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【再録】スター・ウォーズから始まったハリウッドの凋落

ニューズウィーク日本版 2015年12月16日 18時3分

 ハリウッドを駄目にしたのは、ほかでもない『スター・ウォーズ』だ――逆説的に聞こえるかもしれないが、映画関係者の間にはそういう声が少なくない。

 たとえばユナイテッド・アーチストの元製作局長スティーブン・バックは、「個人的には大ファンだが」と言いながらも、『スター・ウォーズ』のヒットを「業界最悪の出来事」と呼ぶ。

 バックによれば、『スター・ウォーズ』の成功はハリウッドに経済的な連鎖反応を起こし、意欲的で斬新な映画は絶滅の崖っぷちに追いやられたのだ。

『スター・ウォーズ』もルーカスも、1977年当時のハリウッドでは決して主流ではなかった。むしろ当時の権威に対する挑戦者とみなされていた。

 そしてルーカスはこの挑戦に勝ち、旧世代の権威以上に恐ろしい「帝国」を築き上げた。質より量の超大作志向のハリウッドである。

 同シリーズの『帝国の逆襲』と『ジェダイの帰還』の脚本を担当したローレンス・カスダンは言う。「1本でも当たればすごいことに気づいた映画会社は、これに味をしめて路線を変更、ホームランねらいの大振りばかりするようになった」。そして小粒な好打者の出番はなくなったのである。

ストーリーよりアクション

 なにしろ1つの作品で2億ドルもの収入を見込めるのだ。こうなると、世界をまたにかける多国籍企業が映画会社に食指を動かすのも当然だ。

「それが悲惨な時代の始まりだった」と、カスダン。「以後、ハリウッド映画の質は着実に低下してきた」

 作品の中身を決めるのは、もう監督ではない。映画会社のマーケティング部門だ。主流のジャンルや観客層も一変(今はティーン向けのアクション映画が主流)、映画の収益構造も変わった(キャラクターグッズの売れる映画がよい映画とされる)。

 映画の売り方が変われば、映画の作り方も変わる。中身よりも見せ方、ストーリーよりアクション、人生の複雑さよりマンガ的な単純さ、何がなんでも特殊効果。これがルーカス以後の映画作りである。

 ひとたび若者向けに速くなったテンポは、年々速くなるばかり。スピード最優先の場面展開で、映画はどんどんテレビゲームに似てきた。

 こうして、大人の映画が主役だったハリウッドの黄金時代は幕を閉じた。60年代から70年代にかけて、フランシス・コッポラやマーチン・スコセッシらが生み出してきた深みと苦みのある大人の映画は、もう見られなくなったのである。

 確かにルーカスはハリウッドに、ポストモダンの壮大な叙事詩的映画をもたらしたのかもしれない。だが、このポストモダニズムにはアイロニーが欠けていた。

もはや誰にも止められない

 それは子供のころに見た「罪のない」(したがって考えさせるところのない)映画への郷愁をかきたてる以外のものではなかった。それはいつかレーガン政権の政治的懐古趣味と重なり、ハリウッドには勧善懲悪的な物語があふれはじめた。

 以来、ハリウッドは使い古したモチーフのリサイクルに明け暮れている。『インデペンデンス・デイ』も『ツイスター』も『ミッション・インポッシブル』も、しょせんは古い映画やテレビドラマの焼き直しだ。

 そしてこうした映画のほとんどは、それが「焼き直し」であることを知らない若者にターゲットを絞っている。 

 もちろんルーカスは、ハリウッドが若者向けのアクション映画に侵食されるのを望んでいたわけではない。誰もが素直に楽しめる映画を撮りたかっただけだろう。おかげで、私たちは十分に楽しませてもらった。

 ルーカスが悪いのではない。ルーカスの亜流が奔流となり、誰にも止められないことが問題なのだ。

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