世界歴代映画興行収入の1位『アバター』と同2位『タイタニック』を監督し、SFアドベンチャーとスペクタクルドラマを極めた巨匠ジェームズ・キャメロンが惚れ込み、映画化権を獲得した日本のSF漫画があるのをご存知だろうか。それが、「ビジネスジャンプ」(集英社)で1990年から1995年にかけて連載された、木城ゆきと作のSFサイバーアクション『銃夢』だ。
未来の世界、巨大な空中都市ザレムの真下で、ザレムから排出されるスクラップを再利用して人々が生きる「クズ鉄町」が舞台。サイボーグ専門医のイドが、スクラップの山から半壊状態で記憶喪失のサイボーグ少女を発見し、失われていたボディーパーツを取り付け、ガリィと名づけて育てる。ガリィはやがて、凶悪犯罪者を狩り賞金を稼ぐハンターウォリアーとなり、次々に現れる強敵と闘いながら、徐々に記憶を取り戻していく――。
『銃夢』の壮大な世界観は、続編『銃夢 LastOrder』(集英社「ウルトラジャンプ」で2000〜2011年、講談社「イブニング」で2011〜2014年連載)、シリーズ最終章『銃夢火星戦記』(「イブニング」で2014年から連載中)へ引き継がれている。『銃夢』は海外での人気も高く、ゆきと氏の実弟でアシスタントを務める木城ツトム氏によると、まず英語版『Battle Angel Alita』の出版が1992年頃から始まり、おそらく8カ国以上で外国語版が発行されたという。
キャメロンによる映画化権の獲得は、後述のゆきと氏自身のコメントにあるように、2000年頃のこと。だがその後、進展についてのニュースはほとんどなかった。2009年に『アバター』のプロモーションでプロデューサーのジョン・ランドー(キャメロン作品の製作会社ライトストーム・エンタテインメントに所属する、キャメロンの長年の盟友)が来日した際、筆者は別媒体の取材で『銃夢』映画化の進捗について質問したが、「公開日に関してはまだお知らせできない」「近い将来に完成させることができれば」というあいまいな回答しか得られなかった。
しかしここに来てようやく、プロジェクトが本格的に動き出したようだ。米バラエティは10月の記事で、20世紀フォックスがキャメロンとランドーを『銃夢』実写映画の製作陣に据え、『デスペラード』『シン・シティ』などで知られるロバート・ロドリゲス監督にメガホンを取らせることを決めたと報じた。キャメロンは現在『アバター』続編3作のプリプロダクションに入っているといい、『銃夢』映画化を進めるには信頼できる他の監督を雇うのが現実的な判断だろう。
そこで今回、原作者の木城ゆきと氏にメールインタビューを申し込み、『銃夢』の着想や、実写映画化にかける期待、現実のサイボーグやロボットの技術についての印象などを尋ねた。
――『銃夢』の「闘うサイボーグ少女」という基本コンセプトは、最初どのように思いついたのでしょう? 過去の作品などで参考にしたもの、ヒントになったものなどはありましたか?
80年代前半のころから、サイボーグテーマに新たな可能性を感じて、いくつかの短編を描いていました。しかしそれらの主人公はみな男性でした。
89年に描いた絵コンテに女性サイボーグ警官が脇役で登場しました。これが「ガリィ」の初登場です。この絵コンテ作品は結局ボツになったのですが、脇役のガリィに当時の編集者が注目して、その人に勧められて、90年にガリィが主人公の短編の絵コンテを描きました。これが現在の『銃夢』の直接のルーツです。
『銃夢』のサイボーグのビジュアルイメージは、70年代におもちゃメーカーのタカラ社が発売していた「変身サイボーグ1号」シリーズが大きく影響しています。
――本作の独創的なビジュアルや世界観は、英語版などの出版を通じて海外の作品にも影響を与えてきたように思います。映画に限ってみても、『アンダーワールド』(2003)でケイト・ベッキンセイルが演じたヴァンパイアハンターの外見、『エリジウム』(2013)の地上のスラム街と天空に浮かぶ富裕層の人工都市という世界観などが挙げられますが、これらの作品についてどのような印象をお持ちですか。
僕も過去のたくさんの作品に影響されて育ってきたので、僕の作品に若い世代の人達が影響を受けているとしたら喜ばしいことです。
――ハリウッド実写映画化についてうかがいます。ジェームズ・キャメロン側による映画化権の獲得はいつ正式に決まったのでしょう?
