今月18日、シリーズ最新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』がついにベールを脱ぐ。宇宙を舞台にした壮大な叙事詩の第1作が世界を驚かせてから38年。シリーズ通算7作目となる『フォースの覚醒』は、前作『エピソード3/シスの復讐』から10年ぶりとなる待望の作品だ。
世界中に熱狂的なファンを持つ『スター・ウォーズ』は、コミックや小説、アニメなどさまざまな形に拡張されてきた。シリーズの世界観を1枚の絵に凝縮させるイラストレーションも、その1つ。その中で、ジョージ・ルーカスの絶大な信頼を得る伝説的存在が、TSUNEO SANDA(三田恒夫)だ。
世界でも数少ないルーカスフィルムの公認イラストレーターの1人として、160点以上の『スター・ウォーズ』作品を描いてきたSANDAに、本誌・安藤智彦が話を聞いた。
――『スター・ウォーズ』とのなれそめは?
アメリカのSF雑誌の表紙や特集ページに作品が採用されたり、『スター・トレック』のポスターアートを手掛けたりしていたとき、たまたま当時の代理人の紹介で参画することになった。あれからもう20年になる。
――新作『フォースの覚醒』は前作からかなり間が空いている。
私は年間10枚以上コンスタントに描いているから、映画の新作が出るかどうかはあまり関係ない。むしろ新しい情報がないほうが自分らしさを出せるし、創作に集中できる。映画が封切られるとイラストより映画に注目が集まってしまう面もある。
――イラストの題材としての『スター・ウォーズ』の魅力は?
もともと好きな映画作品だったので喜んで引き受けたが、最初は資料が少なくて苦労の連続。プレッシャーも大きかった。ルーカスフィルムからの細かい注文に応えるのはしんどい面もあったが、自分の作品が残るなら、という思いで続けた。まさか30年以上続くシリーズになるとは。みんな最初の3部作で完結したと思っていたのでは?
――イラストには独自の解釈を加えているようにみえる。
『スター・ウォーズ』の仕事を始めて7、8年たったあたりで、もっと描きたいという欲求が強くなった。ルーカスフィルムからの発注を待つだけでは、描ける枚数に限界がある。そこで私から『25th Anniversary』のイメージスケッチを提案した。
その後、思い切ってルーカスフィルムを訪問した。運よくジョージ・ルーカスにも会えた。私の絵をコレクションしてくれていたのはうれしかった。結局、ルーカス直々の指名もあって、こちらから作品を提案して描くスタイルに03年から移行できた。
最近はルーカスフィルムからの催促はほとんどなく、着想が生まれ次第どんどん提案している。先方もリスペクトしてくれていて、完成した作品には修正要請を一切してこない。ただし、作品が気に入らなければ受け入れない。とても明快で緊張感のある、私の好きな世界だ。
アクリル絵の具で筆やエアブラシを使って描くのが私のスタイルで、これはずっと変わらない。写真やCGのようなリアルさを強調する、ものすごいテクニックを持った描き手はアメリカなどにたくさんいる。そんな世界で生き残るには、技巧よりも発想力が大事だ。
――確かに、ほかではあまり見ないモチーフが目立つ。
日本の武士の鎧兜(よろいかぶと)を身に着けたダースベイダーのような『スター・ウォーズ』以外の世界との融合や、レイアやアミダラといったヒロインのバストアップのカット、100体以上のキャラクターが一堂に会した一枚など、ありそうでなかったイメージを掘り起こすのは楽しい。
黒澤映画や時代劇テイストを好むルーカスの眼鏡にもかなったようだ。屏風(びょうぶ)絵シリーズの『Butterfly』などは、ルーカスに日本文化への憧憬があったからこそ受け入れられたと思う。
――発想のポイントは?
普通にやってしまうと面白みもオリジナリティーも生まれない。自分の角度から世界をつくり上げ、『スター・ウォーズ』の要素を練り直す。ただし、本道から外れ過ぎないさじ加減も忘れてはならない。一見外れているようでいて、よく見ると「アリだよね」という世界を構築できるかどうか。『スター・ウォーズ』の根本的な世界観をいったん咀嚼した上で、許容範囲のギリギリまで攻めていくイメージで描いている。
――新作『フォースの覚醒』をどう評価する?
実は私が新作に関して把握している情報は、公式サイトや関連書・雑誌で明らかになっている内容と同じだ。映画を公開前に見る機会はない。これまでもそうだった。
――見ていない映画についてイラストを描くのは大変そうだ。
自分で集めた資料を基にコンセプトを練り、描いていく。それだけだ。
もっとも今までのファンと、これからのファンでは見えている世界が違うはず。新作からのファンでも理解できる旧作のイラスト、逆に既存のファンにとっても違和感のない新作のイラスト。チャレンジだが、そうした橋渡しが可能なのもイラストレーションの醍醐味ではないか。
――どんな工夫を?
