20日に起きた広東省深セン市の土砂崩れ事故の背景に、案の定、企業と深セン人民政府や中国共産党深セン市委員会との間の癒着が浮かび上がった。次期国家主席の有力候補と見られている広東省書記・胡春華のへの影響は?
緑威公司と深セン人民政府や党委員会との癒着
今月20日に広東省深セン市の工業団地で起きた大規模土砂崩れで、33棟の団地が一瞬で地面に埋まってしまう惨事が起きた。現時点で1人の遺体が見つかっているが、なお89人が行方不明のままだ。土砂崩れによって38万平方メートルの土地が深さ10メートルの土砂で埋まった。このとき天然ガスパイプラインも破損して爆発が起き、惨状を加速させている。
中国政府は今のところ、土砂崩れの原因は、高さ100メートルまで積み上げられた土砂置き場の土砂で、土砂置き場として臨時に利用されていた石切り場が、工業団地の方向を向いていたことが惨事を生んだとしている。この土砂は、工場や工業団地を建築する際に生じたもので、土砂にはコンクリ―のかけらや建築廃材なども含まれており、それが不安定さを増し、崩壊の主要原因になっていたとのこと。
そして中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球網」(環球時報のウェブサイト)は21日朝、土砂を積み上げた業者として、「深セン市緑威物業管理有限公司」(以下、緑威公司と略称する)の名前を挙げた。
緑威公司は2001年に1001万元(現在のレートで約2兆円)の資本金で張菊如と張金華が設立した会社だ。張菊如はまた、「深セン市緑威投資発展有限公司」という会社を同じく資本金1001万元で2010年12月に設立している。
環球網の情報源は中国の「毎日経済新聞」の記者によるが、2013年10月から今日に至るまで、緑威公司は何度も深セン市宝安区政府購入センターの落札対象となってきたという。直訳なので、もう少し表現を変えて書くと、政府の仕入れ係の窓口が推進するプロジェクトに複数の企業が入札したとき、毎回、必ず緑威公司が独占的に落札してきたということだ。
これは中国全土のいたるところに充満している現象で、水面下で(いや、堂々と?)、企業と政府役人が癒着し賄賂を渡して特定の会社に落札させる。同時に、その管理に関しても余計な経費を掛けず、すべて「目こぼし」をしてくれるという仕組みが全国的に出来上がっている。今回も例外ではなく、天津の爆発事故同様、「人災」であることは明らかだ。
癒着している政府役人というのは、中国では二重になっていて、一つは地方人民政府の役人で、もう一つはその地方の中国共産党委員会書記などである。
2001年からの市長と書記の名前を列挙したいところだが、その誰が癒着に関わったのか、まだ特定することはできないし、またもしかしたら全ての人が「伝統的に」受け継いできたかもしれないので、具体的な人物に関しては必要に応じてまたの機会にしたい。
問題は、緑威公司が、政府が落札して請け負った土砂処理(堆積?)経営権を、別の業者に譲り渡していたということだ。
それを明らかにさせたのは22日付の「東方報業集団ウェブサイト」(東網)で、75万元(約1500万円)で「深セン市益相龍投資発展有限公司」に経営権を譲渡していたとのこと。
政府によって落札した企業が、その経営権を袖の下を使って他の企業に譲渡する行為は、中国でも違法である。
管理責任問題と中国の腐敗構造は、事故現場以上に泥沼化しそうだ。
次期国家主席有力候補、広東省の胡春華書記への影響は?
