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中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化

ニューズウィーク日本版 2016年1月4日 13時30分

 習近平国家主席は昨年12月31日、「陸軍指導機構、ロケット軍、戦略支援部隊」創設大会で強軍の夢を語った。1月1日の中国メディアが一斉に報道。建国以来の大規模軍事改革とは何か、中国の軍は何をめざすのか?

「陸軍指導機構」の創設とは?

 習近平国家主席は、昨年11月24日に(~26日)、中央軍事委員会主席として「中央軍事委員会改革工作会議」を招集し、「陸海空軍を一体的に運用するための聯合作戦指揮機構の創設」を指示した。

 そして12月31日、中国人民解放軍本部の「八一大楼」で「陸軍指導機構、ロケット軍、戦略支援部隊」創設大会が開催され、1月1日の中国の全ての新聞紙面や中央テレビ局CCTVなどで華々しく発表された。「八一」というのは中国人民解放軍建軍記念日8月1日から取ったものである。

 習近平中央軍事委員会主席は、この創設大会で「中国の夢、強軍の夢」を実現するために現代化を図るとして人民解放軍の代表らを激励した。

 それではまず、「陸軍指導機構」が何を意味しているかをご説明しよう。

 中国の軍隊である中国人民解放軍を管轄する中国共産党中央委員会(中共中央)軍事委員会は従来、「総政治部、総参謀部、総后勤部、総装備部」の4大総部に分かれ、このうちの総参謀部が「作戦・指揮」に当たっていた。

 人民解放軍は建国以前(国共内戦時代)から「陸軍」を主体としていたため、総参謀部が事実上の陸軍司令部の役割を果たしていたので、これまで総参謀部と分離する形で「陸軍司令部」を特別に設置するということはしていなかった。

 一方、建国後、総参謀部の下に「海軍」「陸軍」などが増設されていったために、まるで陸軍の補強軍種として海空軍が存在しているような形になっていた。

 しかし今や海空軍の力はあなどれない。内戦が起きたり、国境線上で領有権争いが起きたり、あるいは他国が中国大陸上に攻め込んで来たりするような事態が生じない限り、陸軍が力を発揮するようなケースは想定しにくい。

 それに比べて、近隣諸国との間の軍事力のバランスを考えたときには、陸軍よりも海空軍の強化の方が重要だと言える国際情勢になっている。

 そこで陸軍司令部を新たに新設して総参謀部から切り離し、海空軍と並列に陸軍を置こうというのが、まず第一の基本改革である。

 それが「陸軍指導機構」創設の意味する内容だ。

「ロケット軍」の創設とは?

「ロケット軍」とは、これまで臨時に置かれていた「第二砲兵」(ミサイル部隊)の新しい位置づけによる名称である。これからは総参謀部の下に、「陸軍、海軍、空軍、ロケット軍」という形で、4大軍種が置かれることになる。

 従来の第二砲兵は1966年7月1日に創設されたもので、当時の毛沢東主席の批准を得て、当時の周恩来総理が命名したものである。陸軍の軍服を着用していたが、実際上は陸軍とは区別されており、核ミサイル攻撃に対応するため「国家機密」の必要から、「陸軍の第二砲兵」という装いの形を取ってきた。

 しかしこれからは「現代化ロケット軍」として、(アメリカ軍などを想定した)「敵対勢力」による「核」(核弾頭搭載可能な弾道ミサイル)の脅威から中国を守るのだという趣旨のことを、習近平・軍事委員会主席は創設大会で述べた。

 中国が現在保持している短距離弾道ミサイルDF-16(東風16、核弾頭搭載可能。グアムを射程に置ける)や準中距離弾道ミサイルDF-21D(東風21D、核弾頭搭載可能。射程約1500キロ)などは、あくまでも他国から攻撃された場合の「抑止力」として作用するのであり、敵から攻撃されない限り、中国は決して自ら積極的にロケット軍の武器を使用することはないとしている。

 その一方で、ロケット軍創設の目的は、「海の底」(原子力潜水艦)から天空(核弾頭搭載弾道ミサイル)までを包括的に掌握する立体的な核戦力掌握でもあると言える。

「軍区」から「戦区」への転換と「聯合作戦体制」

 習近平国家主席はまた中央軍事委員会主席として、「軍区」から「戦区」への転換と「聯合作戦体制」の構築に関しても指示を出している。

 中国の陸軍はこれまで「7大軍区」と呼ばれる7つの軍区に中国大陸を区分化し、総参謀部が管轄していた。7つの軍区には「瀋陽軍区、北京軍区、済南軍区、南京軍区、広州軍区、生徒軍区、蘭州軍区」があり、これは1985年6月に開催された中央軍事委員会拡大会議で決定されたものである。このとき100万人の兵力削減を行うと同時に、11大軍区を7大軍区に統廃合した。

