社内の挑戦意欲の維持のためトップがなすべきことは
いま、ドワンゴはターニングポイントを迎えています。
1997年にゲーム開発の会社として生まれたドワンゴは、2000年代初頭にモバイル向けのコンテンツ配信で成長し、さらに2006年に立ち上げた「niconico」*(ニコニコ動画)を日本最大規模の動画サイトへと発展させました。
順風満帆のように見えるかもしれませんが、紆余曲折はありました。niconicoは立ち上げてしばらくは赤字続きだったんです。黒字化したのは開設から4年目ですね。黎明期から初期の発展期までは本当に収益につながらなかった。でも、ユーザーの投稿動画と生放送番組を軸とした動画コミュニティサービスは他にないユニークなもので、潜在的な価値が見込まれました。
そこで当時調子のよかったモバイルの音楽配信ビジネスで会社を支えながら、niconicoの足場を固めて事業の中核をniconicoにスイッチさせようという、そんな状況で僕が社長に就任したんです。2012年11月のことです。
いまこそ必要な"ちゃんとした"経営
当時はマネジメントが十分に機能しているとは言いがたい状態でした。例えば予定外の予算が次々と申請されて、それがどんどん通っていく。「クリエイティブな事業をやっているのだから」と、みんなが自由気ままにやっている印象でした。
大金持ちが道楽で好きなことをやるならともかく、会社なので使えるお金も限られます。もちろん、お金を使うことでそれが将来的な収益につながったり、あるいはブランド向上やマーケティングに役立つならいいのですが、もうからないことに予算を注ぎ込んだり、売上は上がっても利益がゼロという状態が続くのでは資源が配分できず、組織として立ち行かなくなります。
最初は少々無駄使いをしてもモバイルビジネスで持たせることができたけれども、中核事業にする以上はniconicoで会社が回っていかないといけません。そして今、niconicoをさらに大きく発展させることができるか、収益基盤を盤石なものとして革新的なサービスを継続的に提供していけるかどうかという分岐点にあります。ここで必要なのが"ちゃんとした"経営、すなわちマネジメントだと考えています。
経営は全体のバランスを見ないといけない。価値に見合わない過大な投資や繰り返される失敗、PDCAサイクルの不徹底などは見直すべきです。そうやって組織として当たり前の形にしていく、それがマネジメントの役割だと思っています。
時には赤字覚悟で取り組むべきこともある
とはいえ、整理や効率化だけがマネジメントだとは思っていません。エンターテイメントやクリエイティブが主体の会社なので、すべてを厳密に計数管理することは難しいでしょうし、時には初期のniconicoのように、赤字覚悟で取り組まないといけないこともあるでしょう。
例えば、今年で4回目を迎えたニコニコ超会議** もそう。僕が社長になった年に1回目が開催されたんですけど、このときは大変な赤字でした。でも長期的な事業モデルを考えたら、これは毎年やっていかないといけないということになったんです。もっとも準備時間が短くて、多くの協賛企業に参加していただけるような営業努力が十分にできなかったことも影響していたので、2年目は営業をしっかり頑張りました。やっぱり赤字でしたけど1回目よりは赤字幅は小さくなりました。そんなことを全社を挙げてやっていきました。
niconicoをこれからのドワンゴの中核事業として位置付けて、それが今後もちゃんと成長、発展していくように会社の考え方や行動を揃えていく。効果を最大化できるところへ資源を集中的に投下していく。そういう形に組織を変えていった結果、企業の価値も高めることができたと思います。
2014年10月には株式会社KADOKAWAと経営統合して株式会社KADOKAWA・DWANGOを形成する一方で、ドワンゴとしては子会社を吸収して1つの大きなグループにしていくんですね。1つにすることが常に正しいとは思っていないけれども、このタイミングでは良い選択だったと思います。
ビジネスと管理が強くなると、成功事例をなぞるだけになってしまう
会社として効率化すべきところは効率化したほうがいい。例えばシステムの統合プラットホームがあったほうがいいところもあります。全部ばらばらにしていたらコストもかかるし、業務もスムーズに進まないでしょう。そういうところを"ちゃんとする"こともマネジメントだと思うんですね。
かといって、すべて同じカルチャーで、同じような能力、センスを備えた人たちに同じことができるよう教育したところで、そういう人たちが集まっても多様で面白いものはまず生まれないでしょう。
あくまで象徴的な物言いですけど、経営の基本的なバランスは「クリエイティブ51、ビジネス49」と考えています。これが反対になるとエンターテイメントの会社としてはつまらなくなるでしょう。やっぱり少しだけクリエイティブ優位なんです。でもビジネスや管理もないとだめだよ、と。
