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レゴ社の「原点」が記されていた1974年の手紙

ニューズウィーク日本版 2016年2月5日 14時50分

 スタンフォード大学の起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグは、このたび刊行された新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で、1974年にレゴに添付されていたという親宛ての手紙を引用している。

 それは、男の子も女の子も変わらず、想像力を羽ばたかせることが大切だと訴える手紙だった。レゴ社がその後「想像力の大切さ」を引っ込めてしまったことをシーリグは嘆くが、彼女はこのエピソードからこんな教訓を導き出す――「想像力が必要なのは子どもだけではない」。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスもマーティン・ルーサー・キング牧師も、その偉業やビジョンを生み出したのは豊かな想像力だった。

 以下、同書の「第2章 ビジョンを描く――世界があなたの舞台」から抜粋する。

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 私たちは日々の生活のなかで、それと知らないうちに自由な表現や想像力を殺しかねない「催促」をされています。塗り絵で色がついていないのと、色がついた手本があるのとの違い、おもちゃのレゴで、説明書が入っていないのと、あらかじめ城や軍艦の組み立て方の説明書が入っているのとの違いを考えてもらうといいでしょう。

 一九七〇年代、レゴ社は特段の説明書はつけずに、カラフルな組立てブロックを販売していました。そこには、どこまでも想像力を羽ばたかせる、という意図がありました。ですが、その後、決まった形をつくるためのキットの販売を増やし、男児向けと女児向けを明確に分けるようになりました。一九七四年にレゴに添付された親宛ての手紙を引用しましょう。これは、レゴが「たったひとつの正解」と共に売られていなかった時代を思い起こさせるものとして、最近、ソーシャルメディアで出回っているものです。


親御さんたちへ
 子どもたちはみな、何かをつくりたくてうずうずしています。男の子でも女の子でも、それはおなじです。大切なのは想像力であって、器用さではありません。頭に浮かんだものを、好きなように組み立てればいいのです。ベッドでもいいし、トラックでもいい。お人形の家でも宇宙船でもいい。人形の家が好きだという男の子は多いものです。宇宙船より人間らしいではありませんか。宇宙船の方が好きな女の子も大勢います。人形の家よりずっとわくわくするのです。何より大切なのは、子どもたちにふさわしい材料を渡して、好きなようにつくらせてあげることなのです。


 その後、レゴ社は完成した模型の写真を外箱に印刷し、それ用にあらかじめつくられたキットを販売することで、この手紙に示された「想像力の大切さ」を引っ込めてしまいました。レゴ社のエンジニアが設計した立派な宇宙船や海賊船を目にした子どもたちは、想像力をはたらかせることなく、ただ説明書にしたがってブロックを組み立てるようになりました。こうしたやり方はレゴ社にとって大きな経営判断だったのかもしれませんが、多くの子どもたちにとっては想像力をふくらませる貴重な機会を失うことになり、大きな打撃になったといえるでしょう。

 想像力が必要とされるのは、子どもの遊びにかぎった話ではありません。私たちは想像力を使って、自分自身の人生の見通しを立てます。可能性は何通りもあり、想像力が豊かであればそれだけ鮮やかなイメージを描くことができます。ところが想像力が乏しいと、過去の延長線上でしか考えることができず、他の人とおなじことをして、代わり映えのしないイメージを思い浮かべることしかできません。

 確固たるイメージは、並外れた偉業を支える土台にもなります。アマゾンの創業者で最高経営責任者(CEO)ジェフ・ベゾスを見ればおわかりいただけるでしょう。ベゾスは一九九五年の創業当時から、世界規模の巨大企業を経営する姿をしっかりイメージしていました。アマゾンという社名は、世界一の流域面積を誇るアマゾン川と、ギリシャ神話に登場する伝説の女戦士の国アマゾネスにちなんだものです。小さな新興企業がいずれ堂々たる巨大企業に変貌を遂げることを見越して、慎重に選ばれた名前なのです。

 マーティン・ルーサー・キング牧師の「私には夢がある」という有名な演説も、想像力の大切さを教えてくれます。人種間の平等の実現というキング牧師が描いたビジョンは、社会運動のうねりを起こすきっかけとなりました。「私の四人の幼子が肌の色ではなく、その個性で判断される国になる」ときを思い描き、そのビジョンを国民に語りかけたのです。

 夢をどう描くかは自分次第であり、私たち一人ひとりにかかっています。スタンフォード大学の卒業生、カイ・カイトの経験談には説得力があります。長年バイオリンを学び、将来を嘱望されていましたが、最近、自分以外の人間の夢を演じていたのだと気づいたといいます。きっかけは、母親が乳がんと診断され、宝石店を営む夢を断念せざるをえなくなったことでした。

 そんな母の姿を見て、自分の運命は自分でコントロールし、望む未来を自分で切り拓こうと決意します。身につけたクラシック音楽をベースにしつつ、彼にしかできないユニークな曲作りに励み、演奏するようになりました。作品は好評で、演奏する機会にも恵まれています。こうした反響の大きさにカイは手ごたえを感じ、自分の夢を実現するのは他ならぬ自分なのだという思いを強めています。こうした気づきは、TEDの講演「自分の世界を構築する」で語られています。

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 想像力がクリエイティビティを生み、クリエイティビティがイノベーションにつながり、イノベーションが起業家精神を呼び起こす。そして、起業家精神が新たな想像力を刺激し......という「サイクル」の大切さを、シーリグは本書で訴えている。つまり想像力は、人生を切り拓く重要なひとつの要素なのだ。

 夢をどう描くかは自分次第。それなのに、大人になって、想像力をふくらませることを忘れていないだろうか。

 シーリグによれば、思い描く未来にたどり着くために必要なことは3つある。第一が起業家的な心構えで、それは世界各国でベストセラーとなった著書『20歳のときに知っておきたかったこと』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)にまとめたという。第二は、問題を解決し、チャンスを活かすためのツール。それは2作目の著書『未来を発明するためにいまできること』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で取り上げた。

 そして第三に必要なのが、ひらめきを形にするためのロードマップだ。最新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』のテーマである。このシリーズでは、本書に収められたさまざまなエピソードをいくつか抜粋し、シーリグのメッセージと共に紹介していく。

※スタンフォード大学 集中講義(1):悪行をやり尽くした末、慈善活動家になった男の話

※次回は2月中旬に掲載予定です。

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『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』
 ティナ・シーリグ 著
 高遠裕子 訳
 三ツ松 新 解説
 CCCメディアハウス



『20歳のときに知っておきたかったこと
 ――スタンフォード大学 集中講義』
 ティナ・シーリグ 著
 高遠裕子 訳
 三ツ松 新 解説
 CCCメディアハウス



『未来を発明するためにいまできること
 ――スタンフォード大学 集中講義II』
 ティナ・シーリグ 著
 高遠裕子 訳
 三ツ松 新 解説
 CCCメディアハウス


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