16日、浙江省で開かれた世界インターネット大会で習主席は世界のネット界を「地球村」と表現したが、参加した首脳級はロシアやパキスタンら友好国のみ。言論弾圧をする中国に対する地球村の冷ややかな視線が際立った。
「紅い皇帝」習近平に冷ややかな目
世界インターネット大会は、中国政府の呼びかけによって創設され、2014年11月19日に第一回大会が浙江省烏鎮市で開催された。中国側は、これは世界最大規模で最高レベルの世界インターネットネットのサミットだと称している。主催は中華人民共和国国家インターネット情報弁公室で、地元の浙江省人民政府も共催の形を取る。
その第二回大会が今年11月16日から18日まで同じく浙江省烏鎮で開催された。
しかし、「サミット」と中国側が位置づける割には、首脳級が参加したのは「ロシアのメドベージェフ首相、パキスタンのシャリーフ首相、カザフスタンのマシモフ首相、キルギスタンのサリエフ首相、タジキスタンのラスルゾダ首相......」など8つの友好国に過ぎない。これらは中国とロシアおよび中央アジア諸国によって構成される上海協力機構のメンバー国であって、とても「世界のサミット」とはほど遠い。
それ以外はネットビジネス関係の代表者ばかりだ。
習近平国家主席は、開幕式において基調演説をしたが、どうも「尊敬する○○総理(大統領)」といいった挨拶の言葉が長すぎて、「尊敬する○○様」が10人続いた。それからやっと「および、ご来賓の皆さま」に入るという異例の挨拶から入った。
それは、一人一人の首脳級参加者名でも列挙しないと、誰も来ていないということが明白だからで、しかし列挙したことにより、そういう国の首脳級しか来てないことを際立たせる結果となった感は否めない。
長いが、ここまでやったのだから、いっそ基調演説の冒頭だけを、そのまま書き写す。但し、( )内の説明は筆者が加筆。参加した証拠をご覧になりたい方は、このページをご覧いただきたい。「このページ」に載ってない内容に関しては、個別にリンクを張る。
尊敬するフセイン総統(パキスタンの大統領)、
尊敬するメドベージェフ総理(ロシアの首相)、
尊敬するマシモフ総理(カザフスタンの首相)、
尊敬するサリナフ総理(キルギスタンの首相)、
尊敬するラスルゾダ総理(タジキスタンの首相)、
尊敬するアチモフ第一副総理(ウズベキスタンの第一副首相)、
尊敬するソワ・レニ副首相(タンザニアのXiao Xi Francois Lenny副首相)、
尊敬する呉紅波副秘書長(国連の潘基文事務総長の書面を代読した副事務総長)、
尊敬する趙厚麟秘書長(国際電信聯盟事務局長)、
尊敬するシュワブ先生(世界経済フォーラム、ダボス会議などの創始者)
以上、10名のトップ級参加者の名前を連ねてから、ようやく「さて、ご来賓の皆さま」に入った。こんな光景は見たことがない。列挙した名前が、「これで最高ランク」だったことは、かえって世界インターネット大会の権威のなさを浮き彫りにし、中国がいかに「世界の言論界」で孤立しているかを露呈した。
フロアーには「シラー」とした空気が流れ、熱気が見られない。
各国には「ネット主権」がある――イデオロギー担当の劉雲山が司会
それもネットビジネスに話を絞るのであれば、事態は違っただろう。中国側発表で2000人からなるという参加者は、ほとんどがビジネスマンだ。
しかし習近平演説で最初に触れたのは「ネット主権」だった。彼は概ね、つぎのように語った:
――13億人の民を誇る中国は、6.7億人という世界最大のネット人口を擁している。国連憲章にも謳われている通り、どの国にも同等の主権原則があるが、これはネット空間においても適用される。われわれは互いに各国が自主的に推し進めるネット管理方式を尊重し、国際ネット空間における統治権を互いに認め合わなければならない。他国の内政に干渉したり、他国の国家安全に危害を与えるようなことをしてはならない。
まるで、言論統制をしている中国に対する国際社会の批判に釘を刺すような冒頭の言葉だ。それを耳にした参加者の間には、またもや「シラー」っという音が聞こえるような「音のないさざめき」が走った。フロアーの人の眼が笑っていない。