『エピソード1』から『エピソード6』まではダースベイダーことアナキン・スカイウォーカーの物語だった。彼自身、そして彼のフォースの誕生から死までがつづられている。『エピソード7』で始まる新たな3部作では、彼の物語が次の世代へ受け継がれていくストーリーが柱になると聞いている。ニューズウィークの『スター・ウォーズ』特別号の表紙に提供したイラストでも、そのニュアンスが感じられるように心掛けた(日本版ムックは12月9日発売)。
ニューズウィークの『スター・ウォーズ』特別号の表紙で過去6部作と新作のキャラクターが一堂に会している(下2点は制作過程のラフスケッチ) ILLUSTRATION BY TSUNEO SANDA
ILLUSTRATION BY TSUNEO SANDA
ILLUSTRATION BY TSUNEO SANDA
――確かに、ダースベイダーを下敷きに新旧のキャラクターが並んでいる。
過去の6作品のキャラクターと新作のキャラクターが1枚の絵に集合したカットは、おそらく初めてだ。旧作から新作へ『スター・ウォーズ』の遺伝子が受け継がれていくイメージを訴求したつもりだ。
ラフスケッチの段階では、旧作のキャラクターが並ぶ上半分をモノクロ調にして色を落とし、手前に並ぶ新作のキャラクターが色鮮やかになっていくグラデーション調の色合いを考えていた。最終的にはフルカラーのイラストになったが、手前になるほど色調が鮮やかになるバランスは残している。
――最後に、あなたにとって『スター・ウォーズ』とは?
最初は「自分の作品が残ればいいなあ」という気持ちで始めた仕事だったが、今やライフワークになっている。100年後に『スター・ウォーズ』という作品を振り返ったとき、そういえばイラストを描いているSANDAというアーティストがいたな、と思い出してもらえれば最高だ。
そのために今後も、絵という手法を通して『スター・ウォーズ』の世界の新たな可能性を開いていく。掘っても掘っても底の見えない壮大な物語とずっと向き合っていきたい。
※公式サイトhttp://www.sandaworld.comでは他の作品も公開している。
※イラストギャラリー:TSUNEO SANDA『スター・ウォーズ』アートの世界 はこちら
ニューズウィーク日本版SPECIAL EDITION
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[2015.12.15号掲載]
安藤智彦(本誌記者)
世界中に熱狂的なファンを持つ『スター・ウォーズ』は、コミックや小説、アニメなどさまざまな形に拡張されてきた。シリーズの世界観を1枚の絵に凝縮させるイラストレーションも、その1つ。その中で、ジョージ・ルーカスの絶大な信頼を得る伝説的存在が、TSUNEO SANDA(三田恒夫)だ。
世界でも数少ないルーカスフィルムの公認イラストレーターの1人として、160点以上の『スター・ウォーズ』作品を描いてきたSANDAに、本誌・安藤智彦が話を聞いた。
――『スター・ウォーズ』とのなれそめは?
アメリカのSF雑誌の表紙や特集ページに作品が採用されたり、『スター・トレック』のポスターアートを手掛けたりしていたとき、たまたま当時の代理人の紹介で参画することになった。あれからもう20年になる。
――新作『フォースの覚醒』は前作からかなり間が空いている。
私は年間10枚以上コンスタントに描いているから、映画の新作が出るかどうかはあまり関係ない。むしろ新しい情報がないほうが自分らしさを出せるし、創作に集中できる。映画が封切られるとイラストより映画に注目が集まってしまう面もある。
――イラストの題材としての『スター・ウォーズ』の魅力は?
もともと好きな映画作品だったので喜んで引き受けたが、最初は資料が少なくて苦労の連続。プレッシャーも大きかった。ルーカスフィルムからの細かい注文に応えるのはしんどい面もあったが、自分の作品が残るなら、という思いで続けた。まさか30年以上続くシリーズになるとは。みんな最初の3部作で完結したと思っていたのでは?
