新年早々、サウジアラビアのサルマン国王は、かねてより死刑判決の出ていたシーア派指導者を処刑しました。この処刑がイランを激怒させることは承知の行動であり、その直接の原因としてはサウジ領内におけるシーア派反政府運動が、イエメンでのフーシ派と連動する中で、アラビア半島の平和を脅かしていることへの危機意識があると推測されます。
では、これでサウジとイランの関係はどんどん悪化していくのでしょうか?
例えばサウジと「シーア派の多数支配によってイランとの関係を強めつつある」イラクの現政権との関係が決定的に悪化したり、さらにはイランを挟撃する効果を計算してサウジが同じスンニ派のISIL勢力との対決から逃げたりするようなことがあるのでしょうか?
その延長線上で、中東で本格的な戦火が起こる可能性はあるのでしょうか?
可能性は低いと思います。それは、今回の事態は、サウジとイランが「抜き差しならない利害対立」を抱えて、その衝突へと向かうコースを取った、その前哨戦ないし、序曲では「ない」と考えられるからです。
では、ペルシャ湾をはさんだ両国には一体何が起きているのでしょうか?
1つの鍵は、処刑報道後の展開の速さです。イランでは処刑のニュースを受けて、間髪を入れずに群衆がサウジの大使館に投石や放火を行っていますし、その放火事件を受けると、これまた即座にサウジはイランとの断交を決定して、イランの外交官に国外退去を命じています。
一見すると、乾いた薪がメラメラと燃えるように一気に危機が進行しているように見えます。ですが、本当に深刻な危機が進行している場合は、そんなに「軽いスピード感」に乗って事態が動くことはないはずです。少なくとも同盟国や関係国との調整があって、その上で色々な努力の影が国際社会に漏れてきて、緊張が高まる中で事態が動いていく、国家というものが危機的な状況への突入を決意する場合にはそうした時間の感覚を伴うものです。
では、今回の「お互いの電光石火」というのは何なのでしょうか? それは、「緊張を相互に演出している」つまり、サウジとイランの「一種のヤラセ」だと考えると辻褄が合います。
しかしながら、実際に処刑ということが行われ、お互いに自国のナショナリズムに点火はしているわけです。外交関係を停止して外交官に国外退去を命じるというのは「相当なこと」です。仮に「示し合わせている」とか「あうんの呼吸でやっている」としたら、それはどういうことなのでしょうか?
1つの可能性は、両国共に「これ以上の原油安には耐えられない」という状況があり、ペルシャ湾の南北で緊張を発生させれば「原油価格を上昇させる」ことができると判断して、芝居とまでは行きませんが、お互いに「対立を国際社会にアピールする」ということを意識して行動しているというシナリオです。
もちろん決定的な証拠はありませんし、両国の指導者が認める可能性もありません。ですが、そのように見ることが一番合理的なように思うのです。
では、仮にそうだとして、今後の展開についても楽観できるかというと、それは違います。現在進行中の原油安というのは、70年代や80年代とはまったく違う複雑な構図として出てきているからです。サウジとイランが協調して「増産すれば価格を下げ」、反対に「対立をアピールすれば価格を上げる」ことができるような時代ではないのです。
その証拠に、事態を受けた年明け(週明け)1月4日の市場での原油価格の先物は、多少上昇していますが、30ドル台で推移しており、基本的に安定しています。現在の原油価格は、「この程度のこと」ぐらいで、そんなに上がるものではないのです。
そんな中、思うように原油価格が上がらなければ、サウジの財政危機、政治危機は深化してゆくでしょう。サウジのサルマン国王は、昨年死去したアブドラ前国王の後継として就任したばかりの新国王とはいえ既に80歳です。そして「創業者」イブン・サウドから数えて「第二世代」としては最後の国王となる可能性が濃厚です。
ということは、それほど遠くない時点で「次」へ、つまり「第三世代」へと権力が承継される事になります。現在の皇太子も副皇太子も「第三世代」つまり、物心ついた時には、「オイルマネーのあふれる」中で育った世代であり、同時に、その繁栄の基盤の脆さもより理解している世代だと言えます。
要するに、サウジという国家が存続していくには、いつまでも石油に頼っていてはダメなのです。国家のリストラを真剣にやらなければならないサルマン国王は、自分が「つなぎ」の国王という自覚の元で、色々な手を打とうとしているのかもしれません。
一方のイランでは、長年続いた「経済制裁」で経済は疲弊しています。そんな中で、米欧との核合意によって制裁が解除され、国際市場へ向けた原油の輸出を再開出来れば、国民の生活水準の向上が可能となり、世論の不満も沈静化できる「はず」でした。ですが、進行する原油安は、そうした期待に逆行する動きをしています。
サウジと比較すると、イランは大国です。ペルシャ帝国以来の伝統を掲げ、誇り高い独自言語を話す国民を8000万人近く養っていかねばなりません。こちらもサウジ同様に、石油に依存しない経済を、それも規模の大きな経済を作っていかねばならないのです。核合意というのは、「石油輸出が再開できるチャンス」というよりも「西側との交流を深くして、高付加価値の産業を育むスタート地点」として考え直すべきなのだと思います。
そう考えると、年明け早々にこうした「湾岸緊張のドラマ」が発生し、市場に見事に「突き放された」というのは、悪いことではないと思います。「原油価格戦争」のバカバカしさに早く両国が気づいて、「もっとカタギの商売」で生きていくように産業構造の転換へと動くキッカケになれば、それはそれで良いことだからです。
では、これでサウジとイランの関係はどんどん悪化していくのでしょうか?
