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適度なアルコールは初期アルツハイマー病に効果的?

ニューズウィーク日本版 2015年12月11日 16時10分

 飲酒の習慣が脳神経にダメージを与え、脳の機能や行動に悪影響を与えることはよく知られている。例えば、アルコールは偏頭痛を引き起こしたり、鬱病や不安症状を悪化させたりする。それだけに、適量のアルコールなら初期のアルツハイマー病に有効だという新たな研究結果は驚きだ。

 今週、医療専門誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」で発表された研究によると、認知症とアルツハイマー病の患者のうち軽い飲酒習慣がある人は、病気の初期段階で死亡する確率が低かった。ビールをジョッキ1杯、またはワインならグラス1杯程度のアルコールを飲む患者は、まったくか、またはごく少量しかアルコールを飲まない患者に比べて、病気の初期段階で77%も死亡率が低かった。

 逆にそれ以上の量のアルコールを摂取する患者は、まったく飲まない患者と同様に死亡率が高かった。適量のアルコールを飲む患者だけが、飲酒の恩恵を受けていることになる。この研究調査は、アルツハイマー病の初期患者321人を対象に実施された。

 効果の理由ははっきりしていないが、研究者はいくつかの仮説を提示している。その1つは、健康な人が適量のアルコールを飲むと健康増進効果があるため、これが初期患者にも効果があるというもの。

 また、飲酒は社会的な行動なので、飲酒の機会に他の人との交流を持つ。これが孤独や鬱状態を緩和し、高齢者の死亡率の低下につながっているという説もあった。

 もっと医学的な効果が出ている可能性もある。

 適量の飲酒は、多くの高齢者の死亡原因となっている循環器系疾患のリスクを低下させることがわかっている。また別の研究では、飲酒が免疫システムを活性化し、体内の炎症を抑える効果があることがわかっている。アルコールには、炭水化物の消化吸収を助ける効果も確認されている。

 現在多くの高齢者医療の専門家は、アルツハイマー病患者に対してアルコールの摂取を控えるよう勧めている。認知症状を悪化させるという研究結果が出ているためだ。さらにアルコールは記憶障害とも関連があるとされている。

 脳神経科学の専門誌「ニューロロジー」に掲載されたリポートによると、7000人を対象に実施した研究調査から、1日にグラス2杯半以上のアルコールを摂取する人は、6年以内に記憶の消失が加速する可能性があることがわかっている。

 今回の研究を担当した研究者は、アルコールとアルツハイマー病の関係を解明するにはさらに研究が必要だと述べている。今回の研究は、あくまでもアルツハイマー病患者の飲酒行動を観察しただけに過ぎないからだ。医学研究としては、サンプル規模も比較的小さい。

「この研究結果だけに基づいて、アルツハイマー病患者にアルコールの摂取を勧めたり、また反対に禁酒を勧めたりすることはできない」と、研究者は結論で述べている。「この分野のさらなる研究が必要だろう。特に興味深いのは、中期症状の患者の認知機能の低下や症状の進行に関してアルコールがどのような影響を及ぼすか、という点だ」

ジェシカ・ファーガー

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