――イラストには独自の解釈を加えているようにみえる。
『スター・ウォーズ』の仕事を始めて7、8年たったあたりで、もっと描きたいという欲求が強くなった。ルーカスフィルムからの発注を待つだけでは、描ける枚数に限界がある。そこで私から『25th Anniversary』のイメージスケッチを提案した。
その後、思い切ってルーカスフィルムを訪問した。運よくジョージ・ルーカスにも会えた。私の絵をコレクションしてくれていたのはうれしかった。結局、ルーカス直々の指名もあって、こちらから作品を提案して描くスタイルに03年から移行できた。
最近はルーカスフィルムからの催促はほとんどなく、着想が生まれ次第どんどん提案している。先方もリスペクトしてくれていて、完成した作品には修正要請を一切してこない。ただし、作品が気に入らなければ受け入れない。とても明快で緊張感のある、私の好きな世界だ。
アクリル絵の具で筆やエアブラシを使って描くのが私のスタイルで、これはずっと変わらない。写真やCGのようなリアルさを強調する、ものすごいテクニックを持った描き手はアメリカなどにたくさんいる。そんな世界で生き残るには、技巧よりも発想力が大事だ。
――確かに、ほかではあまり見ないモチーフが目立つ。
日本の武士の鎧兜(よろいかぶと)を身に着けたダースベイダーのような『スター・ウォーズ』以外の世界との融合や、レイアやアミダラといったヒロインのバストアップのカット、100体以上のキャラクターが一堂に会した一枚など、ありそうでなかったイメージを掘り起こすのは楽しい。
黒澤映画や時代劇テイストを好むルーカスの眼鏡にもかなったようだ。屏風(びょうぶ)絵シリーズの『Butterfly』などは、ルーカスに日本文化への憧憬があったからこそ受け入れられたと思う。
――発想のポイントは?
普通にやってしまうと面白みもオリジナリティーも生まれない。自分の角度から世界をつくり上げ、『スター・ウォーズ』の要素を練り直す。ただし、本道から外れ過ぎないさじ加減も忘れてはならない。一見外れているようでいて、よく見ると「アリだよね」という世界を構築できるかどうか。『スター・ウォーズ』の根本的な世界観をいったん咀嚼した上で、許容範囲のギリギリまで攻めていくイメージで描いている。
――新作『フォースの覚醒』をどう評価する?
実は私が新作に関して把握している情報は、公式サイトや関連書・雑誌で明らかになっている内容と同じだ。映画を公開前に見る機会はない。これまでもそうだった。
――見ていない映画についてイラストを描くのは大変そうだ。
自分で集めた資料を基にコンセプトを練り、描いていく。それだけだ。
もっとも今までのファンと、これからのファンでは見えている世界が違うはず。新作からのファンでも理解できる旧作のイラスト、逆に既存のファンにとっても違和感のない新作のイラスト。チャレンジだが、そうした橋渡しが可能なのもイラストレーションの醍醐味ではないか。
――どんな工夫を?
『エピソード1』から『エピソード6』まではダースベイダーことアナキン・スカイウォーカーの物語だった。彼自身、そして彼のフォースの誕生から死までがつづられている。『エピソード7』で始まる新たな3部作では、彼の物語が次の世代へ受け継がれていくストーリーが柱になると聞いている。ニューズウィークの『スター・ウォーズ』特別号の表紙に提供したイラストでも、そのニュアンスが感じられるように心掛けた(日本版ムックは12月9日発売)。
ニューズウィークの『スター・ウォーズ』特別号の表紙で過去6部作と新作のキャラクターが一堂に会している(下2点は制作過程のラフスケッチ) ILLUSTRATION BY TSUNEO SANDA
ILLUSTRATION BY TSUNEO SANDA
ILLUSTRATION BY TSUNEO SANDA
――確かに、ダースベイダーを下敷きに新旧のキャラクターが並んでいる。
過去の6作品のキャラクターと新作のキャラクターが1枚の絵に集合したカットは、おそらく初めてだ。旧作から新作へ『スター・ウォーズ』の遺伝子が受け継がれていくイメージを訴求したつもりだ。
ラフスケッチの段階では、旧作のキャラクターが並ぶ上半分をモノクロ調にして色を落とし、手前に並ぶ新作のキャラクターが色鮮やかになっていくグラデーション調の色合いを考えていた。最終的にはフルカラーのイラストになったが、手前になるほど色調が鮮やかになるバランスは残している。
――最後に、あなたにとって『スター・ウォーズ』とは?
最初は「自分の作品が残ればいいなあ」という気持ちで始めた仕事だったが、今やライフワークになっている。100年後に『スター・ウォーズ』という作品を振り返ったとき、そういえばイラストを描いているSANDAというアーティストがいたな、と思い出してもらえれば最高だ。
そのために今後も、絵という手法を通して『スター・ウォーズ』の世界の新たな可能性を開いていく。掘っても掘っても底の見えない壮大な物語とずっと向き合っていきたい。
※公式サイトhttp://www.sandaworld.comでは他の作品も公開している。
※イラストギャラリー:TSUNEO SANDA『スター・ウォーズ』アートの世界 はこちら
ニューズウィーク日本版SPECIAL EDITION
「STAR WARS 『フォースの覚醒』を導いた
スター・ウォーズの伝説」
CCCメディアハウス
【限定プレゼント】
ルーカスフィルム公認のアーティスト、TSUNEO SANDA描き下ろし本誌表紙の「拡大版豪華ポスター(シリアルナンバー入り)」を限定100名様に!
[2015.12.15号掲載]
安藤智彦(本誌記者)