たしか2000年の暮れのことだったと思います。
――その後キャメロンは、のちに世界興収歴代1位となるSF超大作『アバター』(2009)を監督したこともあり、『銃夢』映画化のプロジェクトの進展は一向に伝わってきませんでしたが、今年10月にようやく、キャメロン製作、ロバート・ロドリゲス監督という布陣で本格的に動き出すというニュースが届きました。まずロドリゲス監督について、もし好きな作品があれば挙げていただいたうえで、作風の印象などをお聞かせください。
『デスペラード』『シン・シティ』『グラインドハウス』『マチェーテ』などが大好きです。過激な暴力描写にもユーモアを忘れないところがいいですね。
――キャメロン製作、ロドリゲス監督のタッグに決まったと聞いて、原作者としてはどんな映画になることを期待しますか?
正直言ってこの二人の組み合わせは予想していなかったのでびっくりです。きっと最高に面白い映画を作ってくれると思っています。
――連載開始の1990年から四半世紀が過ぎて、現実のサイボーグ(義手・義足やパワードスーツを含む広義の意味合いで)やロボットの技術が大きく進歩し、さまざまな分野で普及しつつあります。現在のサイボーグやロボットの技術について、どのような印象をお持ちですか。また、もしご自身で使うとしたら、どのような用途・機能を望みますか?
いままでフィクションの中でしかなかったサイボーグやロボット技術がどんどん実用化されようとしていて、すごくワクワクする時代ですね。
ロボットスーツとか買える値段になったら一着ほしいです。脳波で動く義手を4本ぐらい増設して、ものすごい速度で漫画が描けたらいいなぁと思っています。
参考サイト:
木城ゆきと公式サイト・ゆきとぴあ
[執筆者]
高森郁哉
米国遊学と海外出張の経験から英日翻訳者に。ITニュースサイトでのコラム執筆を機にライター業も。主な関心対象は映画、音楽、環境、エネルギー。
高森郁哉(翻訳者、ライター)
未来の世界、巨大な空中都市ザレムの真下で、ザレムから排出されるスクラップを再利用して人々が生きる「クズ鉄町」が舞台。サイボーグ専門医のイドが、スクラップの山から半壊状態で記憶喪失のサイボーグ少女を発見し、失われていたボディーパーツを取り付け、ガリィと名づけて育てる。ガリィはやがて、凶悪犯罪者を狩り賞金を稼ぐハンターウォリアーとなり、次々に現れる強敵と闘いながら、徐々に記憶を取り戻していく――。
『銃夢』の壮大な世界観は、続編『銃夢 LastOrder』(集英社「ウルトラジャンプ」で2000〜2011年、講談社「イブニング」で2011〜2014年連載)、シリーズ最終章『銃夢火星戦記』(「イブニング」で2014年から連載中)へ引き継がれている。『銃夢』は海外での人気も高く、ゆきと氏の実弟でアシスタントを務める木城ツトム氏によると、まず英語版『Battle Angel Alita』の出版が1992年頃から始まり、おそらく8カ国以上で外国語版が発行されたという。
キャメロンによる映画化権の獲得は、後述のゆきと氏自身のコメントにあるように、2000年頃のこと。だがその後、進展についてのニュースはほとんどなかった。2009年に『アバター』のプロモーションでプロデューサーのジョン・ランドー(キャメロン作品の製作会社ライトストーム・エンタテインメントに所属する、キャメロンの長年の盟友)が来日した際、筆者は別媒体の取材で『銃夢』映画化の進捗について質問したが、「公開日に関してはまだお知らせできない」「近い将来に完成させることができれば」というあいまいな回答しか得られなかった。
しかしここに来てようやく、プロジェクトが本格的に動き出したようだ。米バラエティは10月の記事で、20世紀フォックスがキャメロンとランドーを『銃夢』実写映画の製作陣に据え、『デスペラード』『シン・シティ』などで知られるロバート・ロドリゲス監督にメガホンを取らせることを決めたと報じた。キャメロンは現在『アバター』続編3作のプリプロダクションに入っているといい、『銃夢』映画化を進めるには信頼できる他の監督を雇うのが現実的な判断だろう。
そこで今回、原作者の木城ゆきと氏にメールインタビューを申し込み、『銃夢』の着想や、実写映画化にかける期待、現実のサイボーグやロボットの技術についての印象などを尋ねた。
――『銃夢』の「闘うサイボーグ少女」という基本コンセプトは、最初どのように思いついたのでしょう? 過去の作品などで参考にしたもの、ヒントになったものなどはありましたか?
