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中国経済「信頼の危機」が投資家の不安をあおる

ニューズウィーク日本版 2016年1月28日 16時0分

 世界経済が低迷するなか、6.9%の成長率を達成すれば、普通ならスーパースターの扱いだ。しかし、中国国家統計局が15年のGDP伸び率は6.9%だったと発表すると、世界中で不安が渦巻いた。中国の経済成長のエンジンが止まりかけているのではないか、と。

 6.9%増というのは、中国にとって25年ぶりの低い伸びだ。アジアや欧米に限らず世界各国の製造業や小売業、企業に影響を及ぼすだろう。

 08~09年の金融危機の後、世界経済を救ったのは中国だ。総額4兆元(当時のレートで約5860億ドル)の景気刺激策の下、道路や空港、橋、住宅を次々に建設した。11~13年に中国が流し込んだセメントの量は、アメリカが20世紀に消費した総量を上回る。

 しかし今回は、中国の騎兵がさっそうと現れることはなさそうだ。年明けから世界各地の株式市場が記録的な安値を付け、中国(と原油価格)がその主な要因だと名指しされている。

 中国経済の需要はいわばスピードボートで、ブラジルやオーストラリアなど中国に商品を輸出する水上スキーヤーを引き連れていた。しかし、厳しい向かい風に直面して、世界の需要を牽引してきたエンジンが減速している。

見せ掛けの数字の裏に

 韓国や日本もその変化を感じるだろう。中国の輸入が減って製造部門の勢いが弱まれば、韓国や日本とつながるサプライチェーンが打撃を受ける。

 それ以上に問題なのは、中国が発表する数字を市場が信頼しなくなっていることだ。6.9%さえ誇張ではないか、との声もある。さらに中国指導部の一貫しない対応を見て、この難局を乗り切れないのではと、信頼をなくす人もいる。

 この「信頼の危機」は、成長減速の危機や信用危機より深刻かもしれない。国際金融研究所によれば、15年だけで7000億ドル近い資本が中国から国外に流出しているのだ。

 世界の投資家にとって、中国経済の命運ほど悩ましい問題はない。中国は世界のGDP成長の3分の1近くを担い、世界が供給する鉄鋼やセメント、銅の半分を購入している。

 時計や革製品など世界の高級品市場の多くでは、売り上げの約3分の1が中国人消費者によるもの。過去10年間、世界の原油消費量の増加分の約半分は中国が占めている。そして中国人旅行者はニューヨークやパリ、ドバイなどで年間約1500億ドルを使う。

 そんな中国に、投資家は3つの不安を抱いている。

 1つ目は公式統計の数字、特に経済成長率が極めて疑わしいこと。米調査会社チャイナ・ベージュブックのリーランド・ミラー社長は、中国の経済成長に関する数字は「間違いなく見せ掛け」と指摘する。同社を含む民間の調査によれば、実際は4~4.5%の成長率と思われる。

 2つ目は、指導者に対する信頼の危機だ。ある投資家は、「数字が信頼できるかどうか以上の問題だ」と語る。「この不安定な時代に、現在の最上層部に中国経済の舵を取る能力が、本当にあるのだろうか」。

 例えば、昨年8月11日に中国は人民元の2%切り下げを決定。その翌日には相場を下支えするとして、ドルを大量に売った。そのちぐはぐな対応に、不安を感じた投資家も少なくない。

 3つ目の不安は、増え続ける債務だ。国の債務残高はGDP比で約260%、企業債務は約160%。これだけ借金を抱えていると、普通の経済という看板を維持し切れないとみられる。

 債務が膨らむにつれて、市場は中国に「審判の日」が近づいていると確信するようになったと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は書いている。

 この30年、中国の終焉を予言した多くの専門家が失笑を買ってきた。しかし今、強力なはずの中国経済の基盤は亀裂だらけだと、数字が明確に示している。中国の政策決定者は亀裂を埋めることができるのか。それともさらに広げるのだろうか。


[2016.2. 2号掲載]
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

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