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アメリカの女子大には「上昇志向の強い」女性が集まる

ニューズウィーク日本版 2015年12月26日 8時5分

 文部科学省の調査によれば、日本から海外への留学者数は2004年をピークに毎年減っている。それでも今、新しいタイプのアメリカ留学ブームが起きていると、本誌ウェブコラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」でお馴染みの在米ジャーナリスト、冷泉彰彦氏は言う。一体どういうことなのか。

 これまで主流だった「語学留学」や「大学院留学」とは違う。グローバル化の潮流を背景に、日本の優秀な高校生が「アイビーリーグ」の8校をはじめとするアメリカの一流大学を志望する、全く新しい動きが起こっているのだ。実際、予備校が海外進学を目指す高校生向けのコースを設置したり、国内の一流大学と併願していた海外の大学を選ぶ学生が少数ながら出てきたりしているという。

 実は冷泉氏は、1997年以来、ニュージャージー州にあるプリンストン日本語学校高等部で進路指導にあたってきた。プリンストンやコロンビア、カーネギー・メロンなど多くの名門大学に高校生を送り出してきた経験をもとに、『アイビーリーグの入り方――アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)を上梓した冷泉氏。アメリカの高等教育の仕組みから、秘密のベールに包まれた「アイビーリーグ入試」の実態、厳選した名門大学30校のデータまでを1冊にまとめている。

 ここでは、本書の「Chapter 1 志望校をどうやって選ぶのか?」から一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。そもそも「名門大学」とはどの大学を指すのだろうか。

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『アイビーリーグの入り方
 ――アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』
 冷泉彰彦 著
 CCCメディアハウス


※第1回:これまでと違う「アメリカ留学ブーム」が始まっている はこちら
※第2回:アイビーに比肩する名門のリベラルアーツ・カレッジがある はこちら

◇ ◇ ◇

アメリカの「女子大」は侮れない存在

 次のカテゴリは、女子大学です。アメリカの場合は、1970年代まで名門大学はすべて男子校でした。そうした時代にあって、例えば東海岸の場合、女子の高等教育を担っていたのが次の「セブン・シスターズ(Seven Sisters)」と言われる7校です。

●バーナード・カレッジBarnard College(ニューヨーク州)
●ブリンマー・カレッジBryn Mawr College(ペンシルベニア州)
●マウント・ホリヨーク・カレッジMount Holyoke College(マサチューセッツ州)
●ラドクリフ・カレッジRadcliffe College(マサチューセッツ州)
●スミス・カレッジSmith College(マサチューセッツ州)
●ヴァッサー・カレッジVassar College(ニューヨーク州)
●ウェルズリー・カレッジWellesley College(マサチューセッツ州)

 この内のラドクリフ・カレッジは、元来がハーバードの姉妹校だったのですが、ハーバードの共学化に伴って1977年から99年にかけて段階的に統合を果たし、現在はハーバードの一機関という位置づけになっています。

 また、ヴァッサー・カレッジは1969年に共学化されています。従って、女子大学の「シスターズ」というのは、現在では「セブン」から二つ減った「ファイブ・シスターズ」となっているわけです。

 こうした女子大学ですが、内容は前述した「リベラルアーツ・カレッジ」と同等と考えて良いと思われます。

 例えば、ペンシルベニア州のフィラデルフィア郊外にあるブリンマー・カレッジの場合は、キャンパスの近いハヴァフォード、スワースモアの2校と提携関係にありますし、マウント・ホリヨーク・カレッジの場合は同じく、近所のアマースト・カレッジと提携関係にあります。

 また、バーナードは長年にわたってコロンビアの姉妹校という位置づけがあるのですが、現在もそのコロンビアとの関係は続いています。このように、教育の水準と体制は「リトル・アイビー」や「アイビー」に劣らないし、大学の「格」としてもそのように考えられています。

ヒラリー・クリントンも女子大学出身

 共学校が主流の現代において、こうした女子大が存在している理由ですが、いわゆる「良妻賢母教育」が行われていたり、男子と対等に競うことを忌避したい学生が集まっているかというと、実際は違います。そうではなくて、その反対だと言われているのです。

 むしろ、社会に残っている女性への差別や偏見と「戦う姿勢」を持った学生が多く、各大学の誇る同窓会組織なども利用しながら、社会的には「より上昇志向の強い」学生が集う場所だというイメージの方が実情の説明としては合っているようです。

 ヒラリー・クリントン氏がウェルズリーの卒業生(院はイェールの法科大学院)というのも、決して偶然ではないですし、彼女がウェルズリーに在学していた際にベトナム反戦運動に積極的に参加していたというのも、アメリカの「女子大カルチャー」としては例外ではなく、むしろ本流に属すると見るべきです。

 幕末の戊辰戦争の際に、会津藩士の娘として官軍と戦った後に単身アメリカに留学した山川捨松という女性がありました。彼女はヴァッサーに入学して、優秀な成績で卒業しています。日本女性として、アメリカの学士号取得第1号は彼女です。

 帰国後の山川捨松は、やがて陸軍のリーダーとして日露戦争の指導をする大山巌の妻となりますが、今でもヴァッサー・カレッジのホームページには山川のエピソードが掲載されています。今に語り継がれているイメージは、大山元帥夫人としての彼女というよりも、会津で奮戦した女傑という伝説であり、それもまたアメリカの「女子大カルチャー」というわけです。

ハイレベル教育を志向する公立大学

 次に名門大学に比肩する教育を行っている大学群として、「公立大学に附設されたオナーズ・カレッジ(Honors College)」という存在があります。

 東海岸で言えば、ペンシルベニア州のペンシルベニア州立大学(通称「ペンステート」The Pennsylvania State University)、ニュージャージー州のラトガース大学(Rutgers University)、中部ミシガン州のミシガン大学(University of Michigan)などは、大規模な公立大学として有名であり、卒業生は全米の各方面で活躍しています。

 こうした大学は、ともすれば優秀な学生にとっては「名門私大の滑り止め」という位置づけ、つまり併願時の「セーフ・スクール(安心して合格できる大学)」というイメージになっていました。つまり、優秀な学生の獲得競争では遅れを取っていたのです。

 そこで各校は、通常の各学部学科とは異なる「優秀な学生の在籍するカレッジ」として「オナーズ・カレッジ(特待生の在籍学科)」というものを設けるようになりました。

 この「オナーズ・カレッジ」ですが、出願は通常どおり母体の州立大学へ行います。その際に、「オナーズ・カレッジ」への入学希望がある場合は、その旨を届け出るというシステムになっている大学もありますし、その場合には追加のエッセイを提出しなくてはならないということもあります。

 そして、出願者の中から、あるいは出願者中の希望者の中から選抜する形で、特に成績優秀な学生には「オナーズ・カレッジ」入学が許可されるという仕組みとなっています。

※第4回:米大学がいちばん欲しいのは「専攻が決まっている学生」 はこちら

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