ビジネスというのは要するにお金をもうけることですね。そのためにマネジメントがちゃんと機能しなければならない。クリエイティブだけで暴走してしまうとおかしくなるけれども、でもクリエイティブがちょっと勝っている、それくらいがちょうどいいと思います。
ビジネスと管理が強くなると、過去の成功事例をなぞるだけになってしまうんですよ。これはお金がもうかって、しかもトラブルも起きなかったということだけに終始してしまう。例えばクリエイティブが49になるとしますね。49になったクリエイティブってどんどん減っていくんですよ。30になり、20になり、10になってしまう。だってそのほうが管理する側から見たら正しいし楽ですからね。でも、それは組織として冒険や挑戦のない状態であり、事業は衰退していくはずです。
守りに入ったらミスは起こらない
だから、クリエイティブが51でビジネスが49で、拮抗させながら頑張るんですよ。たまに問題は起こるんですが、そのぐらいがちょうどいい。
実をいうと、このところ僕が取引先におわびすることが何回か続きましてですね。気持ち的にはへこむけど、僕がおわびするようなことがなくなったら、たぶん会社はだめになるんだろうなとも思うんです。
だって、誰もやっていない新しいことに挑戦したがゆえの失敗ですからね。社員はみんな一生懸命やっているんだけれども、初めてのことだからアクシデントを避けられなかった。もちろんミスを正当化するわけじゃないし、ミスはそもそもないほうがいいんだけど、守りに入ったらこういうことが起こらないですからね。
ご迷惑をかけた方々には本当に申し訳ないと思うし、うちの社員にも厳重に注意はしますけど、頑張れと思うんですよ、やっぱり。
トップマネジメントが備えるべき"おわび機能"
何か事が起きたときに問われるのは、クリエイティブに携わる人とビジネスを見ている人の信頼関係です。だから両者のコミュニケーションは大事なんです。コミュニケーションの中で相互の信頼関係が確かなものになる。もっといえば、両者は相互依存関係にあるんですよ。ドワンゴという会社がなければできないことが増えてきて、クリエイティブがいなくなっても、マネジメントがいなくなっても事業が続けられない、そういう会社の規模になってきました。
ドワンゴという会社が実現していること、提供している場をみんなで守ろうぜと、僕も役員も思っています。そんなふうにみんなが思ってくれれば、それがすなわち会社に対するロイヤリティーだと思う。僕らお偉方の言うことを聞くことはロイヤリティーでもなんでもなくて、いま自分たちが実現している価値に対するロイヤリティーを持ってくれればそれで十分なんです。
そのうえでそれぞれの立場で頑張ればいい。僕は社長という機能だし、クリエイターの機能もあれば、営業の機能もある。そういうものが組み合わさって全体ができる。そういう意味で、僕は"おわび機能"を搭載した社長なんです(笑)。チーム・ドワンゴが挑戦をやめずに進化し続けるために、それはマネジメントのトップに欠くべからざる機能だと思っています。
WEB限定コンテンツ
(2015.3.31 中央区のドワンゴ本社にて取材)
※インタビュー後編:部門ごとの働きやすさを追求、社員を「全員主役」にするオフィス はこちら
株式会社ドワンゴはインターネットにおける総合エンターテインメント企業として、コンテンツ及びシステムの企画、開発、運用、サポート、コンサルティングを展開。1997年設立。2014年10月に株式会社KADOKAWAと経営統合し、持株会社である株式会社KADOKAWA・DWANGOの完全子会社となる。なお、株式会社KADOKAWA・DWANGOは2015年10月に「カドカワ株式会社」に商号変更。http://info.dwango.co.jp
* niconico
プレミアム会員(有料会員)数は244万人(2015年3月現在)。ユーザーの投稿動画から別のユーザーが二次、三次の創作を行い独自の文化を形成している。また、生放送では「ネット党首討論会」や「将棋電脳戦」などが注目を集めている。
** ニコニコ超会議
幕張メッセで行われるniconico最大のイベント。「ニコニコ動画を地上に(だいたい)再現する」をコンセプトに、ネットとリアルが融合したさまざまな企画が展開される。2015年4月に行われた第4回目は来場者はのべ15万1,115人、ネット来場者数はのべ794万495人に上った。
荒木隆司(あらき・たかし)株式会社ドワンゴ代表取締役社長。1957年生まれ。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)、投資顧問会社などを経て、エイべックス(現・エイべックス・グループ・ホールディングス)上級執行取締役に就任。2006年ドワンゴ社外取締役を兼務。2009年エイベックス・グループ・ホールディングス代表取締役専務。2010年4月エイベックス・インターナショナル・ホールディングス代表取締役社長。2012年11月よりドワンゴ代表取締役社長に就任。
※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
WORKSIGHT
