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テレビ通販で銃を売るってアメリカは正気?

ニューズウィーク日本版 2015年12月29日 10時0分

 銃乱射事件が絶えず、銃規制についての議論が続くアメリカ。今月初旬にはカリフォルニア州サンバーナディーノで14人が死亡、少なくとも21人が負傷する事件が起きたばかりだ。悲劇が繰り返されながらも、なかなか規制が強化されないのは、銃の需要が高く、銃保有の権利を支持する声も根強いからだ。

 それを象徴するかのように、カリフォルニア州では驚きの計画が進められている。全米初の銃器専門通販の放送局「ガン(銃)TV」の立ち上げだ。放映開始は来年1月20日。ちょうどラスベガスで世界最大級の銃器見本市「ショットショー」が開かれている期間だ。

24時間の銃販売番組

 設立者は通販番組の仕事をしていたダグ・ボーンスティーンとバレリー・キャッスル。衛星放送とケーブルテレビで、当面は午前1時から毎日6時間の放送を行う。さらに、いずれは1日24時間、週7日間の放送を目指しているという(2人からはコメントを得られなかった)。

 銃の安全性や訓練などに関する番組も放映するが、大半はショッピング番組で、銃や銃弾、付属品の販売を行う。「注文はフリーダイヤル電話やオンラインで。気楽に便利に銃器を購入できる」と宣伝ビデオはうたっている。

 注文はガンTVから大手銃卸業者スポーツサウスへ送られ、そこから最寄りの銃販売店に品物が配送される。購入者は銃規制法に従って店で必要書類に記入し、身元審査を経て銃を受け取ることになる。

 米銃所有者協会(バージニア州)の広報責任者エリック・プラットは、本誌が連絡するまでガンTVについて聞いたことがなかったという。しかしプラットいわく、それはいつの日か、「銃と付属品のアマゾン」になる可能性がある。「銃は非常に大切にされる品だからだ」と、彼は言う。「番組の存在を知れば、人々は関心を持つと思う」

 銃の通販番組なんてどう考えても正気ではない。何しろアメリカでは銃乱射による大量殺人が何度も繰り返されている。

 ガンTVの宣伝ビデオによれば、アメリカでは人口100人当たり、平均89の銃器がある。

 弁護士による銃暴力防止団体「銃による暴力防止法律センター」のローラ・クティレッタ上席弁護士は、24時間の銃販売は危険だと指摘する。「銃の犠牲になる人は年間3万人。その多くは自宅で銃を見つけた子供たちだ。それだけの人を殺している製品を自宅に持ち込むには、よくよく考えて決断すべきだ」と、彼女は言う。「夜中の3時にテレビを見ながら、ふと思い立って買うものではない」

 しかし、こうした常識が通用しないのが現実だ。カリフォルニアには全米で最も厳しい銃規制法がある。ほとんどの対人殺傷用銃器を禁じ、大容量の弾倉の販売・譲渡も禁止。販売店、ネット販売、銃見本市を問わず、銃を購入する前には身元審査に通る必要がある。

 それでもサンバーナディーノの大量殺人を防ぐことはできなかった。「善人が銃を持つことを禁じても、犯罪者やテロリストが銃を手に入れるのを止めることはできない」と、プラットは言う。

危険人物への販売をどう止めるのか

 驚いたことに、銃の安全対策強化を求める人々の中には、ガンTVが身元審査の推進のきっかけになると考える人もいる。銃犯罪撲滅を目指して活動する団体「責任ある解決策を求めるアメリカ人」の広報担当マーク・プレンティスは、「何より重要なのは、重罪犯罪者や家庭内暴力の加害者といった危険人物が、ガンTVで銃を買えないようにすることだ。彼らは身元審査に通るはずがないのだから」と言う。

 銃購入の身元審査に使われるのは全米犯罪歴即時照合システムだが、1日の処理数で過去最高だったのは26人が犠牲になった12年のサンディーフック小学校(コネティカット州)銃乱射事件の翌日の17万7170件。先月27日にはその記録を塗り替える、18万5345件の照合があった。

 この日は感謝祭翌日のブラックフライデーといわれ、1年で最も多くの買い物客でにぎわう日。昨年のブラックフライデーと比べ、照合数は約5%増加したという。そして同じ日、コロラド州の医療施設では銃乱射で3人が死亡し、9人が負傷した。

 恐ろしい事件が起きると銃を捨てるのでなく、銃を買いたくなる。そんなアメリカ人の心理が変わらなければ、乱射事件の悲劇はいつまでも続くだろう。

[2015.12.22号掲載]
ミシェル・ゴーマン

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