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ISIS化するジャカルタのテロ攻撃

ニューズウィーク日本版 2016年1月15日 15時30分

 インドネシアの首都ジャカルタで14日に発生した銃撃事件では、実行犯とみられる5人と民間人2人の計7人が死亡した。複数の爆発と警察との銃撃戦があったのは、買い物客で賑わうジャカルタ中心部のショッピングモール「サリナ」周辺。ジョコ・ウィドド大統領は、今回の事件を「テロ行為」と非難した。

 テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)はネット上で、「ISインドネシア支部」による犯行声明を出した。しかし実行犯とみられる死亡した5人が、ISISとどのような繋がりがあったかは、まだわかっていない。

 インドネシアのイスラム過激派は2000年代に入って以降、いくつかの大規模なテロを実行している。02年のバリ島爆弾テロ事件では、現場近くのディスコに集まっていた202人が死亡し、そのうち88人がオーストラリア人観光客だった。

 ニュースサイト「The Conversation」では、オーストラリア・モナシュ大学のテロ対策専門家ヌール・フダ・イスマイルに、インドネシアのテロ組織の現状と、その危険性について話を聞いた。

――ジャカルタのホテルで同時爆弾テロがあったのが09年で、それからかなりの年月が経過しているが、なぜ今再びインドネシアでテロがあったのか?

 インドネシア警察の対テロ特殊部隊は、2000年代に爆弾テロを実行した国内のテロ組織ネットワークの壊滅に相次いで取り組み、かなりの成果を上げた。

 東南アジアを拠点とするイスラム過激派ジャマー・イスラミアのメンバーで、02年のバリ島爆弾テロの主要な実行犯2人は08年に処刑された。やはりジャマー・イスラミアのメンバーで、03年のジャカルタのマリオット・ホテルの爆弾テロにも関与した実行犯も、09年の拠点摘発時に死亡した。

 しかし最近になって、インドネシアの何人かのイスラム過激派が、シリアに渡ってISISのテロに参加した。前回09年のジャカルタ同時爆弾テロ以降時間が経過しているので、インドネシアのテロ組織は活動を再開するだけの攻撃力を回復している。

 またシリアの戦闘から帰還した戦闘員が、国内で下部組織を結成している。インドネシアでは多くのテログループに細かく分かれているので、彼らは自分たちの存在を示したいと考えている。

 今回のテロの実行犯は、テロへの警戒が弱い1月のこの時期を狙ったのではないだろうか。警察の対テロ特殊部隊は、年末には警戒を強化し、昨年末のテロ計画は未然に防いだと報じられている。

――以前のテロと今回のテロの違いはあるか?

 以前のテロの実行犯は、大がかりな装備を使用していた。爆弾の取り扱いには注意が必要で、爆弾を仕掛ける車両も用意しなければならなかった。テロの標的は通常は1カ所で、連続テロではなかった。また実行犯は2~3人に限られていた。

 今回のテロでは、実行犯がライフルと手榴弾を使用している。実行犯の人数も以前より多い。(ジャカルタがある)ジャワ島内でライフルを入手するのは不可能なので、警察はライフルの入手先を特定するため、フィリピンのイスラム武装組織との関係についても調べる必要があるだろう。

――ISISとの関連は?

 報道では、ISISが事前に地元警察に対して、インドネシアで「コンサートが開かれ」、国際的なニュースになると警告したと報じられている(事件後、ISISは犯行声明を公開)。しかし警察はまだ、どの組織がテロを実行したのかは断定していない。

――インドネシアで活動する過激派にはどのようなものがあるのか?

 国内には「ジャマー・イスラミア」の他にも、いくつか規模の大きい過激派組織がある。いずれもインドネシアの世俗政権を転覆して、シャリーア(イスラム法)に基づくイスラム国家を創設することを目指している。

 小さなテロ組織もたくさんある。公式には大きなテロ組織とは繋がっていないが、前述のような大きなテロ組織とその指導者を敬い、活動の参考にしている。

 宗教的な信条とは無関係に、自分たちの「同胞」のテロ戦闘員を逮捕して拷問する警察当局にも怒りを募らせている。

 またインドネシアのテロ組織は、スマートフォンやソーシャルメディアを使ってお互いに連携を取り合っている。宅配サービスを使う時もある。多くの組織が、フィリピン南部やシリアのテロ組織との連絡ルートも持っている。

――インドネシア当局の対テロ戦略はどうなっているのか?

 インドネシア警察は、オーストラリア連邦警察と協力して、テロ実行計画に関する情報を共有し、武装組織の摘発にあたっている。

 しかしインドネシアの国内法には、国外で軍事訓練を受けた者た帰国しても、それを違法とする規定が無い。結果として、帰国した戦闘員を警察が特定して逮捕しても、犯罪容疑で起訴することができない。

 国外のテロ組織に幻滅して帰国する戦闘員もいるのだから、これではテロ対策にはならない。彼らを説得し、警察と協力してテロ組織の考え方を中から改めさせるように働きかけることも必要だろう。


Noor Huda Ismail, PhD Candidate in Politics and International Relations, Monash University

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

ヌール・フダ・イスマイル(豪モナシュ大学博士課程)

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