いま、ドワンゴはターニングポイントを迎えています。
1997年にゲーム開発の会社として生まれたドワンゴは、2000年代初頭にモバイル向けのコンテンツ配信で成長し、さらに2006年に立ち上げた「niconico」*(ニコニコ動画)を日本最大規模の動画サイトへと発展させました。
順風満帆のように見えるかもしれませんが、紆余曲折はありました。niconicoは立ち上げてしばらくは赤字続きだったんです。黒字化したのは開設から4年目ですね。黎明期から初期の発展期までは本当に収益につながらなかった。でも、ユーザーの投稿動画と生放送番組を軸とした動画コミュニティサービスは他にないユニークなもので、潜在的な価値が見込まれました。
そこで当時調子のよかったモバイルの音楽配信ビジネスで会社を支えながら、niconicoの足場を固めて事業の中核をniconicoにスイッチさせようという、そんな状況で僕が社長に就任したんです。2012年11月のことです。
いまこそ必要な"ちゃんとした"経営
当時はマネジメントが十分に機能しているとは言いがたい状態でした。例えば予定外の予算が次々と申請されて、それがどんどん通っていく。「クリエイティブな事業をやっているのだから」と、みんなが自由気ままにやっている印象でした。
大金持ちが道楽で好きなことをやるならともかく、会社なので使えるお金も限られます。もちろん、お金を使うことでそれが将来的な収益につながったり、あるいはブランド向上やマーケティングに役立つならいいのですが、もうからないことに予算を注ぎ込んだり、売上は上がっても利益がゼロという状態が続くのでは資源が配分できず、組織として立ち行かなくなります。
最初は少々無駄使いをしてもモバイルビジネスで持たせることができたけれども、中核事業にする以上はniconicoで会社が回っていかないといけません。そして今、niconicoをさらに大きく発展させることができるか、収益基盤を盤石なものとして革新的なサービスを継続的に提供していけるかどうかという分岐点にあります。ここで必要なのが"ちゃんとした"経営、すなわちマネジメントだと考えています。
経営は全体のバランスを見ないといけない。価値に見合わない過大な投資や繰り返される失敗、PDCAサイクルの不徹底などは見直すべきです。そうやって組織として当たり前の形にしていく、それがマネジメントの役割だと思っています。
時には赤字覚悟で取り組むべきこともある
とはいえ、整理や効率化だけがマネジメントだとは思っていません。エンターテイメントやクリエイティブが主体の会社なので、すべてを厳密に計数管理することは難しいでしょうし、時には初期のniconicoのように、赤字覚悟で取り組まないといけないこともあるでしょう。
例えば、今年で4回目を迎えたニコニコ超会議** もそう。僕が社長になった年に1回目が開催されたんですけど、このときは大変な赤字でした。でも長期的な事業モデルを考えたら、これは毎年やっていかないといけないということになったんです。もっとも準備時間が短くて、多くの協賛企業に参加していただけるような営業努力が十分にできなかったことも影響していたので、2年目は営業をしっかり頑張りました。やっぱり赤字でしたけど1回目よりは赤字幅は小さくなりました。そんなことを全社を挙げてやっていきました。
niconicoをこれからのドワンゴの中核事業として位置付けて、それが今後もちゃんと成長、発展していくように会社の考え方や行動を揃えていく。効果を最大化できるところへ資源を集中的に投下していく。そういう形に組織を変えていった結果、企業の価値も高めることができたと思います。
2014年10月には株式会社KADOKAWAと経営統合して株式会社KADOKAWA・DWANGOを形成する一方で、ドワンゴとしては子会社を吸収して1つの大きなグループにしていくんですね。1つにすることが常に正しいとは思っていないけれども、このタイミングでは良い選択だったと思います。
ビジネスと管理が強くなると、成功事例をなぞるだけになってしまう
会社として効率化すべきところは効率化したほうがいい。例えばシステムの統合プラットホームがあったほうがいいところもあります。全部ばらばらにしていたらコストもかかるし、業務もスムーズに進まないでしょう。そういうところを"ちゃんとする"こともマネジメントだと思うんですね。
かといって、すべて同じカルチャーで、同じような能力、センスを備えた人たちに同じことができるよう教育したところで、そういう人たちが集まっても多様で面白いものはまず生まれないでしょう。
あくまで象徴的な物言いですけど、経営の基本的なバランスは「クリエイティブ51、ビジネス49」と考えています。これが反対になるとエンターテイメントの会社としてはつまらなくなるでしょう。やっぱり少しだけクリエイティブ優位なんです。でもビジネスや管理もないとだめだよ、と。
ビジネスというのは要するにお金をもうけることですね。そのためにマネジメントがちゃんと機能しなければならない。クリエイティブだけで暴走してしまうとおかしくなるけれども、でもクリエイティブがちょっと勝っている、それくらいがちょうどいいと思います。
