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自動運転車でグーグルと手を組むフォードの心中は?

ニューズウィーク日本版 2015年12月28日 15時0分

 グーグルとフォードが提携し、自動運転車関連の合弁会社を設立することになったという「情報筋の話」が、Yahoo Autoで今週はじめ(米国時間21日)で報じられていたが、この話題について両社のこれまでの経緯や現状などがうまく整理された分析記事がThe Vergeに掲載されている。今回はこの記事などを手がかりに、潜在的な競合相手となりかねないグーグルと手を組むことにしたフォードの思惑などについて気になった点などをいくつか記してみる。なお両社の提携は現時点では「未確定」の話で、予定されるCES 2016での正式発表が流れる可能性が残っている点を予めご了承いただきたい。

「量産ノウハウ」というグーグルにとってのボトルネック解消

 グーグルが2019〜20年頃の投入を目処に自動運転車の開発プロジェクトを続けていることはすでにさまざまなところで報じられている通り。また昨年末には「自社で車輌の製造まで手掛けるつもりはない」とする同プロジェクト(元)責任者のコメントがWSJで報じられていた。

 そこで問題となるのは「誰に車輌の生産を頼むか」という点だ。ただ、グーグルへの対応を間違えて、後に禍根を残すことになったメディア業界や携帯通信関連業界などの前例もあり、自動車業界側ではグーグルやアップルといったIT系企業との協力に消極的もしくは懐疑的という印象が強かった。「アップルと取引するフォクスコン(台湾の大手下請メーカー)のような立場になるつもりはわれわれにはない」というダイムラーCEOの発言(今年9月のフランクフルト・モーターショウでのもの)にそうした疑心暗鬼が端的に表れていると感じられるが、いずれにしても「軒先を貸したつもりが母屋を乗っ取られていた」となりかねない相手であることがかなりはっきりしているために、自動車関連の各社ではどうしても慎重にならざるを得ないという事情が感じられた。

 いっぽうグーグル側では、9月にフォードの元花形エンジニア(後に現代自動車米国社長)を自動運転車プロジェクトの新しい責任者に起用。またその前に発表していた持ち株会社制への移行計画を踏まえて、それまで単なる実験だった同プロジェクトの事業化を本格的に進めるのではないかといった観測が流れていた。さらに今月半ばには、グーグルが自動運転車部門を来年にも分社化し、ユーバー(Uber)と競合するような配車サービスを立ち上げる可能性があるとする話が報じられていた。

 今回の「フォードとの提携」をめぐる話はこうした流れを受けたもので、また来年から米カリフォルニア州で公道を使った自動運転車の走行実験が本格的に始まる予定であることも関係しているかもしれない。

 10月末にBusinessweekに掲載されていたGMの自動運転車開発をめぐる特集記事によると、「グーグルのことを昨年には『深刻な競争上の脅威』と呼んでいたGMの自動運転車プロジェクト責任者が、最近ではグーグルとの『和平』あるいは『連携』を口にするようになっている」という。

 また、今回のYahoo Auto報道を踏まえて書かれたBloomberg記事には「米自動車メーカー各社とグーグルとの距離が縮まってきている。メーカー各社は、自動運転車の頭脳にあたる部分を自前で開発する代わりに、グーグルの技術を利用することを検討している」とする業界アナリストのコメントが引用されている。上記のメルセデスCEOの発言とはだいぶ温度差があるようにも感じられるが、おそらくは自動車メーカー各社の世界的な競争力や、具体的な戦略上重要な要素(*)の有無などを踏まえての違いかとも思われる(*「戦略上重要な要素」としてまっさきに思い浮かぶもののひとつは地図情報で、グーグルが「Google Maps」を保有しているのは周知の通り。それに対して、BMW、ダイムラー、アウディの独3社は今年、ノキアの保有していた地図事業「HERE」を買収していた)。

 なお、このBloomberg記事には「グーグルがフォード以外の米自動車メーカーとも提携に向けた話し合いを進めている」「GM幹部やフィアット・クライスラーCEOが、グーグルとの提携に関心があることを示唆する発言をそれぞれしていた」ともある。

自動運転車に対する考え方の一致が提携を容易にした?

 カリフォルニアでの公道実験(「California Autonomous Vehicle Testing Program」)については、BMW、ホンダ、メルセデス、日産、テスラ、フォルクスワーゲン、グーグルなどが規制当局からの承認をすでに得ているが、このなかに一番最近加わったのがフォードだ。The Vergeの今回の記事には、フォードもやはり以前から独自に自動運転車の研究開発を進めてきているとあるが、一部のプロトタイプ発表などを除けば目立った動きはこれまで伝えられておらず、今年1月にあった同社のシリコンバレー研究開発拠点の開設の際にも具体的な計画などは明らかにされていなかった。

 ただ、WIRED記事によると、フォードは自動運転車に関し、グーグルと同様にドライバー(人間)の存在を抜きにしたアプローチを指向しているという。このあたりは人間の不足点を補うものとして自動運転機能を位置付けているメルセデスやアウディ、GM、テスラなどとは大きな違いと思われ、この考え方の一致が両社の合意を容易にしたとの可能性も考えられる。

気になる「上手まわしの取り合い」

 さて。上記のWIRED記事には、「フォードが喜んでグーグルの単なる下請けに甘んじるとは考えられない」という指摘がある。それに対して、上記のThe Verge記事には「自動車のビジネスは利益率の高いビジネスではない。いっぽう電子関連のビジネスはとても高い利益率が得られるビジネス」「グーグルやアップルは、工場の操業やロジスティクス=サプライチェーンの運営、それにお役所の規制が絡むような面倒なことには関わりたくない」といったアナリストの見方がある。

 Android端末メーカーがiPhone対策など合理的な判断に基づいてグーグルのモバイルOSを採り入れたことで、結果的に厳しい競争に追い込まれたことは周知の通りだ。また最近ではあまり聞かれなくなったが、ひと頃は欧州の携帯通信事業者の間からグーグルやアップル、フェイスブックなど、スマートフォンの普及で大きな利益を手にした米国勢に対する「ただ乗り批判」の声もよく聞かれた。そうした前例も考えあわせると、フォードがグーグルを相手に、どういう組み方をするのか、あるいはどうやって上手まわしをとられないようにするか、といった点にやはり関心が向いてしまう。

 そのあたりのカギを握る人間のひとりが、現在グーグルの社外取締役として同社のやり方を知る元フォードCEOのアラン・ムラーリー(以前、マイクロソフトの後継CEO探しの際にも一時有力視されていた人物)ではないかという気もしているが、この点について推測する手がかりはいまのところ見つからない。


[執筆者]
三国大洋
オンラインニュース編集者。海外ニュース・ウォッチャー歴25年。情報雑食系、主食は「ITとビジネス」系。NBAマニア(観るだけ)。

三国大洋(オンラインニュース編集者)

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