。第2回は「だから、もう『お金』は必要ない」。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『これからのお金持ちの教科書』
 加谷珪一 著
 CCCメディアハウス


※第1回:ピケティ理論はやがて成立しなくなる はこちら

◇ ◇ ◇

「資本」を持っている人が圧倒的に有利という、過去何百年も続いてきた資本主義のルールが、シェアリングエコノミーの到来によって変わろうとしている。

 多くのビジネスリソースを安価に調達できる環境が整ったことで、アイデアさえあればだれでも事業をスタートできるようになった。これからは複数の仕事や事業を掛け持ちすることがごく当たり前の光景となるだろう。

資金調達から解放される夢のような世界

 ちょっとしたアイデアをベースに、ネット上でサービスを次々に立ち上げるシリアル・アントレプレナー(連続起業家)たちは、事業の立ち上げに際してほとんどお金を使っていない。せいぜい自分の年収分くらいの資金があれば十分である。

 自分が住んでいる家をAirbnbで貸し出している人の初期投資額はゼロだし、ウーバーに登録して自分の車をタクシー代わりにした人も、やはり余分なお金はかけていない。多くの人が追加資金なしで新しいビジネスを始められるのだ。先ほどの例で考えれば、初期投資額ゼロでレストランを開業したようなものである。これは2つの意味でちょっとした革命である。

 ひとつは、資金調達というもっとも面倒な仕事に煩わされずにすむため、起業の効率が格段に向上することである。その結果、副業のハードルが一気に下がることになるだろう。

 ゼロから事業を立ち上げる起業家にとって、資金調達ほど面倒な仕事はない。お金を出すほうは、そうそう簡単にはイエスとは言わない。自分のプランを必死に説明し、何度も何度もぶしつけな質問をされながらもそれに対応し、交渉に交渉を重ねて投資家から出資を取り付ける。筆者自身、起業の経験があるので、資金調達の大変さは実感としてよくわかる。

 銀行からの融資は、そこまでのプランは求められないものの、今度は担保などを要求されてしまう。お金がないから融資を依頼しているのに、事実上、お金を工面するように求められてしまうのだ。

 外部から資金調達を行う起業家の場合、ビジネスの立ち上げ時には、時間と労力の8割をお金の問題につぎ込んでいるはずである。この部分を本業に回すことができれば、どれだけスムーズに事業を立ち上げることができるだろうか。

 新しい資本の時代には、お金をかけず、自分の身ひとつで事業をスタートできる。ダメでも、また別な形でチャレンジすればよいので、成功の確率も上がってくるはずだ。すべての時間を事業に費やせない副業の起業家にとっては最高の環境といってよいだろう。

 もうひとつの革命は、経済全体として資本の役割が低下することである。

 先ほどは、マクロ経済の中で、資本というものがどれだけ大きな役割を果たしているのかについて解説した。大きな初期投資を必要としないビジネスが増えてくれば、社会全体として必要な投資額は減ってくることになる。新しいネット時代においては、資本もしくは資本家の役割は相対的に低下するかもしれない。

 そうなってくると、経済全体としてのお金の動きが大きく変わってくる可能性があるのだ。

市場はすでに、この状況を織り込み始めている

 今、グローバル経済の分野では、慢性的な低金利にどう対処したらよいのか、様々な議論が行われている。

 長期金利は、最終的にはその経済圏の成長率と同じ水準に収束してくることが知られている。全世界的に金利が低い状態が続いているということは、市場は、世界経済についてあまり成長しないと予想していることになる。だが、金利というのは、それだけの要因で決まるものではない。金利はお金を貸し借りする時の利子であり、お金が余っている時には低くなり、お金が足りない時には高くなるという性質もある。

 この原稿を書いている時点において、アメリカを除く各国は量的緩和策を継続しており、世の中は大量のマネーで溢れかえっている。これが低金利に拍車をかけている可能性は高い。しかし、各国の金利があまり上がらないのはそれだけが原因ではないかもしれない。

 市場は、近い将来、それほど多くの資本を必要としなくなる社会が到来することを察知しており、すでにそれを織り込み始めているかもしれないのだ。投資額の減少によって資本が余ることが予想され、それが低金利を引き起こしている可能性がある。

 世界的な貿易の動向にも少し異変が生じている。

 基本的に全世界のGDP(国内総生産)と貿易量(各国の輸出と輸入の総額)は比例しているのだが、このところGDPの成長率に対して、貿易量が相対的に減少している。過去にも同じような局面が何度かあったので、大した意味はない可能性もある。

 だが、先ほどの投資減少と低金利に関する話題と同様、同じ経済規模を維持するのに従来のような物的資源を必要としなくなっており、これが貿易量の相対的な低下につながっている可能性は否定できない。

 経済活動を維持するのに必要となる資本の額が減少すれば、短期的には経済にとってマイナスである。設備投資の金額が減少し、その結果、国民所得も減少する。所得が減少すれば、GDPの成長率も伸び悩むことになる。

 だが長期的にはまた別の変化が生じる可能性もある。

 同じことをより少ない設備で実施できるのであれば、従来の設備の維持に従事していた人材が余剰となる。余った人材は別な産業にシフトすることになり、従来にはなかった製品やサービスがたくさん登場する可能性が見えてくる。画期的な製品やサービスの登場によって、最終的には消費が喚起され、経済規模は再び拡大に向かうかもしれない。

 もしこの効果が本物なのであれば、無数の個人がプチ事業家として振る舞うことのインパクトは、想像以上に大きなものとなるだろう。

 経済学者やエコノミストの中には、全世界的な低金利傾向や成長率の鈍化への対策として、規模の大きい公共事業を復活させるべきと主張する人もいる。

 だが、低金利が構造的な問題に起因するものなのだとすると、従来型の需要に働きかける政策はあまり効果を発揮せず、むしろ新サービスの登場を促す政策を実施したほうが効果的かもしれない。この仮説が正しいかどうかはっきりするのは、そう遠い将来のことではないはずだ。

※第3回:学歴や序列さえも無意味な「新しい平等な社会」へ はこちら

<加谷珪一『図解 お金持ちの教科書』抜粋シリーズ>
ニューストピックス「図解 お金持ちの教科書」


この記事の関連ニュース