中国の成功した起業家でチャ・ユエティン(贾跃亭 Jia Yueting)という人物が一部の英語媒体で注目を集めている。Forbesによると推定個人資産79億ドルで「中国で17番目の大富豪」(世界全体でも557位)。2004年に立ち上げた「LeTV」というネットテレビ配信サービスの成功で富を築き、その後はコンテンツの制作から、テレビやスマートフォンといったハードウェアの製造販売まで、さまざまな分野のビジネスに手を出している。そんなチャが最近はもっぱら「中国のイーロン・マスク」になるべく電気自動車(EV)の開発に入れ込んでいるという。
チャは、LeTVを運営するレシ(Leshi Internet Information & Technology)という自分の会社で、マスクの経営するテスラ(Telsa)に対抗するような高級車の開発を狙っているほか、ファラデイ(Faraday Future)ならびにアティエヴァ(Atieva)という2つのEVベンチャーにも投資している。このうちのファラデイのほうが最近(12月はじめ)米ラスベガス(ネバダ州)の郊外に10億ドル(約1200億円)を投じてEVの製造ラインを建設することになったというニュースがいくつかの英語媒体で報じられた。
スマートフォンが登場すればアップルあるいはジョブズの名前を引き合いに出し、次にEVがいけそうだとなれば今度はテスラやマスクを引き合いに出してくる。あるいはそうした先行者の後を追いかける。チャのこのあたりの行動原理はわかりやすく、機を見るに敏な商売人のフットワークの軽さも感じられる。
EVはスマフォのように手軽につくれるのか?
そのいっぽうで、ネット動画配信企業の経営者の視点からみれば、どのハードウェアも自社で配信するコンテンツの表示先、あるいは中核事業という城を守る堀割("moot")という点で変わりはない。
同時に、ハードウェアという「ユーザーとの接点」を他者に押さえられると何かと事業がやりにくくなるといった思いや、逆に新しい接点を自分たちで押さえてしまえば、これまでになかった種類の情報などもその接点を通じて流すことができ、それが新たな収入源につながるといった思惑もあるかもしれない。そうしたことも考えあわせると、次々と新しいものを追いかけているかのようにみえるチャのアプローチには、はっきりとした一貫性も感じられる。
「EVがほんとうにスマフォのように手軽につくれるのか?」というのは疑問だが、それとは別に自動車の価値あるいは競争力といった点に関して、メカニカルな部分からソフトウェアベースの部分へとどんどん比重が移ってきていると感じられることも増えている。
たとえば11月のはじめには、トニー・ファデル(iPodの開発責任者、現グーグル傘下のNest経営者)が「バッテリー、コンピュータ(プロセッサのことか)、モーター、それにメカニカルな部分で構成されているという点では、EVもiPhoneもさして違いはない」「難しいのはネットワークとの接続とか自動走行とかに関わる部分」などと話していた。
また最近も、ネクストEV(NextEV)という上海のEVベンチャーに加わることになったパドマスリー・ウォリアーという元シスコシステムズの女性幹部(元CTO兼戦略責任者)が「自分が責任者として立ち上げる米国の拠点では、まずソフトウェア、人工知能(AI)、ロボット工学、データサイエンスといった分野の人材確保を積極的にやる」などと発言していた。ファデルにしてもウォリアーにしても、既存の自動車業界関係者からみれば「部外者」に過ぎないかもしれない。だが、そんな部外者ならではの新しい捉え方を自動車に対してしている点は共通と思われる。
EVの分野には、テスラのようにとりあえずは成功例といえるものもある一方で、フィスカー(Fisker Automotive)のような失敗例もある。チャの関わるEVベンチャーがどちらに転ぶかなどは無論わからない。また「ほんとうに難しいのは数十万台、数百万台といった単位で生産・販売するところまで事業をスケールさせることで、それに比べると超高級車を年間数千台つくって売るのはさほど難しいこととはいえない」といった見方もある。
つまり、スマートフォンに近いノリでEV分野参入というやり方が本当に得策かどうか、といった疑問も残るということだ。ただ、このあたりは政府が国策としてEV普及を後押ししているという中国固有の事情も関係しているのかも知れない。
なお、2014年創業のファラデイには、すでにBMWやGM、テスラといった各社の出身者など400人ほどの従業員がおり、本拠地のシリコンバレーに加えて独デュッセルドルフや北京にも拠点があるという。また来年初めのCESにはEVのプロトタイプを出展予定だそうだ。
[参照サイト]
・Faraday Future Picks Nevada Site for $1 Billion Electric-Car Investment
・Chinese Billionaire Jia Yueting Backs Mysterious Electric Car Startup Faraday
・LeTV (wikipedia)
・China's Protean Billionaire Jia Yueting Tries To Upset Apple's Smartphone Empire
・Apple's Jeff Williams: The Car Is the Ultimate Mobile Device (Video)
・Nest CEO Tony Fadell: Studio 1.0 (Full Show 11/04)
・Padmasree Warrior Describes Her Battle Plan For Taking ..
