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母親代行テクノロジーに家事はお任せ!

ニューズウィーク日本版 2016年1月5日 17時10分

 50年前に約束されていたゆとりある未来を手にして、誰もが今より幸せになれる。それが「ママ代行エコシステム」だ。

 あと10年もすれば、仕事以外はすべて余暇の時間になるかもしれない。各種の代行サービスが発達して、家事をすべて自分でこなす必要はなくなり(母親にしてもらう必要もなくなり)、気軽に外注できるようになるだろう。

 さまざまな家事とそれを引き受ける人をマッチングさせる家事代行サービスの「タスクラビット」。オンデマンドで洗濯を依頼できる「ワシオ」。スーツケースの荷造りから旅先への配送、回収、服の洗濯、保管までお任せの「ダフル」。こうした代行サービスのスタートアップ企業は、ベンチャー投資から巨額の資金を調達している。

 15年5月、あるエンジニアが投稿したツイートが話題になった。「OH(聞いた話、の意味):サンフランシスコのテクノロジー文化が取り組む問題はただ1つ。母さんがボクのためにやってくれなくなったことは、どうすればいいの?」

 多くの人が、この言葉をテクノロジー文化への批判と受け止めた。世の中には地球温暖化や貧困、肥満など重要な問題があるというのに、20代の起業家はその並外れた才能を費やして、カネを持て余している生意気な20代のために「母親の代わり」を開発しているのか──。

ウィン・ウィンの方程式

 しかし、彼らの取り組みを、省力化という長期的な視点で捉えることもできる。50年代と60年代は、電化と機械化が戦後の好景気と重なり、人々は日常の単純な仕事から解放されるという新しい未来を描き始めた。洗濯機や食器洗浄機、掃除機、電動工具、電子レンジなどが普及。たらいで洗濯物をすすぐなど、ずっと人の手でこなしてきた家事や作業が突然、平均的な日常生活から姿を消した。

 人々は胸を躍らせた。これほど多くのことがこれほど急速に機械化されれば、もう後戻りはしないはずだ。30世紀を舞台にしたアニメ『宇宙家族ジェットソンズ』の家政婦ロボット「ロージー」も、近いうちに実現しそうに思えた。

 しかし、テクノロジーは行き詰まった。この半世紀、機械化は日常の雑用をどれだけ楽にしてくれただろうか。ロボット掃除機のルンバやネコ用全自動トイレは身近な製品になったが、GPSで動く全自動芝刈りロボットはまだ大量生産に至っていない(現代の技術があれば簡単そうな気もするが)。

 一方で、今日のソーシャルメディア社会のつながりとソフトウエアは、家事をこなす機械を作る代わりに、私たちが効率的に互いの家事をし合う巨大なシステムを築いている。

 自分が得意な作業は人の分まで請け負い、嫌いな家事や苦手なことはやらなくていい。このようなシステムがすべての人の未来を明るくする理由は、一般的な経済理論で説明できる。すなわち、19世紀の経済学者デービッド・リカードが提唱した比較優位だ。

 それぞれの国が最も得意とする経済活動を行い、最も優れた製品やサービスを輸出すれば、すべての国の生産性が向上し、より高品質のものを割安で手に入れられる。これが比較優位の基本的な考え方だ。すべての国が自分の最も得意な経済活動と貿易に専念すれば、すべての国の生活の質が向上する。

 家事代行サービス業の創業者たちは、自分の面倒を省きたいと思っただけかもしれない。しかし彼らは、自分が最も得意なことだけをやり、それ以外のことはそれが得意な人に外注するという仕組みを築いている。

 裏を返せば、最も得意なことを他人のためにやってカネを稼ぎ、そのカネで最も優れたサービスを買う。リカードによれば、この大きなサイクルがすべての人の生活を向上させる。

AI家政婦ロボも登場か

 家事代行サービスのスタートアップが最も多いアメリカは、20代の人口がかなり多い。つまり、母親代行ビジネスがカネを生む市場を見つけやすく、実家を出たばかりの独身者という大きな牽引力がある。

 この年代も10年後には大半が結婚して子供を持ち、ローンを組んで家を買い、優先順位ががらりと変わるだろう。そのとき彼らは、ワシオのような便利さを手放すだろうか。

 断じてそんなことはない。生まれたときから食洗機があった世代が、食洗機のない家を買うだろうか。新しい便利さを経験しながら大人になれば、生涯その便利さを必要とする。レシピに合わせて新鮮な食材と計量済みの調味料が宅配される「ブルーエプロン」に慣れ親しんだ人々は、毎晩メニューに頭を悩ませる生活には戻らない。

 さらに、今後数十年で人工知能(AI)が家事代行サービスの基盤になれば、人の手を借りる必要もなくなる。自動運転車が子供を送迎し、AI家庭教師が宿題を手伝う。家事のやり方を機械学習した「AIロージー」も夢ではなさそうだ。

 そこまでくれば、ロボットママの実現も時間の問題だろう。そして、時代は一周して元に戻る。疲れを知らないロボットママたちは「自分のことは自分でやりなさい」と永遠に繰り返すだろう。

[2015.12.22号掲載]
ケビン・メイニー

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