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【まんが】人間は保守的だから、80対20の法則は活用されにくいが

ニューズウィーク日本版 2016年1月19日 15時12分

「利益の80%は顧客の20%がもたらす」「仕事の成果の80%は費やした時間の20%から生まれる」――こんな法則について、聞いたことのある人は少なくないだろう。「80対20の法則」あるいは「パレートの法則」という名で知られ、驚きや実感とともに世界中で語り継がれてきた。

 だが、多くの人はこの法則を、なんとなく知ってはいても、理解はしていないのではないか。80対20の法則で大切なのは「世の中そんなもの」と達観することではなく、それを"使う"こと。リチャード・コッチによる『新版 人生を変える80対20の法則』(仁平和夫/高遠裕子訳、CCCメディアハウス)は、この法則を人生やビジネスに応用し、成功を導くためのいわば手引書だ。

 このたび、この世界的ロングセラーがオリジナルストーリーでコミック化されたのを機に、『まんがでわかる 人生を変える80対20の法則』(リチャード・コッチ原作、阪口ナオミ作画、CCCメディアハウス)の「プロローグ」と「第1章」から一部を抜粋し、5回に分けて掲載する。

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『まんがでわかる 人生を変える80対20の法則』
 リチャード・コッチ 原作
 阪口ナオミ 作画
 CCCメディアハウス



『新版 人生を変える80対20の法則』
 リチャード・コッチ 著
 仁平和夫/高遠裕子 訳
 CCCメディアハウス


※第1回【まんが】80対20の法則は、実は使ってこそ価値がある はこちら
※第2回【まんが】少ない努力で大きな成果を出すのが、80対20の法則 はこちら
※第3回【まんが】駄菓子屋の経営も、20%の売れる商品が支えている はこちら
※第4回【まんが】投入と産出、原因と結果、努力と報酬の「不均衡」は一貫している はこちら

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ジップとジュランの再発見

 しかし、80対20の法則はじつに半世紀にわたって埋もれていました。再発見されたのは、1949年のことです。ハーバード大学の心理学教授ジョージ・K・ジップは、パレートの法則を再発見し、それに磨きをかけました。そして「最小限の法則」を発表したのです。

 それは、「資源(人間、財、時間、技能など、生産に費やされるものすべて)は、労力が最小限ですむように自らを調整する傾向がある」というものでした。そしてこの法則がはたらくため、産出の70~80%がわずか20~30%の資源からもたらされるという不均衡が生じることを発見したのです。

 さらに1951年には、ルーマニア生まれのアメリカ人技師ジョセフ・モーゼス・ジュランが、「ほんの一部の要因が全体に決定的な影響を与える」という法則を、品質管理に応用しました。彼は、品質管理を専門とするコンサルティング会社を設立、欠陥品をなくし、製品の信頼性と価値を高めることに成功したのです。

 ジュランは1953年に、日本企業に品質改善の手ほどきをしています。そして1970年代になると、日本の製品の品質のよさは、アメリカにとって脅威となります。このことがジュランを世界的に有名にし、彼は今度はアメリカで品質改善の方法を教え始めたのでした。

コンピューターと80対20の法則

 80対20の法則にいち早く注目し、それを取り入れて大成功したのはIBMでした。IBMは1963年に、コンピューターを使う時間の約80%が、全機能のうちの約20%に集中していることに気づきました。

 そこでただちに、頻繁に使われる20%の機能がユーザーにとって使いやすくなるように、OS(基本ソフト)を書き換えたのです。このため、日頃盛んに使うアプリケーションでは、IBMのコンピューターの性能が最も高く、最も高速になりました。

 アップルやロータス、マイクロソフトなどの次世代パソコンとそのソフトを開発した新興企業も、80対20の法則を活かしてきました。それによって、製品価格が下げられたり、使い勝手がよくなったりして、ユーザーを広げていったのです。

勝者総取りの現状

 パレートが所得分布の不均衡を発見して1世紀以上がたちますが、この法則は今でも当てはまっています。1994年の映画監督のスピルバーグの年収は、1億6千5百万ドルでした。また超売れっ子の弁護士ジョセフ・ジャメイルの年収は9000万ドルでした。しかし、普通の映画監督や弁護士はその100分の1も稼いでいないのです。

 20世紀以降、所得格差を是正するために大変な努力が続けられていますが、それは失敗に終わっています。アメリカでは、1973年から95年までに平均所得は36%も上がっていますが、一般勤労者の所得は逆に14%も減っているのです。所得が増えたのは、おもに上位20%の人たちだけであって、所得の増加分の64%は所得上位1%の人たちに集中しています。

受け入れにくい80対20の法則

 80対20の法則は、受け入れにくく、実感がわきにくい側面を持っています。一般に、努力と報酬はだいたい釣り合っていて、どの消費者も、どの従業員も、どのビジネスも、どの製品も等しく重要だと考えられているのです。

 10日働けば、1日の10倍稼げる。友達はみんな等しく大切だから、同じように対応しなければならない。どの問題にもいろいろな原因があるから、ひとつやふたつの要因だけを切り離しても仕方がない。どんなことでも成功する確率はほぼ同じだから、どんなチャンスにも目を向けなければならない。私たちはこう教わってきましたし、それが民主的な社会のようにも思えています。

 利益を上げていない社員や顧客であっても、「目に見えない貢献がある」「将来的に利益を生み出す」などと考えて、対策を講じないのが普通です。そして、それが正しく道徳的であると思われがちなのです。利益を上げている社員や顧客だけを優遇することは、何か非道徳的で不公平なことのように感じられるものです。

『まんがでわかる 人生を変える80対20の法則』より

なぜ法則が活用されないか

 製品、顧客、従業員の20%が、利益の80%を生み出している。これまで実施された詳細な調査によれば、どの企業でも、ほぼこれに近い数値が出ています。残りの80%は利益の20%にしか寄与していないのですから、効率の悪い80%の製品、顧客、従業員が、効率のよい20%の足を引っ張っていることになります。

 ですから効率のよい20%にもっと目を向ければ、会社の利益は何倍にも増えるでしょう。しかし、実際にそうなっているとは言い難いのが現状です。では、利益を追求するはずの企業が、なぜ、20%の利益しか生まない80%の製品を作り続け、20%の利益しか生まない社員を放置しておくのでしょうか。

 一言で言えば、人間は保守的であり、保身を重視するからです。

 80対20の法則に従えば、80%の事業が中止され、工場が閉鎖されたり取引が取りやめになったりする可能性があります。また従業員の80%が解雇されるかもしれません。そしてその中に、あなたがいるかもしれないのです。こういったリスクを背負ってまで企業を改善しようと提案するには、大きな勇気が必要になります。

 実際には、工場は閉鎖されず、より効率のよい製品作りに転用され、人材も適材適所の配置や教育によって有効活用されるのですが、そのことはなかなか理解されないようです。しかし、個人も企業も政府も、より豊かになるためには、80対20の法則を理解し、活用していかなければいけません。

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