 今般の軍事大規模改革では、昨年9月3日の軍事パレードで習近平国家主席が宣言した中国人民解放軍30万人削減とともに、「軍区」という概念を捨て、「戦区」によって中国の軍事力を高めることを狙っている。

 軍区という概念は陸軍や野戦部隊を中心とした守備で、現在のハイテク化した国際軍事情勢には適合しない。

 そこで7大軍区を4大(あるいは5大)戦区に分けて、「陸海空軍+ロケット軍」全体で「聯合作戦体制」を組み、即戦力を高めていこうという戦略だ。

 また、これまで軍区を管轄していた総参謀部を中心としてでなく、習近平が主席を務めている中央軍事委員会と戦区の二つのレベルの「聯合作戦指揮体制」という機構を構築し、途中の指揮系統を省略して効率化を高めていくという狙いもある。

 情報戦という側面を考えれば、瞬時にして戦場の形勢が変化する可能性もあり、電光石火のごとき変化に俊敏に対応するには、命令指揮系統が多いと、作戦を誤る危険性もあるので、一気に動ける聯合作戦体制が不可欠なのだと、中国政府関係者は説明している。

(その意味で、総参謀部は、これまでのような絶大な力を持ちえなくなるかもしれない。)

 4大戦区案に関しては今のところ、「西北戦区(蘭州軍区+成都軍区)、華南戦区(広州軍区+南海艦隊+東海艦隊)、華北戦区(南京軍区+済南軍区)、東北戦区(瀋陽軍区+北京軍区+北海艦隊)」という話もチラホラとあり、そうではなくて「東西南北+中部」の5区分にするとも言われており、これに関しては決定的な決議はまだなされていない。

戦略支援部隊と紀律検査委員会

 このたび創設された部隊の中に、「戦略支援部隊」というのがあるが、これに関して1月1日に開催した国防部外事弁公室による記者会見で、「これは国家安全を守る新型作戦戦力で、軍事力を高めると同時に総合保障能力を高める」と回答している。上記の改革が実行されたのちに正式に動き始めるとのこと。

 それ以外にも軍事委員会内に紀律検査委員会を設置し、軍事法院(軍事裁判所)や軍事検察院(検察庁)も設けて、腐敗の防止に軍事委員会が直接目を光らせることなどが、軍事委員会改革工作会議で決議されている。

 このとき発表された「国防と軍隊改革を深化させることに関する意見」をめぐって、軍事専門家に新華社がインタビューした記事が、たとえば今年1月1日の中華人民共和国国防部ウェブサイトや、1月2日の人民網などに転載されている。
中国語だが、詳細を知りたい方は、これらのページをクリックしてみていただきたい。

中共中央軍事委員会の強化と集中的な統一指揮

 軍事はもちろん中央集権的でないと強烈な力を発揮できないだろうが、このたびの大規模軍事改革から、「即戦力の向上と命令指揮系統の効率化」以外に、「中共中央軍事委員会の強化と集中的な統一指揮」を目指していることが見えてくる。

 それはすなわち、そのトップに立つ習近平主席の一極集中化を際立たせている。

 習近平が中央軍事委員会主席として「陸軍指導機構、ロケット軍、戦略支援部隊」創設大会に姿を現していた12月31日、国防部の楊宇軍報道官は同日の記者会見で、中国初の「国産空母」を遼寧省大連で建造していると発表した。上海では3隻目の空母製造に取り掛かっている模様だ。

 楊宇軍報道官は、「国家の海上安全の防衛、領海の主権と海洋権益の保護は中国軍の神聖な職責 だ」と述べたが、今般の軍事大規模改革が完遂する2020年までに、東シナ海だけでなく南シナ海における覇権も確保し、対米軍対応を完備していくつもりだろう。

 陸軍指導機構やロケット軍の新設と同時に軍区を戦区に切り替えていく中国は、まさに「陸海空軍+ロケット軍」の聯合作戦により、海と空への覇権を万全のものにしようと狙っていることが見えてくる。

 これは「一帯一路(陸と海の新シルクロード)」構想完遂のためにも不可欠と言えるだろう。
さて、正月にも息ができないほどの大気汚染に見舞われている北京の中南海において、「紅い皇帝」習近平の2016年は、順調に滑り出すのだろうか?

 その野望と現実に注目していきたい。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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