2月1日にアイオワ州で党員集会が開催され、この日をもって長い長い予備選レースが動き出した。予備選は、まったく筋書きのないドラマ。毎回ではあるが、アイオワ州では「何かが起きる」と言われ、今回もその「何か」が起きた。
まず共和党では、トランプ、クルーズが「1位・2位」になる可能性が高いという下馬評があり「3位はルビオ」という予想もされていた。こうした予想は間違いではなかった。だから「クルーズ、トランプ、ルビオ」という順位は、決して番狂わせとは言えない。
問題は得票率。事前の世論調査(アイオワ州)では「トランプ(29%)」「クルーズ(14%)」「ルビオ(17%)」というのが平均値だった。ところが、フタを開けてみれば「クルーズ(28%)」「トランプ(24%)」「ルビオ(23%)」という結果だった。
これは、何を意味するのか? 簡単にいえば、「トランプ惨敗、ルビオ善戦」という評価ができる。つまり、事前の世論調査では出てこなかったが、本番の党員集会となると「やはりトランプでは不安」だということ、そして「トランプの組織力が弱い」という問題が露呈したという解説だ。クルーズが勝ったというより、トランプが負けたことの方が重要、これは多くの識者が指摘している。
一方ルビオに関しては、これまで「第3グループ」とか「第2グループ」と言われていたが、堂々と「先頭集団」に入っただけでなく、党内の「実務派のプロ政治家」代表という地位をほぼ固めたということが言えそうだ。少々気が早いかもしれないが、今回惨敗した(2%)ジェブ・ブッシュが撤退して支持に回れば、一気に勢いが出るかもしれない。
【参考記事】悩める共和党の見えない自画像
民主党に関しては、事前の調査でもヒラリーはかなり追い込まれていたので、こうなったら辛勝でも良いと腹をくくっていたのだろう。だが本当にここまでの僅差(1%以下の差)になるとは予想していなかったのでないか。ヒラリーとしては「負けなかった」にしても、50%対49%ということは事実上タイであり、大苦戦と言っていいだろう。
来週予備選が行われるニューハンプシャー州は「サンダースの地元」なので、ほぼ勝利は確定している。こうなるとサンダースにはさらに勢いが出てくることが予想される。CNNの報道では、今回の党員集会と並行して実施された出口調査で「政治家として人間的に信頼できるか?」という項目があり、ヒラリーが11%だった一方でサンダースは80%という恐ろしい差が出ているという。
サンダースの善戦は、欧州の若者に支持された新しい左派勢力、例えばイギリスのコービン、スコットランドのスタージョン、スペインのイグレシアス(左派政党ポデモス党首)などの運動に類似している。北米で言えば2011年からの「占拠デモ」の精神を継承したものだろう。若年層の支持がどんどん伸びていて、例えばニューヨークやカリフォルニアでは旋風を巻き起こす可能性が指摘されている。
ヒラリーは、ニューハンプシャー州はダメだとしても、それ以降はもう一州も負けられない覚悟で戦うことになる。同時に選挙戦術の大転換も必要になってくる。
【参考記事】ヒラリーと民主党を救った社会主義者サンダース
今回の結果を受けた水面下の動きとしては、これでトランプが「自然に負けていく」ならば、共和党内で「トランプ降ろし」などという面倒なことをする必要はなくなる。今回1位のクルーズは、当面はルビオとの激しい舌戦に入っていくだろうが、この両者で長期戦をすれば、余程のスキャンダルでも出ない限りは、ルビオが優位となるのではないだろうか。
いずれにしても、共和党の予備選が正常化に近づいた一方、民主党の予備選が異常事態に突入したという見方ができる。
そして、ここへ来てにわかに現実味が出てきたのが、ブルームバーグ前ニューヨーク市長の出馬問題。ブルームバーグは共和党から無所属に転じた市長だが、それ以前には民主党員だった時期もある。政策は現実派で、また銃規制論のシンボル的な存在でもある。常識的には「中道リベラル」という立ち位置からヒラリーと票を食い合う関係にある。
しかし万が一、民主党がこのままサンダースに傾斜していくとすれば、中道左派の票の受け皿はなくなってしまう。その場合は、ブルームバーグが「中道実務家」の第三勢力として出馬すれば勝機はあるかもしれない。もっと言えば、社会民主主義を自称するサンダースが大統領になるぐらいなら、ブルームバーグが出馬して「リベラル票の分裂選挙」となって、例えば共和党のルビオを勝たせても構わない――そんな考え方にブルームバーグ周辺が傾いていく可能性はある。
来週(現地時間9日の火曜日)のニューハンプシャー州予備選の注目点は、トランプ人気がここでも翳りを見せるのか、またルビオの支持上昇のトレンドが続くのか、そしてヒラリーがサンダースにどれだけの差を付けられるのか、といったところ。見所はかなり絞られてきた。
<筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」>
≪ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート≫