例えばサウジと「シーア派の多数支配によってイランとの関係を強めつつある」イラクの現政権との関係が決定的に悪化したり、さらにはイランを挟撃する効果を計算してサウジが同じスンニ派のISIL勢力との対決から逃げたりするようなことがあるのでしょうか?
その延長線上で、中東で本格的な戦火が起こる可能性はあるのでしょうか?
可能性は低いと思います。それは、今回の事態は、サウジとイランが「抜き差しならない利害対立」を抱えて、その衝突へと向かうコースを取った、その前哨戦ないし、序曲では「ない」と考えられるからです。
では、ペルシャ湾をはさんだ両国には一体何が起きているのでしょうか?
1つの鍵は、処刑報道後の展開の速さです。イランでは処刑のニュースを受けて、間髪を入れずに群衆がサウジの大使館に投石や放火を行っていますし、その放火事件を受けると、これまた即座にサウジはイランとの断交を決定して、イランの外交官に国外退去を命じています。
一見すると、乾いた薪がメラメラと燃えるように一気に危機が進行しているように見えます。ですが、本当に深刻な危機が進行している場合は、そんなに「軽いスピード感」に乗って事態が動くことはないはずです。少なくとも同盟国や関係国との調整があって、その上で色々な努力の影が国際社会に漏れてきて、緊張が高まる中で事態が動いていく、国家というものが危機的な状況への突入を決意する場合にはそうした時間の感覚を伴うものです。
では、今回の「お互いの電光石火」というのは何なのでしょうか? それは、「緊張を相互に演出している」つまり、サウジとイランの「一種のヤラセ」だと考えると辻褄が合います。
しかしながら、実際に処刑ということが行われ、お互いに自国のナショナリズムに点火はしているわけです。外交関係を停止して外交官に国外退去を命じるというのは「相当なこと」です。仮に「示し合わせている」とか「あうんの呼吸でやっている」としたら、それはどういうことなのでしょうか?
1つの可能性は、両国共に「これ以上の原油安には耐えられない」という状況があり、ペルシャ湾の南北で緊張を発生させれば「原油価格を上昇させる」ことができると判断して、芝居とまでは行きませんが、お互いに「対立を国際社会にアピールする」ということを意識して行動しているというシナリオです。
もちろん決定的な証拠はありませんし、両国の指導者が認める可能性もありません。ですが、そのように見ることが一番合理的なように思うのです。
では、仮にそうだとして、今後の展開についても楽観できるかというと、それは違います。現在進行中の原油安というのは、70年代や80年代とはまったく違う複雑な構図として出てきているからです。サウジとイランが協調して「増産すれば価格を下げ」、反対に「対立をアピールすれば価格を上げる」ことができるような時代ではないのです。
その証拠に、事態を受けた年明け(週明け)1月4日の市場での原油価格の先物は、多少上昇していますが、30ドル台で推移しており、基本的に安定しています。現在の原油価格は、「この程度のこと」ぐらいで、そんなに上がるものではないのです。
そんな中、思うように原油価格が上がらなければ、サウジの財政危機、政治危機は深化してゆくでしょう。サウジのサルマン国王は、昨年死去したアブドラ前国王の後継として就任したばかりの新国王とはいえ既に80歳です。そして「創業者」イブン・サウドから数えて「第二世代」としては最後の国王となる可能性が濃厚です。
ということは、それほど遠くない時点で「次」へ、つまり「第三世代」へと権力が承継される事になります。現在の皇太子も副皇太子も「第三世代」つまり、物心ついた時には、「オイルマネーのあふれる」中で育った世代であり、同時に、その繁栄の基盤の脆さもより理解している世代だと言えます。
要するに、サウジという国家が存続していくには、いつまでも石油に頼っていてはダメなのです。国家のリストラを真剣にやらなければならないサルマン国王は、自分が「つなぎ」の国王という自覚の元で、色々な手を打とうとしているのかもしれません。
一方のイランでは、長年続いた「経済制裁」で経済は疲弊しています。そんな中で、米欧との核合意によって制裁が解除され、国際市場へ向けた原油の輸出を再開出来れば、国民の生活水準の向上が可能となり、世論の不満も沈静化できる「はず」でした。ですが、進行する原油安は、そうした期待に逆行する動きをしています。
サウジと比較すると、イランは大国です。ペルシャ帝国以来の伝統を掲げ、誇り高い独自言語を話す国民を8000万人近く養っていかねばなりません。こちらもサウジ同様に、石油に依存しない経済を、それも規模の大きな経済を作っていかねばならないのです。核合意というのは、「石油輸出が再開できるチャンス」というよりも「西側との交流を深くして、高付加価値の産業を育むスタート地点」として考え直すべきなのだと思います。
そう考えると、年明け早々にこうした「湾岸緊張のドラマ」が発生し、市場に見事に「突き放された」というのは、悪いことではないと思います。「原油価格戦争」のバカバカしさに早く両国が気づいて、「もっとカタギの商売」で生きていくように産業構造の転換へと動くキッカケになれば、それはそれで良いことだからです。