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米の対台湾武器売却に対する中国の猛抗議と強気

ニューズウィーク日本版 2015年12月18日 17時0分

 アメリカ政府は16日、4年ぶりに台湾に武器輸出する方針を決定。中国政府は対米猛抗議をしながらも、一方では「使い物にならない古い武器を売っているだけなので、両岸(中台)の力関係には影響せず」と強気だ。

まずは公式発表で激しい抗議

 アメリカ政府は台湾に対し、海軍のミサイルフリゲート艦や対戦車ミサイルなど総額18億3000万ドル(約2200億円)の武器を台湾に売却する方針を固めたとアメリカ議会に通告した。これは4年ぶりのことで、馬英九政権になってからは4回目。

 1回目は2008年、2回目は2010年、3回目が2011年と、実は民進党政権時代よりも武器売却総額が多い。

 中国共産党の機関紙「人民日報」のウェブサイト「人民網」によれば:

●2008年5月に馬英九が総統に就任して以来の7年間(来年4月までとすれば8年間)で、アメリカが台湾に武器を売却した総額は201億3000万ドルに達する。年平均にすると25億ドル(任期8年間として計算)。

●李登輝総統時代であった12年間でアメリカが台湾に売却した武器の総額は162億ドル。年平均13億5000万ドル。

●陳水扁総統時代の8年間に売却した総額は84億ドル。年平均10億5000万ドル。

 今般の武器売却に対して中国外交部の鄭沢光副部長は、駐中国のアメリカ臨時大使代理・李凱安を呼び出し、アメリカに厳しい抗議を言い渡した。いわく:

「台湾は中国の領土の不可分の一部だ。中国はアメリカが台湾に武器売却することに断固反対する。これは国際法と国際関係に照らして、著しく米中の3つのコミュニュケに違反するものであり、中国の主権と安全利益を損なうものだ。中国は、武器売却に関与した企業に対し、断固とした制裁措置を取る」

 3つのコミュニケというのは「1972年にニクソン大統領との間に交わされた上海コミュニケ」、「1978年に出された米中国交正常化共同宣言」、「1982年8月17日に発表した第3次米中コミュニケ(特に八一七コミュニケと称する)」の3つを指す。

 基本的には「一つの中国」を認め、「中国」という国家としては「中華人民共和国」しかこの世に存在せず、「中華民国」を承認してはならない、したがって「中華民国」と国交を断絶して、元の「中華民国」を中国の一地方の「台湾」あるいは「台北」と位置付ける、というものだ。

 その台湾に武器を輸出するなどということは、中国(北京政府、大陸)にとっては、絶対にあってはならないことなのである。

 しかしアメリカは、1979年まで、「中華民国」と米国の間で「米華相互防衛条約」を結んでいた。上記「3つのコミュニケ」のうち1978年の米中国交正常化共同声明により米華相互防衛条約は破棄されたものの、それに代わって「台湾関係法」というものを米議会で制定して、「台湾に対する防衛的な武器強をする」ことを定めている。

 以来、米中国交正常化をした後も、継続的にこの「台湾関係法」に基づいて、台湾に武器売却を続けてきているのだ。

中国政府は、本当はどう見ているか?

 台湾に武器売却を続けるアメリカに対して、中国政府は激しい抗議はしているものの、本当はどう見ているかを解説したい。主として中国の中央テレビ局CCTV軍事解説番組や中国政府高官からの直接の聞き取りに基づく。

1. アメリカが台湾に売っているのは、もうアメリカでは使えなくなった古びた武器だ。台湾の軍事力を高めることはできない。したがって両岸(中台)問題に関して、いかなる脅威も与えない。中国(大陸)の軍事力がいかに高いかは、今年おこなった軍事パレードを見れば、語るまでもないだろう。

2. アメリカが今このタイミングで台湾に武器を売るのは、大統領選があるからだ。アメリカの財団側からの支持を得て、票を集めたいと思っている。

3. アメリカが常に台湾に武器を売却するのは、米台の「親密度」を、常に台湾に見せておかなければならないからだ。アメリカはまた米台親密化と日米親密化を中国に見せようともしている。

4. 台湾が武器を購入するその金は、どこから来るのか。一つには台湾市民(国民)からの税金によるものだが、もう一つは大陸で大儲けしている台商たちのうち、親米分子がいて台湾の政府に協力している。ここが一番大きな問題で、今後も注意を払っていかなければならない。

「南シナ海問題への牽制」といった一時的な問題ではない

 日本では、このたびの武器売却を「南シナ海に進出する中国をけん制するため」と報道しているメディアが多いが、そのような短期的視野の問題だけではないだろう。

 台湾は2000年代前半の陳水扁政権時代に、あまりに台湾独立を叫んで北京政府と衝突したので、アメリカは台湾と中国(北京政府)との間で困惑していた。なぜならこの時期は、中国の経済・軍事急成長時代と一致していたからだ。アメリカとしては、中国ともうまくやっていきたい。

 そこで中国大陸に対して「特に独立を叫ばず、現状を維持する」とした馬英九政権の誕生は、アメリカにとってありがたかったにちがいない。その一方で、「大陸からの防衛のため」に、対台湾の武器売却を強化し、防衛の名の下に武器輸出を増加させている。

 この変化は、上述した人民網のデータに如実に表れている。
アメリカの、この「二面性」は、ニクソン政権の中国電撃訪問以来続いているものであり、それが沖縄返還の時期と一致していることから、「尖閣諸島の領有権に関して、どちらの側にも立たない」というカメレオン型姿勢にも表れている。

 このたびの武器売却は、たしかに南シナ海における中国の進出に対する牽制という側面は否めないものの、そういった近視眼的な要素だけで動いている事象ではない。根底にある米中台問題を大きな視野で見ないと、日本にとっても、正しい戦略を練る目が歪められる危険性をもたらすのではないだろうか。


[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。新著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。



遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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