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)
まず共和党では、トランプ、クルーズが「1位・2位」になる可能性が高いという下馬評があり「3位はルビオ」という予想もされていた。こうした予想は間違いではなかった。だから「クルーズ、トランプ、ルビオ」という順位は、決して番狂わせとは言えない。
問題は得票率。事前の世論調査(アイオワ州)では「トランプ(29%)」「クルーズ(14%)」「ルビオ(17%)」というのが平均値だった。ところが、フタを開けてみれば「クルーズ(28%)」「トランプ(24%)」「ルビオ(23%)」という結果だった。
これは、何を意味するのか? 簡単にいえば、「トランプ惨敗、ルビオ善戦」という評価ができる。つまり、事前の世論調査では出てこなかったが、本番の党員集会となると「やはりトランプでは不安」だということ、そして「トランプの組織力が弱い」という問題が露呈したという解説だ。クルーズが勝ったというより、トランプが負けたことの方が重要、これは多くの識者が指摘している。
一方ルビオに関しては、これまで「第3グループ」とか「第2グループ」と言われていたが、堂々と「先頭集団」に入っただけでなく、党内の「実務派のプロ政治家」代表という地位をほぼ固めたということが言えそうだ。少々気が早いかもしれないが、今回惨敗した(2%)ジェブ・ブッシュが撤退して支持に回れば、一気に勢いが出るかもしれない。
【参考記事】悩める共和党の見えない自画像
民主党に関しては、事前の調査でもヒラリーはかなり追い込まれていたので、こうなったら辛勝でも良いと腹をくくっていたのだろう。だが本当にここまでの僅差(1%以下の差)になるとは予想していなかったのでないか。ヒラリーとしては「負けなかった」にしても、50%対49%ということは事実上タイであり、大苦戦と言っていいだろう。
来週予備選が行われるニューハンプシャー州は「サンダースの地元」なので、ほぼ勝利は確定している。こうなるとサンダースにはさらに勢いが出てくることが予想される。CNNの報道では、今回の党員集会と並行して実施された出口調査で「政治家として人間的に信頼できるか?」という項目があり、ヒラリーが11%だった一方でサンダースは80%という恐ろしい差が出ているという。
サンダースの善戦は、欧州の若者に支持された新しい左派勢力、例えばイギリスのコービン、スコットランドのスタージョン、スペインのイグレシアス(左派政党ポデモス党首)などの運動に類似している。北米で言えば2011年からの「占拠デモ」の精神を継承したものだろう。若年層の支持がどんどん伸びていて、例えばニューヨークやカリフォルニアでは旋風を巻き起こす可能性が指摘されている。
ヒラリーは、ニューハンプシャー州はダメだとしても、それ以降はもう一州も負けられない覚悟で戦うことになる。同時に選挙戦術の大転換も必要になってくる。
【参考記事】ヒラリーと民主党を救った社会主義者サンダース
今回の結果を受けた水面下の動きとしては、これでトランプが「自然に負けていく」ならば、共和党内で「トランプ降ろし」などという面倒なことをする必要はなくなる。今回1位のクルーズは、当面はルビオとの激しい舌戦に入っていくだろうが、この両者で長期戦をすれば、余程のスキャンダルでも出ない限りは、ルビオが優位となるのではないだろうか。
いずれにしても、共和党の予備選が正常化に近づいた一方、民主党の予備選が異常事態に突入したという見方ができる。
そして、ここへ来てにわかに現実味が出てきたのが、ブルームバーグ前ニューヨーク市長の出馬問題。ブルームバーグは共和党から無所属に転じた市長だが、それ以前には民主党員だった時期もある。政策は現実派で、また銃規制論のシンボル的な存在でもある。常識的には「中道リベラル」という立ち位置からヒラリーと票を食い合う関係にある。
しかし万が一、民主党がこのままサンダースに傾斜していくとすれば、中道左派の票の受け皿はなくなってしまう。その場合は、ブルームバーグが「中道実務家」の第三勢力として出馬すれば勝機はあるかもしれない。もっと言えば、社会民主主義を自称するサンダースが大統領になるぐらいなら、ブルームバーグが出馬して「リベラル票の分裂選挙」となって、例えば共和党のルビオを勝たせても構わない――そんな考え方にブルームバーグ周辺が傾いていく可能性はある。
来週(現地時間9日の火曜日)のニューハンプシャー州予備選の注目点は、トランプ人気がここでも翳りを見せるのか、またルビオの支持上昇のトレンドが続くのか、そしてヒラリーがサンダースにどれだけの差を付けられるのか、といったところ。見所はかなり絞られてきた。
<筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」>
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冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)