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「激動の2016年」7つの展望 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2016年1月12日 15時30分

 2016年がスタートして、まだ2週間も経っていないのですが、「上海株の下落」「サウジ=イラン断交」「北朝鮮の核実験」と、大きなニュースが連続しています。アメリカではオバマの「銃規制案」に対して、トランプが「全ての学校に銃武装を許可する」という「暴言返し」を行うなど、依然として「荒れた政局」が続いています。

 こうなると、一つ一つの事象を「後追いで真面目に分析」するだけでは、とても時代の流れには追いつけません。そこで、あらためて「年の初め」ということで「今年の予想」をしてみたいと思います。

(1)中国株の下落に始まった世界経済の乱調は、ゆっくりと深刻化していく。アメリカ株の大暴落はないが、10%程度の調整は何度か入るだろうし、FRBの利上げは第1四半期にもう一回やって、以降は様子見になる。

(2)サウジはイランとの確執を強めるが原油価格は一向に反応しないで、軟調傾向が続くだろう。そこでサウジとしては、国営石油を上場させて資金調達を行い、政府のキャッシュフローを落ち着かせると共に、シェールなど他のエネルギー源となる企業を世界中で買収し続けるだろう。それでも原油価格は軟調なままであり、サウジとしては忍耐の一年となろう。イランに関しては、オバマが任期の最終段階で「イスラエル敵視姿勢の撤回」か、それに近い「軟化工作」を行う可能性がある。

(3)北朝鮮と東アジア情勢に関しては、中国が「現状維持」のために大きな努力を払うだろう。その結果として、緊張は継続するものの、危機が一定レベルを超えることは回避される。台湾では蔡英文(現野党・民進党)政権が成立して大陸との緊張が生まれる一方で、求心力維持のために「反原発」の推進を強化するだけでなく、「日本との距離」を打ち出してくる可能性があるが、最終的には日中台の政治的バランスは維持される。

(4)オバマ政権は任期の終わりに向かって、ロシアの孤立化を進める。一方で、原油安に耐えられなくなったロシアは、ウルトラC的な戦略、例えば「サウジに接近する」あるいは「インドネシアに急接近する」といった動きに出る可能性がある。

(5)米大統領選では、トランプは「キング牧師への批判」と「ユダヤ系への挑発」という最後の一線を超えたところで一気に失速する。本選の正副大統領候補は「ヒラリー+ブッカー上院議員」と「ルビオ+クリスティ」という組み合わせでの戦いとなり、ニュージャージー州出身の両副大統領候補が注目を浴びる。本選の結果は、景気が何とか維持されればヒラリー、大きく崩れればルビオ。

(6)日本の参院選では、景気への危機感から安倍政権が「憲法の争点化」と「衆参同時選」の2つを断念するのであれば、与党大敗は回避されて政権は存続する。一方で、憲法を争点としながら欲張って同時選を行うと、与党は過半数割れして連立協議となるが、協議が難航して長期化する中で国債の格付けが下がり国家として危機的な状況に陥る。

(7)円については、ドルの利上げが消極的になりドル安圧力が円高に触れる一方で、これを嫌って日銀が再度の流動性供給に進むと、インフレがコントロール不能になる副作用の危険が大きくなることから、介入には慎重でありつつ「企業の連結業績での円高デメリットが原油安メリットで相殺される均衡点」をうまく移動できれば、為替政策としては上策。その場合のボックス圏は118円から108円。


<追悼 竹田圭吾氏>
 本欄でのコラム執筆を開始したのを契機として、ご縁があり、その後も一時帰国のたびにお目にかかっていたのですが、アメリカでは出演されていた情報番組などは見ることができない関係で、ここまで病状が進んでおられることは存じませんでした。

 考えてみれば、国際的な視点、中道現実主義、多角的な観点など対象に対する姿勢などでは、強い「同志」意識を私は持っていたのですが、どういうわけか、お目にかかると「激論」にならないどころか、「清談」といった趣でいつも終わってしまうのが常でした。

 それはそれで常に爽やかな余韻を残すものであり、お互いの関係性ということでは、そんなお付き合いで良かったのかもしれませんが、竹田さん独自の思想や態度のようなものの「核」の部分まで突っ込んでうかがうようなことができなかったのが悔やまれます。

 考えてみれば、現在世界的に話題になっているポピュリズムの問題など、竹田さんが鋭い視線でみつめておられたイシューについて、もっとお話をしておけばよかった、訃報に接する中で、そんな後悔が沸き起こってくるのを感じます。

 そういえば、昨年末の「国会議員の育休への反発」問題や、パリのテロに関してフランスの「政教分離主義が胸を張りすぎる」問題などに関するツイートには鬼気迫るものがあったわけで、それを私は遺言として受け止めています。

 それにしても、享年51歳。何という若さでしょう。成熟ということも含めて人生を駆け抜けて行かれたということなのでしょうが、このような形で見送る痛みというのは厳しいものです。最後になりましたが、竹田さんどうもありがとうございました。ご冥福をお祈りします。

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