原油はそろそろ買い時か。04年以降の最低水準の安値が続くなか、トレーダーたちはそう自問している。彼らを悩ますもう1つの問いは、下げ局面がどこまで続くかだ。
この問いはトレーダーに限らず、あらゆる場所のあらゆる人にとって死活問題だ。原油と天然ガスは世界経済の健全性を左右する最も重要な商品と言っても過言ではない。
原油価格が14年のピーク時から70%も下がったおかげで、日本、韓国など主要な石油輸入国は貿易収支を大幅に改善できた。大打撃を受けたのはサウジアラビア、ベネズエラなど石油頼みの国々だ。財政が悪化し、通貨の切り下げ圧力も強まっている。
【参考記事】サウジ・イラン断交は原油価格上昇を狙った「一種のヤラセ」
エネルギー関連企業の株も大幅に下落。これらの株を大量に保有するファンドも痛い目に遭った。エネルギー大手4社のエクソンモービル、BP、シェブロン、ロイヤル・ダッチ・シェルは軒並み、15会計年度の利益が98年以来の最低まで落ち込んだ。BPは52億ドルの損失を計上。同社の業績悪化は史上最悪の原油流出事故を起こした10年を上回るほど深刻だ。
「市場がパニックになっている時こそ買い時だ」という格言がある。今の相場が一時的なパニックによるものなら、抜け目ない投資家が買いに回り、いずれ原油価格は上向くだろう。
買うかどうかの判断は、大幅下落の原因をどう見るかによる。供給過剰による下落とみるなら、今は買い時だ。業界の業績悪化で新規の油田開発が打ち切られれば、供給量の減少は避けられない。今は日量150万バレルの供給過剰だが、いずれ需給バランスが逆転し、価格は上昇に転じるだろう。
一方、中国経済の失速を主因とする需要の縮小を「新常態(ニューノーマル)」とみるなら、供給が減っても価格はさほど上がらないという予測になる。こちらの可能性のほうが厄介だ。原油安が需要減によるものなら、その影響は原油市場にとどまらないからだ。
協調減産は効果なし?
エネルギー大手4社は需要が縮小しても倒産することはないだろう。しかし、アメリカのシェールオイル業界は強力な向かい風に苦しんでいる。採掘会社の多くは今よりもはるかに高い原油価格を想定して開発を進めてきた。技術の急速な進歩で生産コストが大幅に下がったといっても、現状ではとても採算が取れない。採掘会社がこければ、融資をした銀行も苦境に陥る。銀行が苦境に陥れば、経済全体に影響が及ぶ。
【参考記事】米国産原油・輸出解禁の価格インパクト
問題は中国経済の今後の見通しだ。00年から14年まで中国の需要増が世界の原油需要の伸びの50%近くを占めてきた。成長を引っ張ってきた巨大な牽引車が失速したら、1バレル=100ドル時代の再来は望めない。
いま市場で盛んにささやかれているのは、サウジアラビアとロシアが協調して減産に踏み切る可能性だ。サウジアラビアが減産を提案したとも伝えられているが、ロシアとOPECの協調減産が実現する公算は小さい。サウジアラビアとロシアはこれまで減産による価格調整よりも、シェールオイルに対抗して市場シェアを死守することを優先してきたからだ。
サウジアラビアは外貨準備が6500億ドル余りあるなど、まだ余裕がある。片やロシアの苦境ははるかに深刻で、昨年に続き、今年もマイナス成長からの脱出は望み薄だ。
ロシアとサウジアラビアが最も恐れるのは協調減産に踏み切っても、価格が上がらない事態だ。エクソンモービルは先月、中国の原油需要予測を下方修正したばかり。減産のニュースで一時的に価格が跳ね上がっても、その後再び下落に転じる可能性は大いにある。
【参考記事】2016年の世界経済のカギを握るのはやはり原油価格
長期的に見て、原油が世界経済を支える重要なエネルギー資源であることは間違いない。世界中の人々の生活と生産活動を支えている点で、今のところ原油に代わる資源はない。原油価格を需給の均衡が取れた適正値に落ち着かせること。それが16年の最も重要な課題の1つになるだろう。
[2016.2.16号掲載]
