共和党の大統領候補予備選では、依然として「トランプ旋風」が続いています。今月初めのカリフォルニア州での銃乱射テロ事件、それを受けた形でトランプ候補が言い放った「イスラム教徒入国禁止」発言などを経ても、トランプ候補の勢いは止まりません。現在では、共和党支持者における支持率が35~40%という水準で推移しており、さらに支持率はジリジリ上昇しています。
トランプと「お互いに批判を控えて」連携を匂わせているテッド・クルーズ候補も支持を伸ばしており、来年の2月1日に党員集会が予定されているアイオワ州では、トランプを上回る支持を獲得しています。
とにかく、この2人の候補が党内を「引っかき回す」一方で、共和党の伝統的な中道派は3位のマルコ・ルビオ候補に希望を託すしかない、そんな中で年末を迎えつつあります。
さて、このトランプとクルーズという「右派ポピュリスト」ですが、「イスラム教徒入国禁止」とか「ISILへの絨毯爆撃をせよ」といった「暴言」ばかりでなく、大胆な中にも「考えさせられる発言」を混ぜていることを指摘しないわけにはいきません。
例えば、軍事外交に関してですが、トランプに続いてクルーズも加わる形で、過去20年間のアメリカの「レジーム・チェンジ(政権交代)政策」をハッキリ否定し始めているということが指摘できます。
要するに中東などの情勢に軍事的に介入する中で、「反米的な政権を交代させる」ように画策したケースのほとんどは失敗に終わっている、だから、そのような「レジーム・チェンジ」は否定すべきだというのです。
具体的には「サダム・フセインを温存すべきだった」という論と、「ムバラク、カダフィ、アサドはアメリカの国益にかなっていた」という主張です。
重要なのは、この2つの話が組み合わさっているところです。前者だけなら「イラク戦争反対論」ということで、どちらかと言えば民主党などの反戦論に近いわけです。ところが後者の話、つまり「中東の独裁政権崩壊」に関して言えば、要するに『アラブの春』を承認した「オバマ外交」に対する強烈なパンチになるわけです。
ですから、この2つがセットになることで、左派ではなく右派的な主張になるのです。さらに言えば、カダフィ打倒に手を貸し、今もアサド打倒を考えている共和党の「軍事タカ派」、つまりジョン・マケインやリンゼー・グラハムへの「アンチ」にもなります。
さらに言えば、そうした「独裁政権許容論」というのは、ヒラリー・クリントンの政治姿勢に真っ向から対立するものです。ヒラリーの行動理念というのは、いわば「リベラル・ホーク」つまりリベラルなタカ派とでも言うべきもので、人道危機や民主化要求運動には積極的に介入して「自由と民主主義、人権」という普遍的な価値を世界に普及させようという思想です。ですから、この「レジーム・チェンジの否定」というのは、そのいわば「ヒラリー主義」の全否定になります。
また、この主張は共和党の伝統である「孤立主義」とも整合性があります。トランプと言えば、ロシアのプーチン大統領とお互いに「称賛しあう」妙な関係になっていますが、その「プーチン許容論」も、この「独裁政権許容論」の一つだと見ることができます。そして、プーチンを認めて、アサド政権も認めれば、ISIL攻撃の体制はかなりシンプルになるという、かなり粗っぽい単純化もされています。
この「レジーム・チェンジ否定論」あるいは「独裁政治許容論」ですが、こうした世論感情はトランプ旋風だけでなく、共和党の一定の部分に浸透しつつあると見るべきでしょう。ブッシュもオバマもマケインも、そしてヒラリーも「ぶっ飛ばせ」というわけです。
ですが、自分たちは「アメリカを再び偉大にする」と称しておきながら、理念型の外交を否定するというのは、大変に危険な考え方だと思います。フセインもプーチンも認めるのであれば、経済的な関係の深い中国の共産党独裁体制も「損得の話」としてアッサリ認めてしまう、そんな危険性も感じられます。
