Infoseek 楽天

アメリカの科学者、ゾンビ襲来を警告

ニューズウィーク日本版 2015年12月18日 18時9分

 もしゾンビの襲来が怖くて夜も眠れないなら、いざという時のための準備をしておくと安心だ。飲用水や食糧を備蓄して、非常箱や手回し式の自家発電ラジオ、懐中電灯などの必需品を買い揃える。自衛のための武器も入手したほういいかもしれない。

 まだそんな準備をしていない人は注意した方がいい。ゾンビの恐怖はいつやって来てもおかしくない。今週、イギリスの医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」に、ゾンビの感染と予防について歴史的、疫学的に検証した記事が掲載された。

 筆者のタラ・スミスは、米オハイオ州・ケント州立大学の准教授で、専門は公共衛生学。ゾンビ(またの名を「ウォーキング・デッド」)の脅威への意識を高めることが記事の趣旨だという。ゾンビの歴史は、16世紀のハイチにまで遡る。

 スミスによると、現代の感染症は、動物間で感染していた病原体がやがて人間から人間への感染に拡大することによって引き起こされる。エボラ出血熱や狂犬病、プリオン病などの感染拡大は、確かにこうした現象から発生している。

症状は歩行のふらつき、うめき声......

 こうした感染症の症状は様々だが、多くの犠牲者に共通しているのは「歩行のふらつき、うめき声を上げる、緩慢な動作、病前の性格的特徴の喪失、そして最終的には肉体の腐敗」だ。

 さらに、「ゾンビ病原体の感染が増加しているのは、国際社会に対して、もっと資金を投入し、科学者と政府関係者が協力して、壊滅的な感染症の脅威に備えなければならないという警告だ」と、主張する。

 もちろんこの記事はジョークで、権威ある医学誌のクリスマス特別号の一部だ。しかし、なるほどと納得させられるところもある。特に感染症対策への意識の向上を呼び掛けているところだ。ゾンビ襲来を想定すれば、人々は重要な書類を安全なところに保管したり、緊急時に家族がどこへ避難するか相談したりといった非常時への備えについて考えさせられる。

 スミスは、「歴史的、文化的、科学的なゾンビ研究」を行なう「ゾンビ研究会」の顧問を務めている。研究会の幹部には、他にも医療、法律、軍事情報、脳神経科学など様々な分野の専門家やゾンビ愛好家が名を連ねている。

 ほとんどの一般の人(そして相当数の政府職員も)は、実際に感染症が発生した際の行動計画やインフラ設備など持っていない。昨年発生したエボラ出血熱の感染拡大では、そのお粗末な現状が明らかになっている。

全米の大学にはソンビ学講座も

 アメリカの政府機関、疾病予防管理センター(CDC)も、同様の危機感から数年前に「ゾンビ対策キャンペーン」を開始し、コミックのハンドブックまで制作した。この中では、「ゾンビ襲来」時には外出は控えること、十分な食糧と水を確保することなどを呼び掛けている。またCDCが感染予防のワクチン研究を進めること、各地の医療施設が簡単な血液検査を実施すること、といった安心情報も提供している。

 ハンドブックでは最後に、「すべての非常事態に備えるキット」の作り方も解説している。

 実は全米の多くの大学(ボルティモア大学、サンディエゴ州立大学、ハーバード大学など)では、ゾンビ関連の授業を開講している。

 今回記事を執筆したスミスは、通常は抗生物質への耐性がある黄色ブドウ球菌を研究している。一般的にはまだ対策が始まったばかりだが、スミスは「毎日、使える抗生物質が減っている」と、この問題の重要性について語っている。

 確かにゾンビ襲来より、耐性菌の方がはるかに恐ろしい問題だ。


ジェシカ・ファーガー

この記事の関連ニュース