ビジネスと管理が強くなると、過去の成功事例をなぞるだけになってしまうんですよ。これはお金がもうかって、しかもトラブルも起きなかったということだけに終始してしまう。例えばクリエイティブが49になるとしますね。49になったクリエイティブってどんどん減っていくんですよ。30になり、20になり、10になってしまう。だってそのほうが管理する側から見たら正しいし楽ですからね。でも、それは組織として冒険や挑戦のない状態であり、事業は衰退していくはずです。
守りに入ったらミスは起こらない
だから、クリエイティブが51でビジネスが49で、拮抗させながら頑張るんですよ。たまに問題は起こるんですが、そのぐらいがちょうどいい。
実をいうと、このところ僕が取引先におわびすることが何回か続きましてですね。気持ち的にはへこむけど、僕がおわびするようなことがなくなったら、たぶん会社はだめになるんだろうなとも思うんです。
だって、誰もやっていない新しいことに挑戦したがゆえの失敗ですからね。社員はみんな一生懸命やっているんだけれども、初めてのことだからアクシデントを避けられなかった。もちろんミスを正当化するわけじゃないし、ミスはそもそもないほうがいいんだけど、守りに入ったらこういうことが起こらないですからね。
ご迷惑をかけた方々には本当に申し訳ないと思うし、うちの社員にも厳重に注意はしますけど、頑張れと思うんですよ、やっぱり。
トップマネジメントが備えるべき"おわび機能"
何か事が起きたときに問われるのは、クリエイティブに携わる人とビジネスを見ている人の信頼関係です。だから両者のコミュニケーションは大事なんです。コミュニケーションの中で相互の信頼関係が確かなものになる。もっといえば、両者は相互依存関係にあるんですよ。ドワンゴという会社がなければできないことが増えてきて、クリエイティブがいなくなっても、マネジメントがいなくなっても事業が続けられない、そういう会社の規模になってきました。
ドワンゴという会社が実現していること、提供している場をみんなで守ろうぜと、僕も役員も思っています。そんなふうにみんなが思ってくれれば、それがすなわち会社に対するロイヤリティーだと思う。僕らお偉方の言うことを聞くことはロイヤリティーでもなんでもなくて、いま自分たちが実現している価値に対するロイヤリティーを持ってくれればそれで十分なんです。
そのうえでそれぞれの立場で頑張ればいい。僕は社長という機能だし、クリエイターの機能もあれば、営業の機能もある。そういうものが組み合わさって全体ができる。そういう意味で、僕は"おわび機能"を搭載した社長なんです(笑)。チーム・ドワンゴが挑戦をやめずに進化し続けるために、それはマネジメントのトップに欠くべからざる機能だと思っています。
WEB限定コンテンツ
(2015.3.31 中央区のドワンゴ本社にて取材)
※インタビュー後編:部門ごとの働きやすさを追求、社員を「全員主役」にするオフィス はこちら
株式会社ドワンゴはインターネットにおける総合エンターテインメント企業として、コンテンツ及びシステムの企画、開発、運用、サポート、コンサルティングを展開。1997年設立。2014年10月に株式会社KADOKAWAと経営統合し、持株会社である株式会社KADOKAWA・DWANGOの完全子会社となる。なお、株式会社KADOKAWA・DWANGOは2015年10月に「カドカワ株式会社」に商号変更。http://info.dwango.co.jp
* niconico
プレミアム会員(有料会員)数は244万人(2015年3月現在)。ユーザーの投稿動画から別のユーザーが二次、三次の創作を行い独自の文化を形成している。また、生放送では「ネット党首討論会」や「将棋電脳戦」などが注目を集めている。
** ニコニコ超会議
幕張メッセで行われるniconico最大のイベント。「ニコニコ動画を地上に(だいたい)再現する」をコンセプトに、ネットとリアルが融合したさまざまな企画が展開される。2015年4月に行われた第4回目は来場者はのべ15万1,115人、ネット来場者数はのべ794万495人に上った。
荒木隆司(あらき・たかし)株式会社ドワンゴ代表取締役社長。1957年生まれ。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)、投資顧問会社などを経て、エイべックス(現・エイべックス・グループ・ホールディングス)上級執行取締役に就任。2006年ドワンゴ社外取締役を兼務。2009年エイベックス・グループ・ホールディングス代表取締役専務。2010年4月エイベックス・インターナショナル・ホールディングス代表取締役社長。2012年11月よりドワンゴ代表取締役社長に就任。
※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
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