つぎに「われわれは法に基づいてネット空間を管理しており、現実社会同様、自由を提唱して秩序を保っている。自由は秩序の目的であり、秩序は自由の保障である」などと述べたが、そのような空々しいことを言われても、世界中の人は中国の言論弾圧を知っており、「万里防火壁(万里のファイアーウォール)」で海外からの「有害情報」を遮断しているのを知っている。
あとは推(お)して知るべし。
5つの原則(世界ネットインフラ建設、ネット上に文化交流プラットホーム構築、ネット経済の核心的発展、サイバーセキュリティーを保障しサイバー空間の軍拡競争に反対、ネットガバナンス体系構築)などが列挙されたが、フロアーが明るく活気づくことはなかった。
AIIB(アジアインフラ投資銀行)や一帯一路(陸と海の新シルクロード)などにより世界を制覇しようとしている「紅い皇帝」の面目は丸つぶれである。
それもそのはず。
この大会を仕切ったのはチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7人)の党内序列ナンバー5の劉雲山だ。イデオロギー担当である。
よもや、ネット空間を通して世界のイデオロギーを統治しようとまでは思ってないだろうが、少なくとも牽制しようという意図がありありだ。おそらく、次はネット社会を制する者が世界を制するという戦略から、このような世界インターネット大会なるものを創設したのだと思うが、ネットは「言論の自由」を求めるものであり、「言論弾圧」とは正反対のベクトルが支配する。その自由空間を、世界で最も言論弾圧をしている国がリードしていこうなどと考えること自体がまちがいだ。時代を分かっていない。
チャイナ・マネーでは、世界の言論は買えないことを肝に銘じるべきだろう。
習近平に寄り添う馬雲
しかし、中国国内においては事情は異なってくる。
12月13日付の本コラム「アリババが香港英字紙買収――馬雲と習近平の絶妙な関係」で書いたように、アリババ集団の馬雲は、「紅い皇帝」習近平にへつらい、ペアで言論統制とネットビジネスを行なっている。民主的な傾向のある香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストを買収したことによって、香港の言論をビジネスという観点から抑圧していこうという算段である。
自由にものを言うメディアは、もうアップル・デイリーくらいしか残っていない。習政権にとって馬雲は、デリケートな香港の言論空間はコントロールしてくれるし、中国のネットビジネスは飛躍的に成長させてくれるし、多少の「闇」があっても、目をつぶりたいところだろう。
馬雲がサウスチャイナ・モーニングポストを買収したのは、この世界インターネット大会への赤絨毯であったという、「絶妙なタイミング」が、このことからも見えてくる。
この日も、「紅い皇帝」にひざまずかんばかりの馬雲の姿がカメラに収められている。習主席の向かって右にいるのはチャイナ・セブンのイデオロギー担当である劉雲山。左には馬雲がかしずいている。これほど中国の今と、この大会の意味を象徴している写真はないだろう。
馬雲が案内したのはこの日の展示場で、習主席はまずアリババの展示場に行き、馬雲の説明に聞き入った。ここに10分間も立ち止まって説明を聞いたと中国大陸のネットは書き立てている。
それにしても、12月14日の本コラム「インド、日本の新幹線を採用――中国の反応と今後の日中バランス」で書いたように、日本がインドの新幹線を選んだことによって中国が受けた打撃は、あまりに大きい。一帯一路構想を分断されたようなものだから、習主席の表情は冴えず、「紅い皇帝」の自信も消え失せている。
明暗を分けているのは「自由民主の国」であるか否かだ。
インドが中国を選ばなかったのは、そこが「自由民主の国」ではないからであり、共産党政権である独裁国家、中国の軍門に降りたくはなかったからだろう。今般の世界インターネット大会サミットに集まった首脳級が中国の友好国でしかないのも、中国に言論弾圧があるからである。それは9月3日の軍事パレードのときの参加国と共通点を持っている。
チャイナ・マネーだけでは動かない世界のメカニズムが働き始めているのを、中国はそろそろ自覚すべきではないだろうか。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