共和党では今、こうしたトランプ=クルーズの動きに対して、マルコ・ルビオ議員が「伝統的な共和党の現実路線」を代弁して対抗しようとしていますが、現時点ではまだ対抗できるほどの支持を得ていません。この「レジーム・チェンジ否定論」が今後どう動くか、注意して見ていく必要がありそうです。
トランプと「お互いに批判を控えて」連携を匂わせているテッド・クルーズ候補も支持を伸ばしており、来年の2月1日に党員集会が予定されているアイオワ州では、トランプを上回る支持を獲得しています。
とにかく、この2人の候補が党内を「引っかき回す」一方で、共和党の伝統的な中道派は3位のマルコ・ルビオ候補に希望を託すしかない、そんな中で年末を迎えつつあります。
さて、このトランプとクルーズという「右派ポピュリスト」ですが、「イスラム教徒入国禁止」とか「ISILへの絨毯爆撃をせよ」といった「暴言」ばかりでなく、大胆な中にも「考えさせられる発言」を混ぜていることを指摘しないわけにはいきません。
例えば、軍事外交に関してですが、トランプに続いてクルーズも加わる形で、過去20年間のアメリカの「レジーム・チェンジ(政権交代)政策」をハッキリ否定し始めているということが指摘できます。
要するに中東などの情勢に軍事的に介入する中で、「反米的な政権を交代させる」ように画策したケースのほとんどは失敗に終わっている、だから、そのような「レジーム・チェンジ」は否定すべきだというのです。
具体的には「サダム・フセインを温存すべきだった」という論と、「ムバラク、カダフィ、アサドはアメリカの国益にかなっていた」という主張です。
重要なのは、この2つの話が組み合わさっているところです。前者だけなら「イラク戦争反対論」ということで、どちらかと言えば民主党などの反戦論に近いわけです。ところが後者の話、つまり「中東の独裁政権崩壊」に関して言えば、要するに『アラブの春』を承認した「オバマ外交」に対する強烈なパンチになるわけです。
ですから、この2つがセットになることで、左派ではなく右派的な主張になるのです。さらに言えば、カダフィ打倒に手を貸し、今もアサド打倒を考えている共和党の「軍事タカ派」、つまりジョン・マケインやリンゼー・グラハムへの「アンチ」にもなります。
さらに言えば、そうした「独裁政権許容論」というのは、ヒラリー・クリントンの政治姿勢に真っ向から対立するものです。ヒラリーの行動理念というのは、いわば「リベラル・ホーク」つまりリベラルなタカ派とでも言うべきもので、人道危機や民主化要求運動には積極的に介入して「自由と民主主義、人権」という普遍的な価値を世界に普及させようという思想です。ですから、この「レジーム・チェンジの否定」というのは、そのいわば「ヒラリー主義」の全否定になります。
また、この主張は共和党の伝統である「孤立主義」とも整合性があります。トランプと言えば、ロシアのプーチン大統領とお互いに「称賛しあう」妙な関係になっていますが、その「プーチン許容論」も、この「独裁政権許容論」の一つだと見ることができます。そして、プーチンを認めて、アサド政権も認めれば、ISIL攻撃の体制はかなりシンプルになるという、かなり粗っぽい単純化もされています。
この「レジーム・チェンジ否定論」あるいは「独裁政治許容論」ですが、こうした世論感情はトランプ旋風だけでなく、共和党の一定の部分に浸透しつつあると見るべきでしょう。ブッシュもオバマもマケインも、そしてヒラリーも「ぶっ飛ばせ」というわけです。
ですが、自分たちは「アメリカを再び偉大にする」と称しておきながら、理念型の外交を否定するというのは、大変に危険な考え方だと思います。フセインもプーチンも認めるのであれば、経済的な関係の深い中国の共産党独裁体制も「損得の話」としてアッサリ認めてしまう、そんな危険性も感じられます。
共和党では今、こうしたトランプ=クルーズの動きに対して、マルコ・ルビオ議員が「伝統的な共和党の現実路線」を代弁して対抗しようとしていますが、現時点ではまだ対抗できるほどの支持を得ていません。この「レジーム・チェンジ否定論」が今後どう動くか、注意して見ていく必要がありそうです。