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過去作からの「反復」がもたらす光と影――『フォースの覚醒』レビュー(軽いネタバレあり)

ニューズウィーク日本版 2015年12月22日 15時18分

歴代最高のロケットスタート

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が12月18日に世界同時公開され、米国内の公開週末興行収入が2億4800万ドルで歴代1位、世界の公開週末興行収入でも5億2900万ドルで同じく歴代1位という好スタートを切った。すでに予算推定額の2億ドルを余裕で超え、今後の興行面での関心は、世界歴代興収ランキングの20位で今のところシリーズ最高のヒット作『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(10億2700万ドル)を超えられるか、さらに順位を伸ばしてトップ10――3位『ジュラシック・ワールド』、5位『ワイルド・スピード SKY MISSION』、6位『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』、10位『ミニオンズ』と2015年公開作が4本も並ぶ――に食い込んでいけるかどうかだ。

職人肌のヒット請負人、J・J・エイブラムス監督

 ジョージ・ルーカスが生み出した『スター・ウォーズ』シリーズ。エピソード4~6の通称「ルーク3部作」、エピソード1~3の「アナキン3部作」に続く、新たな3部作でエピソード7に位置づけられる本作の監督に抜擢されたのがJ・J・エイブラムスだ。キャリア当初は作曲、脚本で実績を重ね、テレビドラマ『LOST』での監督・脚本がトム・クルーズに認められて2006年に『M:i:III』で映画監督デビュー。伝説的SFシリーズをリブートさせた『スター・トレック』、スティーブン・スピルバーグを共同製作に迎えた『SUPER8/スーパーエイト』といったSF大作の成功を評価されての起用となった。

『M:i:III』にせよ『スター・トレック』にせよ、人気シリーズの世界観を尊重しつつ、アクションや視覚効果のトレンドをバランス良く組み入れてソツなく仕上げてきたエイブラムス監督。脚本も手がけたオリジナル作品の『SUPER8』でさえ、スピルバーグの『未知との遭遇』や『E.T.』を想起させるオマージュ作だった。どちらかといえば自らの作家性を抑える「職人」であり、続編やリブート作であっても強い個性を発揮するデービッド・フィンチャーやクリストファー・ノーランといった芸術家肌の監督とは好対照だ。

 エイブラムス自身、そうした監督としてのキャリアと評価に満足しているわけではない。製作会社のルーカスフィルムから本作の監督を最初にオファーされたとき、「続編ばかり作るヤツになりたくない」と感じ、受けるかどうかを悩んだという。

新3部作の序章としては上出来だが、単体としては物足りなさも

(以降は、最新作とシリーズ過去作の内容に触れ、軽いネタバレを含みます)

『フォースの覚醒』の脚本は、エピソード5、6の共同脚本家ローレンス・カスダンとエイブラムスらが担当している。シリーズを通して観てきた人なら、主要キャラクターの配置やストーリー展開が「ルーク3部作」、とりわけ『エピソード4/新たなる希望』に似ていることを容易に感じ取るだろう。ハン・ソロ、ルーク、レイア姫という旧作のトリオは、闘うヒロインのレイ(デイジー・リドリー)、抜け忍ならぬ「抜けストームトルーパー」のフィン(ジョン・ボイエガ)、Xウイング操縦士のポー・ダメロン(オスカー・アイザック)に引き継がれた。かつての宿敵ダースベイダーに相当するのがカイロ・レン(アダム・ドライバー)だ。

 エピソード6から約30年後が舞台ということで、旧トリオのキャスト(ハリソン・フォード、マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー)が相応に加齢した外見で再び登場すると感無量だし、ライトセーバーでのチャンバラ、ミレニアム・ファルコンやXウイングでのチェイスやバトルも懐かしさ満点だ。視覚効果技術の進化に伴い、アクションシーンや背景の描画クオリティが格段に向上しているが、宇宙船の外観などはミニチュアモデルを使った特撮風の質感を再現して、旧作のイメージから乖離しないよう配慮している。

 エイブラムス監督は新たな3部作の序章として、シリーズの伝統を引き継ぎつつ、新たな歴史の基礎を築くという大役を果たした。銀河帝国の流れをくむ「ファースト・オーダー」の勢力とこれに対抗するレジスタンスの戦いという大きな構図を示しつつ、新キャラたちを登場させ、古株の合流も無理なく実現させた。

 シリーズのアイデンティティーを保つために過去作からの「反復」は有効だが、『フォースの覚醒』ではそうした反復が短縮された形で登場するので、駆け足の感が否めない。

 たとえば、若きフォースの使い手という意味で旧シリーズのルークに相当する本作のレイは、ジェダイ・マスターに教わることもなく、数回の試行錯誤であっさりフォースを体得してしまう。『エピソード5/帝国の逆襲』でルークがヨーダの下で行った厳しい修行はなんだったのかと思わずにはいられない。「The Force Awakens」という原題も象徴的で、フォースが覚醒する、つまりは(修行して身につけるのではなく)勝手に目覚めることを示唆していたのだ。

 さらに言えば、エピソード4~6を通じて描かれる「ある重要なテーマ」がやはり短縮形で反復されるのだが、具体的に書くと軽いネタバレでは済まなくなるため、ここでは伏せておこう。ともあれ、盛り込むべき要素が数多くある中で、これらの反復があわただしく駆け足で語られるため、単体の作品としては重厚感に欠け、人物描写の浅さ、ドラマとしての物足りなさを感じてしまう。

エピソード8、9はどうなる?

 エピソード8は『LOOPER/ルーパー』のライアン・ジョンソン監督がメガホンを取り、2017年に公開されることが決まっている。エピソード9は2019年公開、監督は『ジュラシック・ワールド』のコリン・トレボロウが務める。

 当然、今後のストーリーは未公表だが、ジェダイ・マスターの唯一の生き残りであるルークがレイを鍛えて、カイロ・レンと互角に戦える女闘士にする方向性が十分考えられる。

 ラスボス的な最高指導者スノークの動きも気になるところだ。演じているのは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのゴラム、『猿の惑星』新シリーズのシーザーに扮した当代随一のモーション・キャプチャー俳優、アンディ・サーキス。激しいアクションもこなせる役者なので、エピソード9あたりでフォースかライトセーバーを駆使した壮絶なバトルが期待できそうだ。



[執筆者]
高森郁哉
米国遊学と海外出張の経験から英日翻訳者に。ITニュースサイトでのコラム執筆を機にライター業も。主な関心対象は映画、音楽、環境、エネルギー。

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高森郁哉(翻訳者、ライター)

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