・The Automotive Ambitions of Samsung and Apple
・China Mobile Surges After $36 Billion Carrier Revamp Unveiled
[執筆者]
三国大洋
オンラインニュース編集者。海外ニュース・ウォッチャー歴25年。情報雑食系、主食は「ITとビジネス」系。NBAマニア(観るだけ)。
三国大洋(オンラインニュース編集者)
チャは、LeTVを運営するレシ(Leshi Internet Information & Technology)という自分の会社で、マスクの経営するテスラ(Telsa)に対抗するような高級車の開発を狙っているほか、ファラデイ(Faraday Future)ならびにアティエヴァ(Atieva)という2つのEVベンチャーにも投資している。このうちのファラデイのほうが最近(12月はじめ)米ラスベガス(ネバダ州)の郊外に10億ドル(約1200億円)を投じてEVの製造ラインを建設することになったというニュースがいくつかの英語媒体で報じられた。
スマートフォンが登場すればアップルあるいはジョブズの名前を引き合いに出し、次にEVがいけそうだとなれば今度はテスラやマスクを引き合いに出してくる。あるいはそうした先行者の後を追いかける。チャのこのあたりの行動原理はわかりやすく、機を見るに敏な商売人のフットワークの軽さも感じられる。
EVはスマフォのように手軽につくれるのか?
そのいっぽうで、ネット動画配信企業の経営者の視点からみれば、どのハードウェアも自社で配信するコンテンツの表示先、あるいは中核事業という城を守る堀割("moot")という点で変わりはない。
同時に、ハードウェアという「ユーザーとの接点」を他者に押さえられると何かと事業がやりにくくなるといった思いや、逆に新しい接点を自分たちで押さえてしまえば、これまでになかった種類の情報などもその接点を通じて流すことができ、それが新たな収入源につながるといった思惑もあるかもしれない。そうしたことも考えあわせると、次々と新しいものを追いかけているかのようにみえるチャのアプローチには、はっきりとした一貫性も感じられる。
「EVがほんとうにスマフォのように手軽につくれるのか?」というのは疑問だが、それとは別に自動車の価値あるいは競争力といった点に関して、メカニカルな部分からソフトウェアベースの部分へとどんどん比重が移ってきていると感じられることも増えている。
たとえば11月のはじめには、トニー・ファデル(iPodの開発責任者、現グーグル傘下のNest経営者)が「バッテリー、コンピュータ(プロセッサのことか)、モーター、それにメカニカルな部分で構成されているという点では、EVもiPhoneもさして違いはない」「難しいのはネットワークとの接続とか自動走行とかに関わる部分」などと話していた。
また最近も、ネクストEV(NextEV)という上海のEVベンチャーに加わることになったパドマスリー・ウォリアーという元シスコシステムズの女性幹部(元CTO兼戦略責任者)が「自分が責任者として立ち上げる米国の拠点では、まずソフトウェア、人工知能(AI)、ロボット工学、データサイエンスといった分野の人材確保を積極的にやる」などと発言していた。ファデルにしてもウォリアーにしても、既存の自動車業界関係者からみれば「部外者」に過ぎないかもしれない。だが、そんな部外者ならではの新しい捉え方を自動車に対してしている点は共通と思われる。
EVの分野には、テスラのようにとりあえずは成功例といえるものもある一方で、フィスカー(Fisker Automotive)のような失敗例もある。チャの関わるEVベンチャーがどちらに転ぶかなどは無論わからない。また「ほんとうに難しいのは数十万台、数百万台といった単位で生産・販売するところまで事業をスケールさせることで、それに比べると超高級車を年間数千台つくって売るのはさほど難しいこととはいえない」といった見方もある。
つまり、スマートフォンに近いノリでEV分野参入というやり方が本当に得策かどうか、といった疑問も残るということだ。ただ、このあたりは政府が国策としてEV普及を後押ししているという中国固有の事情も関係しているのかも知れない。
なお、2014年創業のファラデイには、すでにBMWやGM、テスラといった各社の出身者など400人ほどの従業員がおり、本拠地のシリコンバレーに加えて独デュッセルドルフや北京にも拠点があるという。また来年初めのCESにはEVのプロトタイプを出展予定だそうだ。
[参照サイト]
・Faraday Future Picks Nevada Site for $1 Billion Electric-Car Investment
・Chinese Billionaire Jia Yueting Backs Mysterious Electric Car Startup Faraday
・LeTV (wikipedia)
・China's Protean Billionaire Jia Yueting Tries To Upset Apple's Smartphone Empire
・Apple's Jeff Williams: The Car Is the Ultimate Mobile Device (Video)
・Nest CEO Tony Fadell: Studio 1.0 (Full Show 11/04)
・Padmasree Warrior Describes Her Battle Plan For Taking ..
・The Automotive Ambitions of Samsung and Apple
・China Mobile Surges After $36 Billion Carrier Revamp Unveiled
[執筆者]
三国大洋
オンラインニュース編集者。海外ニュース・ウォッチャー歴25年。情報雑食系、主食は「ITとビジネス」系。NBAマニア(観るだけ)。
三国大洋(オンラインニュース編集者)