テクノロジー分野に関する「2016年注目の動き」といった趣旨の記事が、年末から年始にかけて複数の米媒体に掲載されていた。また米国では6日から始まる「CES 2016」(毎年恒例の家電分野のトレードショー)に合わせて、その見所を予想する記事も出ていた。
これらで共通して挙げられているのは、自動運転車、ドローン、VR、ウェアラブル、スマートホームなど。またこれらとのつながりからAI(人工知能)やセンサー、チップ類、それに全部を包括するIoTといった基幹要素を挙げたものも見かけた。全体として「昨年いっきに芽吹いた印象のある各技術が、今年どこまで成長するか」といった状況といっていいかもしれない。今回は主に自動運転車、ドローン、VRの3つの分野について現状をおさらいしてみる。
(1)自動運転車と配車サービス
まずいちばん注目度が高そうなのが自動車の分野で、CESでは大手自動車メーカー9社が出展したり発表を行ったりする予定・・・などと呑気に書いていたら、さっそくGM(ゼネラル・モータース)が配車サービス(ライドシェアリング)の米リフト(Lyft)に5億ドルを出資し、共同で自動運転車の開発を進めることになった、というニュースが米国時間1月4日に報じられて、大きな話題になっていた。今回のCESでGMのメアリー・バッラCEOが行う予定の基調講演のなかでも、この出資・提携に関する話に多くの時間が割かれることになっても不思議はないように思える。
グーグルがフォードと提携して配車サービスの合弁会社を設立するのではないか、その発表をCESで行うのでないか、という話が昨年末に流れていたのは前回の記事に記した通り。現時点ではまだ未確定のグーグルーフォードの提携話が本当に発表されると、米国で生き残った大手自動車メーカー2社がそれぞれシリコンバレー勢と手を組むことになる。日本勢やドイツ勢に比べて世界的には旗色がよくないようにみえる米国の2社がシリコンバレーとの相乗りを真っ先に決めたというのも興味深い点だが、これで一時的に取り残される格好の他の自動車メーカーや、独自に技術の開発を進めようとしているウーバー(米配車サービス最大手で世界展開を進行中)、あるいはテスラモーターズ、そして以前から自動車開発の噂が絶えないアップルなどがどういう動きを見せるかも気になるところ。
今回のGMーリフトの提携話で改めてはっきりしたのは、自動運転車開発に関する配車サービス事業者の影響力の大きさだろう。
配車サービス分野では、昨年ウーバーが中国に進出したのをきっかけに、ウーバーに対抗する大手各社の提携が活発化している。具体的には昨年初めまで中国市場で競合していたディディとクァイダイの大手2社が2月に合併、さらに昨年12月にはこのディディ・クァイダイ(Didi Kuaidi)とインド最大手のオラ(Ola)、東南アジア各国で事業展開するグラブタクシ(GrabTaxi)、それに米リフトが、サービスの相互乗り入れなどを含む業務提携を発表。またディディがリフトやタクシグラブに出資して・・・といった具合だが、このリフトに楽天が出資していたり、あるいはソフトバンクがディディやオラにも出資していたりもするので、一概に「海の向こうの話」とは片付けられない。
いっぽう、ウーバーは中国進出にあたって検索大手のバイドゥと手を組んでいる。バイドゥは中国国内をカバーする地図データを有し、また3Dマップ技術も開発。バイドゥのこの技術にアクセスするために同社と組んだとされるBMWは、ノキアからHEREという地図事業を買った独大手自動車メーカー3社のひとつでもあるが、自動運転車に関していまのところドライバー(人間)の存在を前提とするBMWと、人間のドライバーなどないに超したことはないウーバーとは究極的に利害が相反する。そうした点からこの3社の間でどういった協力あるいは棲み分けがなされるのかなども注目したいところだ。
ちなみに2014年の世界の自動車販売台数は小型車だけで約8900万台で、そのうち中国が年間2350万台、米国が1670万台というデータがある。この2つの市場を合わせるとそれだけで全体の4割を超える計算だが、それぞれの市場で急速に存在感を増す配車サービスが長期的に自動車メーカーの売上にどういう影響を及ぼすことになるのか・・・この疑問に対する答えの手がかりはあいにくまだ目にしていない。
なお、上記の配車サービス4社には米・中・露・インド・アラブなど世界中から資金が流れ込んでいて非常に興味深いが、これについては改めて整理してみたい。