「紅い皇帝」習近平に冷ややかな目
世界インターネット大会は、中国政府の呼びかけによって創設され、2014年11月19日に第一回大会が浙江省烏鎮市で開催された。中国側は、これは世界最大規模で最高レベルの世界インターネットネットのサミットだと称している。主催は中華人民共和国国家インターネット情報弁公室で、地元の浙江省人民政府も共催の形を取る。
その第二回大会が今年11月16日から18日まで同じく浙江省烏鎮で開催された。
しかし、「サミット」と中国側が位置づける割には、首脳級が参加したのは「ロシアのメドベージェフ首相、パキスタンのシャリーフ首相、カザフスタンのマシモフ首相、キルギスタンのサリエフ首相、タジキスタンのラスルゾダ首相......」など8つの友好国に過ぎない。これらは中国とロシアおよび中央アジア諸国によって構成される上海協力機構のメンバー国であって、とても「世界のサミット」とはほど遠い。
それ以外はネットビジネス関係の代表者ばかりだ。
習近平国家主席は、開幕式において基調演説をしたが、どうも「尊敬する○○総理(大統領)」といいった挨拶の言葉が長すぎて、「尊敬する○○様」が10人続いた。それからやっと「および、ご来賓の皆さま」に入るという異例の挨拶から入った。
それは、一人一人の首脳級参加者名でも列挙しないと、誰も来ていないということが明白だからで、しかし列挙したことにより、そういう国の首脳級しか来てないことを際立たせる結果となった感は否めない。
長いが、ここまでやったのだから、いっそ基調演説の冒頭だけを、そのまま書き写す。但し、( )内の説明は筆者が加筆。参加した証拠をご覧になりたい方は、このページをご覧いただきたい。「このページ」に載ってない内容に関しては、個別にリンクを張る。
尊敬するフセイン総統(パキスタンの大統領)、
尊敬するメドベージェフ総理(ロシアの首相)、
尊敬するマシモフ総理(カザフスタンの首相)、
尊敬するサリナフ総理(キルギスタンの首相)、
尊敬するラスルゾダ総理(タジキスタンの首相)、
尊敬するアチモフ第一副総理(ウズベキスタンの第一副首相)、
尊敬するソワ・レニ副首相(タンザニアのXiao Xi Francois Lenny副首相)、
尊敬する呉紅波副秘書長(国連の潘基文事務総長の書面を代読した副事務総長)、
尊敬する趙厚麟秘書長(国際電信聯盟事務局長)、
尊敬するシュワブ先生(世界経済フォーラム、ダボス会議などの創始者)
以上、10名のトップ級参加者の名前を連ねてから、ようやく「さて、ご来賓の皆さま」に入った。こんな光景は見たことがない。列挙した名前が、「これで最高ランク」だったことは、かえって世界インターネット大会の権威のなさを浮き彫りにし、中国がいかに「世界の言論界」で孤立しているかを露呈した。
フロアーには「シラー」とした空気が流れ、熱気が見られない。
各国には「ネット主権」がある――イデオロギー担当の劉雲山が司会
それもネットビジネスに話を絞るのであれば、事態は違っただろう。中国側発表で2000人からなるという参加者は、ほとんどがビジネスマンだ。
しかし習近平演説で最初に触れたのは「ネット主権」だった。彼は概ね、つぎのように語った:
――13億人の民を誇る中国は、6.7億人という世界最大のネット人口を擁している。国連憲章にも謳われている通り、どの国にも同等の主権原則があるが、これはネット空間においても適用される。われわれは互いに各国が自主的に推し進めるネット管理方式を尊重し、国際ネット空間における統治権を互いに認め合わなければならない。他国の内政に干渉したり、他国の国家安全に危害を与えるようなことをしてはならない。
まるで、言論統制をしている中国に対する国際社会の批判に釘を刺すような冒頭の言葉だ。それを耳にした参加者の間には、またもや「シラー」っという音が聞こえるような「音のないさざめき」が走った。フロアーの人の眼が笑っていない。