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)
この問いはトレーダーに限らず、あらゆる場所のあらゆる人にとって死活問題だ。原油と天然ガスは世界経済の健全性を左右する最も重要な商品と言っても過言ではない。
原油価格が14年のピーク時から70%も下がったおかげで、日本、韓国など主要な石油輸入国は貿易収支を大幅に改善できた。大打撃を受けたのはサウジアラビア、ベネズエラなど石油頼みの国々だ。財政が悪化し、通貨の切り下げ圧力も強まっている。
【参考記事】サウジ・イラン断交は原油価格上昇を狙った「一種のヤラセ」
エネルギー関連企業の株も大幅に下落。これらの株を大量に保有するファンドも痛い目に遭った。エネルギー大手4社のエクソンモービル、BP、シェブロン、ロイヤル・ダッチ・シェルは軒並み、15会計年度の利益が98年以来の最低まで落ち込んだ。BPは52億ドルの損失を計上。同社の業績悪化は史上最悪の原油流出事故を起こした10年を上回るほど深刻だ。
「市場がパニックになっている時こそ買い時だ」という格言がある。今の相場が一時的なパニックによるものなら、抜け目ない投資家が買いに回り、いずれ原油価格は上向くだろう。
買うかどうかの判断は、大幅下落の原因をどう見るかによる。供給過剰による下落とみるなら、今は買い時だ。業界の業績悪化で新規の油田開発が打ち切られれば、供給量の減少は避けられない。今は日量150万バレルの供給過剰だが、いずれ需給バランスが逆転し、価格は上昇に転じるだろう。
一方、中国経済の失速を主因とする需要の縮小を「新常態(ニューノーマル)」とみるなら、供給が減っても価格はさほど上がらないという予測になる。こちらの可能性のほうが厄介だ。原油安が需要減によるものなら、その影響は原油市場にとどまらないからだ。
協調減産は効果なし?
エネルギー大手4社は需要が縮小しても倒産することはないだろう。しかし、アメリカのシェールオイル業界は強力な向かい風に苦しんでいる。採掘会社の多くは今よりもはるかに高い原油価格を想定して開発を進めてきた。技術の急速な進歩で生産コストが大幅に下がったといっても、現状ではとても採算が取れない。採掘会社がこければ、融資をした銀行も苦境に陥る。銀行が苦境に陥れば、経済全体に影響が及ぶ。
【参考記事】米国産原油・輸出解禁の価格インパクト
問題は中国経済の今後の見通しだ。00年から14年まで中国の需要増が世界の原油需要の伸びの50%近くを占めてきた。成長を引っ張ってきた巨大な牽引車が失速したら、1バレル=100ドル時代の再来は望めない。
いま市場で盛んにささやかれているのは、サウジアラビアとロシアが協調して減産に踏み切る可能性だ。サウジアラビアが減産を提案したとも伝えられているが、ロシアとOPECの協調減産が実現する公算は小さい。サウジアラビアとロシアはこれまで減産による価格調整よりも、シェールオイルに対抗して市場シェアを死守することを優先してきたからだ。
サウジアラビアは外貨準備が6500億ドル余りあるなど、まだ余裕がある。片やロシアの苦境ははるかに深刻で、昨年に続き、今年もマイナス成長からの脱出は望み薄だ。
ロシアとサウジアラビアが最も恐れるのは協調減産に踏み切っても、価格が上がらない事態だ。エクソンモービルは先月、中国の原油需要予測を下方修正したばかり。減産のニュースで一時的に価格が跳ね上がっても、その後再び下落に転じる可能性は大いにある。
【参考記事】2016年の世界経済のカギを握るのはやはり原油価格
長期的に見て、原油が世界経済を支える重要なエネルギー資源であることは間違いない。世界中の人々の生活と生産活動を支えている点で、今のところ原油に代わる資源はない。原油価格を需給の均衡が取れた適正値に落ち着かせること。それが16年の最も重要な課題の1つになるだろう。
[2016.2.16号掲載]
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)