今回のCESでは、GMのCEOに加えて、ディーゼル車の排ガス問題で注目を集めるVWのCEOも基調講演を予定。また個人的には、トヨタが展示予告を出していた「クラウドソース式地図データ収集技術」の中味や、以前に紹介したファラデイ・フューチャー(中国LeTV創業者が支援する米EVベンチャー)がどんなプロトタイプを発表してくるかも気になるところ。
米国では今年カリフォルニア州で自動運転車の行動実験が一斉に始まる予定もあり、それに関連する話題が多く報じられることになる可能性も高い。さらに同州の規制当局(DMV)がルール作成に向けてパブリックコメントの収集やタウンホールミーティング開催も予定している自動運転車利用のガイドラインもその後に影響を及ぼすことになるかもしれない。
(2)小型ドローン
米国では昨年のクリスマス商戦期に数十万台のホビー用ドローンが販売されそうとの見通しが出ていた。まだ実数は明らかにされていないようだが、連邦政府からユーザー登録が義務づけられたので、早晩実数が明らかになると思われる。そうした普及を土台として、今年はどういった新たな活用方法がみつかるか、といった点に注目が集まりそうだ。
まず一般向け製品については、すでに日本でも製品が手に入る中国DJIの存在感が大きい。同社は、新たに農業向けのドローンを中国などで発売する計画も昨年暮れに明らかにしていた。
いっぽう、この対抗馬としてもっとも注目を集めそうなのが、アクションカメラ・メーカーのゴープロ(GoPro)。もともとDJI製ドローンにゴープロのカメラを積んで空撮するユーザーが多かったことから、DJIが自社でカメラを搭載する新製品を開発・発売し、それに対抗してゴープロ側でもドローン市場に参入、という格好で、このゴープロ製ドローンが今年前半にも発売になる。この2社のほかに、仏パロット(Parrot)、米3Dロボティクス(3D Robotics)なども加わって、特定のユーザーや用途に特化した製品開発が進むかも知れない。
こうした製品メーカー同士の争い以上に興味を惹くのが、プロセッサメーカーの動きで、たとえばクアルコムはドローン向けに特化した「Snapdragon Flight」というチップセットを投入して、「現在1200ドルくらいで販売されている4Kカメラ搭載ドローンの値段を300〜400ドル程度まで引き下げる」としている。またこのチップセットには空間の奥行きも把握できる3Dセンサも内蔵されており、撮影した影像から3Dマップを作成することなどが想定されているという。
クアルコムと競合するインテルでも、アスセンディング・テクノロジーズ(Ascending Technologies)というドイツのドローン開発ベンチャーを買収したと米国時間4日に発表していた。アスセンディングの製品にもインテルの「RealSense」用3Dカメラが採用されているというから、想定しているドローンの用途はクアルコムのそれと方向性はほぼ一緒ーーやはり3Dマップ作成ということだろう。
(3)VR
VR(Virtual Reality)関連では、すでにサムスン「Gear VR」とGoogle「Cardboard」という2種類のヘッドセットが発売されており、フェイスブック傘下のオキュラス(Oculus)も6日からヘッドセットの予約受付を開始予定。また台湾HTC、ソニーからもヘッドセットが発売になる。これに関して「VRの映像処理に対応できる高性能PCが世界中にまだ1300万台程度しか存在しない」というエヌヴィディアの推定が昨年末にBloombergで報じられてちょっとした話題になっていた。
そうした点を含めて考えると、すでに普及台数が2500万台を突破したとされる「PlayStation 4」の存在を前提につくられたソニー製品が一歩優位といえるかもしれない。ただ、Bloomberg記事には、今年中のVRヘッドセットの普及台数について約700万台とするIHSの推定と、120万台とする米Consumer Technology Association(CES主催団体)の予測が併記されており、全体として期待は大きいがどこまで広く普及するかはまだ未知数といった感じも伝わってくる。
普及のカギを握るとされるコンテンツについては、いまのところやはりゲームなどが中心のようで、またWSJ記事では「乗り物酔い」に似た不快感のような課題がどこまで解決されているかといった点も指摘されている。そうしたこともふくめ、もうしばらくは試行錯誤の期間が続くのかもしれない。
またゲームをはじめとするエンターテイメント以外の用途についても気になるところ。たとえば、上記のドローンとの関連でいうと、ドローンの3Dカメラをつかって撮影・作成した3次元マップのなかをVRヘッドセットを装着したユーザーが探索できる、といったものが実現できればいろいろな目的にVRが活用できるようにも思われるが、そうしたものがはたして実現可能かどうかなどはよくわからない。