つぎに「われわれは法に基づいてネット空間を管理しており、現実社会同様、自由を提唱して秩序を保っている。自由は秩序の目的であり、秩序は自由の保障である」などと述べたが、そのような空々しいことを言われても、世界中の人は中国の言論弾圧を知っており、「万里防火壁(万里のファイアーウォール)」で海外からの「有害情報」を遮断しているのを知っている。
あとは推(お)して知るべし。
5つの原則(世界ネットインフラ建設、ネット上に文化交流プラットホーム構築、ネット経済の核心的発展、サイバーセキュリティーを保障しサイバー空間の軍拡競争に反対、ネットガバナンス体系構築)などが列挙されたが、フロアーが明るく活気づくことはなかった。
AIIB(アジアインフラ投資銀行)や一帯一路(陸と海の新シルクロード)などにより世界を制覇しようとしている「紅い皇帝」の面目は丸つぶれである。
それもそのはず。
この大会を仕切ったのはチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7人)の党内序列ナンバー5の劉雲山だ。イデオロギー担当である。
よもや、ネット空間を通して世界のイデオロギーを統治しようとまでは思ってないだろうが、少なくとも牽制しようという意図がありありだ。おそらく、次はネット社会を制する者が世界を制するという戦略から、このような世界インターネット大会なるものを創設したのだと思うが、ネットは「言論の自由」を求めるものであり、「言論弾圧」とは正反対のベクトルが支配する。その自由空間を、世界で最も言論弾圧をしている国がリードしていこうなどと考えること自体がまちがいだ。時代を分かっていない。
チャイナ・マネーでは、世界の言論は買えないことを肝に銘じるべきだろう。
習近平に寄り添う馬雲
しかし、中国国内においては事情は異なってくる。
12月13日付の本コラム「アリババが香港英字紙買収――馬雲と習近平の絶妙な関係」で書いたように、アリババ集団の馬雲は、「紅い皇帝」習近平にへつらい、ペアで言論統制とネットビジネスを行なっている。民主的な傾向のある香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストを買収したことによって、香港の言論をビジネスという観点から抑圧していこうという算段である。
自由にものを言うメディアは、もうアップル・デイリーくらいしか残っていない。習政権にとって馬雲は、デリケートな香港の言論空間はコントロールしてくれるし、中国のネットビジネスは飛躍的に成長させてくれるし、多少の「闇」があっても、目をつぶりたいところだろう。
馬雲がサウスチャイナ・モーニングポストを買収したのは、この世界インターネット大会への赤絨毯であったという、「絶妙なタイミング」が、このことからも見えてくる。
この日も、「紅い皇帝」にひざまずかんばかりの馬雲の姿がカメラに収められている。習主席の向かって右にいるのはチャイナ・セブンのイデオロギー担当である劉雲山。左には馬雲がかしずいている。これほど中国の今と、この大会の意味を象徴している写真はないだろう。
馬雲が案内したのはこの日の展示場で、習主席はまずアリババの展示場に行き、馬雲の説明に聞き入った。ここに10分間も立ち止まって説明を聞いたと中国大陸のネットは書き立てている。
それにしても、12月14日の本コラム「インド、日本の新幹線を採用――中国の反応と今後の日中バランス」で書いたように、日本がインドの新幹線を選んだことによって中国が受けた打撃は、あまりに大きい。一帯一路構想を分断されたようなものだから、習主席の表情は冴えず、「紅い皇帝」の自信も消え失せている。
明暗を分けているのは「自由民主の国」であるか否かだ。
インドが中国を選ばなかったのは、そこが「自由民主の国」ではないからであり、共産党政権である独裁国家、中国の軍門に降りたくはなかったからだろう。今般の世界インターネット大会サミットに集まった首脳級が中国の友好国でしかないのも、中国に言論弾圧があるからである。それは9月3日の軍事パレードのときの参加国と共通点を持っている。
チャイナ・マネーだけでは動かない世界のメカニズムが働き始めているのを、中国はそろそろ自覚すべきではないだろうか。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)