事故の犠牲者に対する関心とともに、筆者だけでなく中国人民は次期国家主席の有力候補者とされる中国共産党広東省委員会の胡春華書記に対する影響がどうなるのだろうかということに、連鎖反応的に注意がいく。
そこで土砂崩れ事故と胡春華の二つのキーワードを入れて中国のネット空間で検索してみた。すると、実に奇妙な現象が現れた。
いきなり「広東省委書記胡春華看望深セン山体事故傷員」(実際はすべて簡体字)という選択項目が出てきたので、驚いてクリックした。
ところが、どのページをクリックしても、すべて「削除されました」とか「申し訳ありません。このページは探し出せません」あるいは「not found」という表示が出てくるではないか。
これはただ事ではない。
知り合いの退職した中国政府の老幹部に確認したところ、どうやら「よからぬ噂」が流れていたので、このタイトルのページは検閲に引っかかり、全て削除されたのだという。
しかし胡春華自身は北京で開かれていた中央の会議に参加していたのだが、習近平国家主席と李克強国務院総理の支持を受けて、すぐさま現場に駆け付けたそうだ。
中国共産党新聞網によれば、「張高麗、馬凱、胡春華、楊晶、郭声●(王偏に昆)、王勇、朱小丹」などの中共中央および広東省の関係指導層に対して、緊急に救助活動に従事するよう命令を出したとのこと。
胡春華は、広東省の書記としての責任は当然負わなければならないだろうが、直接の影響は少ないようだ。継続して事態の経緯を見守りたい。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
緑威公司と深セン人民政府や党委員会との癒着
今月20日に広東省深セン市の工業団地で起きた大規模土砂崩れで、33棟の団地が一瞬で地面に埋まってしまう惨事が起きた。現時点で1人の遺体が見つかっているが、なお89人が行方不明のままだ。土砂崩れによって38万平方メートルの土地が深さ10メートルの土砂で埋まった。このとき天然ガスパイプラインも破損して爆発が起き、惨状を加速させている。
中国政府は今のところ、土砂崩れの原因は、高さ100メートルまで積み上げられた土砂置き場の土砂で、土砂置き場として臨時に利用されていた石切り場が、工業団地の方向を向いていたことが惨事を生んだとしている。この土砂は、工場や工業団地を建築する際に生じたもので、土砂にはコンクリ―のかけらや建築廃材なども含まれており、それが不安定さを増し、崩壊の主要原因になっていたとのこと。
そして中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球網」(環球時報のウェブサイト)は21日朝、土砂を積み上げた業者として、「深セン市緑威物業管理有限公司」(以下、緑威公司と略称する)の名前を挙げた。
緑威公司は2001年に1001万元(現在のレートで約2兆円)の資本金で張菊如と張金華が設立した会社だ。張菊如はまた、「深セン市緑威投資発展有限公司」という会社を同じく資本金1001万元で2010年12月に設立している。
環球網の情報源は中国の「毎日経済新聞」の記者によるが、2013年10月から今日に至るまで、緑威公司は何度も深セン市宝安区政府購入センターの落札対象となってきたという。直訳なので、もう少し表現を変えて書くと、政府の仕入れ係の窓口が推進するプロジェクトに複数の企業が入札したとき、毎回、必ず緑威公司が独占的に落札してきたということだ。
これは中国全土のいたるところに充満している現象で、水面下で(いや、堂々と?)、企業と政府役人が癒着し賄賂を渡して特定の会社に落札させる。同時に、その管理に関しても余計な経費を掛けず、すべて「目こぼし」をしてくれるという仕組みが全国的に出来上がっている。今回も例外ではなく、天津の爆発事故同様、「人災」であることは明らかだ。
癒着している政府役人というのは、中国では二重になっていて、一つは地方人民政府の役人で、もう一つはその地方の中国共産党委員会書記などである。
2001年からの市長と書記の名前を列挙したいところだが、その誰が癒着に関わったのか、まだ特定することはできないし、またもしかしたら全ての人が「伝統的に」受け継いできたかもしれないので、具体的な人物に関しては必要に応じてまたの機会にしたい。
問題は、緑威公司が、政府が落札して請け負った土砂処理(堆積?)経営権を、別の業者に譲り渡していたということだ。
それを明らかにさせたのは22日付の「東方報業集団ウェブサイト」(東網)で、75万元(約1500万円)で「深セン市益相龍投資発展有限公司」に経営権を譲渡していたとのこと。
政府によって落札した企業が、その経営権を袖の下を使って他の企業に譲渡する行為は、中国でも違法である。
管理責任問題と中国の腐敗構造は、事故現場以上に泥沼化しそうだ。
次期国家主席有力候補、広東省の胡春華書記への影響は?
事故の犠牲者に対する関心とともに、筆者だけでなく中国人民は次期国家主席の有力候補者とされる中国共産党広東省委員会の胡春華書記に対する影響がどうなるのだろうかということに、連鎖反応的に注意がいく。
そこで土砂崩れ事故と胡春華の二つのキーワードを入れて中国のネット空間で検索してみた。すると、実に奇妙な現象が現れた。
いきなり「広東省委書記胡春華看望深セン山体事故傷員」(実際はすべて簡体字)という選択項目が出てきたので、驚いてクリックした。
ところが、どのページをクリックしても、すべて「削除されました」とか「申し訳ありません。このページは探し出せません」あるいは「not found」という表示が出てくるではないか。
これはただ事ではない。
知り合いの退職した中国政府の老幹部に確認したところ、どうやら「よからぬ噂」が流れていたので、このタイトルのページは検閲に引っかかり、全て削除されたのだという。
しかし胡春華自身は北京で開かれていた中央の会議に参加していたのだが、習近平国家主席と李克強国務院総理の支持を受けて、すぐさま現場に駆け付けたそうだ。
中国共産党新聞網によれば、「張高麗、馬凱、胡春華、楊晶、郭声●(王偏に昆)、王勇、朱小丹」などの中共中央および広東省の関係指導層に対して、緊急に救助活動に従事するよう命令を出したとのこと。
胡春華は、広東省の書記としての責任は当然負わなければならないだろうが、直接の影響は少ないようだ。継続して事態の経緯を見守りたい。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)