80年代前半のころから、サイボーグテーマに新たな可能性を感じて、いくつかの短編を描いていました。しかしそれらの主人公はみな男性でした。
89年に描いた絵コンテに女性サイボーグ警官が脇役で登場しました。これが「ガリィ」の初登場です。この絵コンテ作品は結局ボツになったのですが、脇役のガリィに当時の編集者が注目して、その人に勧められて、90年にガリィが主人公の短編の絵コンテを描きました。これが現在の『銃夢』の直接のルーツです。
『銃夢』のサイボーグのビジュアルイメージは、70年代におもちゃメーカーのタカラ社が発売していた「変身サイボーグ1号」シリーズが大きく影響しています。
――本作の独創的なビジュアルや世界観は、英語版などの出版を通じて海外の作品にも影響を与えてきたように思います。映画に限ってみても、『アンダーワールド』(2003)でケイト・ベッキンセイルが演じたヴァンパイアハンターの外見、『エリジウム』(2013)の地上のスラム街と天空に浮かぶ富裕層の人工都市という世界観などが挙げられますが、これらの作品についてどのような印象をお持ちですか。
僕も過去のたくさんの作品に影響されて育ってきたので、僕の作品に若い世代の人達が影響を受けているとしたら喜ばしいことです。
――ハリウッド実写映画化についてうかがいます。ジェームズ・キャメロン側による映画化権の獲得はいつ正式に決まったのでしょう?
たしか2000年の暮れのことだったと思います。
――その後キャメロンは、のちに世界興収歴代1位となるSF超大作『アバター』(2009)を監督したこともあり、『銃夢』映画化のプロジェクトの進展は一向に伝わってきませんでしたが、今年10月にようやく、キャメロン製作、ロバート・ロドリゲス監督という布陣で本格的に動き出すというニュースが届きました。まずロドリゲス監督について、もし好きな作品があれば挙げていただいたうえで、作風の印象などをお聞かせください。
『デスペラード』『シン・シティ』『グラインドハウス』『マチェーテ』などが大好きです。過激な暴力描写にもユーモアを忘れないところがいいですね。
――キャメロン製作、ロドリゲス監督のタッグに決まったと聞いて、原作者としてはどんな映画になることを期待しますか?
正直言ってこの二人の組み合わせは予想していなかったのでびっくりです。きっと最高に面白い映画を作ってくれると思っています。
――連載開始の1990年から四半世紀が過ぎて、現実のサイボーグ(義手・義足やパワードスーツを含む広義の意味合いで)やロボットの技術が大きく進歩し、さまざまな分野で普及しつつあります。現在のサイボーグやロボットの技術について、どのような印象をお持ちですか。また、もしご自身で使うとしたら、どのような用途・機能を望みますか?
いままでフィクションの中でしかなかったサイボーグやロボット技術がどんどん実用化されようとしていて、すごくワクワクする時代ですね。
ロボットスーツとか買える値段になったら一着ほしいです。脳波で動く義手を4本ぐらい増設して、ものすごい速度で漫画が描けたらいいなぁと思っています。
参考サイト:
木城ゆきと公式サイト・ゆきとぴあ
[執筆者]
高森郁哉
米国遊学と海外出張の経験から英日翻訳者に。ITニュースサイトでのコラム執筆を機にライター業も。主な関心対象は映画、音楽、環境、エネルギー。
高森郁哉(翻訳者、ライター)