三国大洋(オンラインニュース編集者)
これらで共通して挙げられているのは、自動運転車、ドローン、VR、ウェアラブル、スマートホームなど。またこれらとのつながりからAI(人工知能)やセンサー、チップ類、それに全部を包括するIoTといった基幹要素を挙げたものも見かけた。全体として「昨年いっきに芽吹いた印象のある各技術が、今年どこまで成長するか」といった状況といっていいかもしれない。今回は主に自動運転車、ドローン、VRの3つの分野について現状をおさらいしてみる。
(1)自動運転車と配車サービス
まずいちばん注目度が高そうなのが自動車の分野で、CESでは大手自動車メーカー9社が出展したり発表を行ったりする予定・・・などと呑気に書いていたら、さっそくGM(ゼネラル・モータース)が配車サービス(ライドシェアリング)の米リフト(Lyft)に5億ドルを出資し、共同で自動運転車の開発を進めることになった、というニュースが米国時間1月4日に報じられて、大きな話題になっていた。今回のCESでGMのメアリー・バッラCEOが行う予定の基調講演のなかでも、この出資・提携に関する話に多くの時間が割かれることになっても不思議はないように思える。
グーグルがフォードと提携して配車サービスの合弁会社を設立するのではないか、その発表をCESで行うのでないか、という話が昨年末に流れていたのは前回の記事に記した通り。現時点ではまだ未確定のグーグルーフォードの提携話が本当に発表されると、米国で生き残った大手自動車メーカー2社がそれぞれシリコンバレー勢と手を組むことになる。日本勢やドイツ勢に比べて世界的には旗色がよくないようにみえる米国の2社がシリコンバレーとの相乗りを真っ先に決めたというのも興味深い点だが、これで一時的に取り残される格好の他の自動車メーカーや、独自に技術の開発を進めようとしているウーバー(米配車サービス最大手で世界展開を進行中)、あるいはテスラモーターズ、そして以前から自動車開発の噂が絶えないアップルなどがどういう動きを見せるかも気になるところ。
今回のGMーリフトの提携話で改めてはっきりしたのは、自動運転車開発に関する配車サービス事業者の影響力の大きさだろう。
配車サービス分野では、昨年ウーバーが中国に進出したのをきっかけに、ウーバーに対抗する大手各社の提携が活発化している。具体的には昨年初めまで中国市場で競合していたディディとクァイダイの大手2社が2月に合併、さらに昨年12月にはこのディディ・クァイダイ(Didi Kuaidi)とインド最大手のオラ(Ola)、東南アジア各国で事業展開するグラブタクシ(GrabTaxi)、それに米リフトが、サービスの相互乗り入れなどを含む業務提携を発表。またディディがリフトやタクシグラブに出資して・・・といった具合だが、このリフトに楽天が出資していたり、あるいはソフトバンクがディディやオラにも出資していたりもするので、一概に「海の向こうの話」とは片付けられない。
いっぽう、ウーバーは中国進出にあたって検索大手のバイドゥと手を組んでいる。バイドゥは中国国内をカバーする地図データを有し、また3Dマップ技術も開発。バイドゥのこの技術にアクセスするために同社と組んだとされるBMWは、ノキアからHEREという地図事業を買った独大手自動車メーカー3社のひとつでもあるが、自動運転車に関していまのところドライバー(人間)の存在を前提とするBMWと、人間のドライバーなどないに超したことはないウーバーとは究極的に利害が相反する。そうした点からこの3社の間でどういった協力あるいは棲み分けがなされるのかなども注目したいところだ。
ちなみに2014年の世界の自動車販売台数は小型車だけで約8900万台で、そのうち中国が年間2350万台、米国が1670万台というデータがある。この2つの市場を合わせるとそれだけで全体の4割を超える計算だが、それぞれの市場で急速に存在感を増す配車サービスが長期的に自動車メーカーの売上にどういう影響を及ぼすことになるのか・・・この疑問に対する答えの手がかりはあいにくまだ目にしていない。
なお、上記の配車サービス4社には米・中・露・インド・アラブなど世界中から資金が流れ込んでいて非常に興味深いが、これについては改めて整理してみたい。
今回のCESでは、GMのCEOに加えて、ディーゼル車の排ガス問題で注目を集めるVWのCEOも基調講演を予定。また個人的には、トヨタが展示予告を出していた「クラウドソース式地図データ収集技術」の中味や、以前に紹介したファラデイ・フューチャー(中国LeTV創業者が支援する米EVベンチャー)がどんなプロトタイプを発表してくるかも気になるところ。
米国では今年カリフォルニア州で自動運転車の行動実験が一斉に始まる予定もあり、それに関連する話題が多く報じられることになる可能性も高い。さらに同州の規制当局(DMV)がルール作成に向けてパブリックコメントの収集やタウンホールミーティング開催も予定している自動運転車利用のガイドラインもその後に影響を及ぼすことになるかもしれない。
(2)小型ドローン
米国では昨年のクリスマス商戦期に数十万台のホビー用ドローンが販売されそうとの見通しが出ていた。まだ実数は明らかにされていないようだが、連邦政府からユーザー登録が義務づけられたので、早晩実数が明らかになると思われる。そうした普及を土台として、今年はどういった新たな活用方法がみつかるか、といった点に注目が集まりそうだ。
まず一般向け製品については、すでに日本でも製品が手に入る中国DJIの存在感が大きい。同社は、新たに農業向けのドローンを中国などで発売する計画も昨年暮れに明らかにしていた。
いっぽう、この対抗馬としてもっとも注目を集めそうなのが、アクションカメラ・メーカーのゴープロ(GoPro)。もともとDJI製ドローンにゴープロのカメラを積んで空撮するユーザーが多かったことから、DJIが自社でカメラを搭載する新製品を開発・発売し、それに対抗してゴープロ側でもドローン市場に参入、という格好で、このゴープロ製ドローンが今年前半にも発売になる。この2社のほかに、仏パロット(Parrot)、米3Dロボティクス(3D Robotics)なども加わって、特定のユーザーや用途に特化した製品開発が進むかも知れない。
こうした製品メーカー同士の争い以上に興味を惹くのが、プロセッサメーカーの動きで、たとえばクアルコムはドローン向けに特化した「Snapdragon Flight」というチップセットを投入して、「現在1200ドルくらいで販売されている4Kカメラ搭載ドローンの値段を300〜400ドル程度まで引き下げる」としている。またこのチップセットには空間の奥行きも把握できる3Dセンサも内蔵されており、撮影した影像から3Dマップを作成することなどが想定されているという。
クアルコムと競合するインテルでも、アスセンディング・テクノロジーズ(Ascending Technologies)というドイツのドローン開発ベンチャーを買収したと米国時間4日に発表していた。アスセンディングの製品にもインテルの「RealSense」用3Dカメラが採用されているというから、想定しているドローンの用途はクアルコムのそれと方向性はほぼ一緒ーーやはり3Dマップ作成ということだろう。
(3)VR
VR(Virtual Reality)関連では、すでにサムスン「Gear VR」とGoogle「Cardboard」という2種類のヘッドセットが発売されており、フェイスブック傘下のオキュラス(Oculus)も6日からヘッドセットの予約受付を開始予定。また台湾HTC、ソニーからもヘッドセットが発売になる。これに関して「VRの映像処理に対応できる高性能PCが世界中にまだ1300万台程度しか存在しない」というエヌヴィディアの推定が昨年末にBloombergで報じられてちょっとした話題になっていた。
そうした点を含めて考えると、すでに普及台数が2500万台を突破したとされる「PlayStation 4」の存在を前提につくられたソニー製品が一歩優位といえるかもしれない。ただ、Bloomberg記事には、今年中のVRヘッドセットの普及台数について約700万台とするIHSの推定と、120万台とする米Consumer Technology Association(CES主催団体)の予測が併記されており、全体として期待は大きいがどこまで広く普及するかはまだ未知数といった感じも伝わってくる。
普及のカギを握るとされるコンテンツについては、いまのところやはりゲームなどが中心のようで、またWSJ記事では「乗り物酔い」に似た不快感のような課題がどこまで解決されているかといった点も指摘されている。そうしたこともふくめ、もうしばらくは試行錯誤の期間が続くのかもしれない。
またゲームをはじめとするエンターテイメント以外の用途についても気になるところ。たとえば、上記のドローンとの関連でいうと、ドローンの3Dカメラをつかって撮影・作成した3次元マップのなかをVRヘッドセットを装着したユーザーが探索できる、といったものが実現できればいろいろな目的にVRが活用できるようにも思われるが、そうしたものがはたして実現可能かどうかなどはよくわからない。
三国大洋(オンラインニュース編集者)