Infoseek 楽天

育児も介護も家族が背負う、日本の福祉はもう限界

ニューズウィーク日本版 2016年2月16日 16時30分

 共働き夫婦が児童を預ける保育所が不足していることから、待機児童問題が深刻化している。核家族化が進んだ都市部では、この問題は特に顕著だ。ちょうどこの時期、認可保育所の4月入園の可否が通知される時期だが、結果がどうなるか多くの夫婦が不安におののいている。

 ここ数年、待機児童の解消が目標として掲げられ、保育所の受け入れ枠は増えてきているが、問題解決にはまだ程遠い。対策が進まない一因として、「乳幼児の世話は家族がするべき」という考えが根強いこともあるのではないだろうか。

【参考記事】「親より良い生活はできない」日本に求められる新しい人生観

 国際社会調査プログラム(ISSP)が2012年に実施した「家族と性役割に関する意識調査」では、「就学前の子どもの世話はまず誰がするべきか」をたずねている。その回答は国別にかなりばらけているが、おおむね2つのタイプに分けられる。<図1>は、横軸に家族、縦軸に政府機関という回答の比率をとった座標上に、38カ国を配置したグラフだ。ドイツでは、旧西ドイツと旧東ドイツの地域間で意識がかなり違うからか、調査対象が東西に分かれている。



 左上は、「政府機関がするべき」という回答が多い国だ。スウェーデンやフィンランドなど、北欧の国が多い。こうした意識は政策にも反映されていて、スウェーデンでは希望者を保育所に入れるのは自治体の法的な義務で、待機児童はほぼゼロだ。「公型」保育の国だと言えるだろう。

 対極の右下には、「私型」保育の国が位置している。「乳幼児の世話は家族がするべき」という考えが強い国で、フィリピン、中国、台湾、日本といったアジア諸国が目に付く。家族中心の考え方が強いお国柄を示している。

 韓国や欧米主要国は両者の中間にあるが、米英仏では「民間の保育事業者」という回答が比較的多い<図2>。個々の家庭が雇い入れる保育シッターなどを指している。フランスではこの回答が最も多い(49%)。実際に、保育所よりシッターに子どもの世話を委ねる親が多い。



 高齢者のケアに関する意識を見ても、同じような配置のグラフになる。日本は少子高齢化が最も進んだ社会で、核家族化も欧米と同じ程度に進んでいる。2010年の核家族世帯の割合は、日本が56.3%、フィンランドは55.0%だ(国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集2015』)。それなのに、福祉に関する意識は両国で大きく異なっている<図1>。

 社会が変化したにも関わらず、日本の家族依存型の福祉は変わっていない。近年、児童虐待や介護を苦にした家族間の殺人事件など、家庭内の悲劇がニュースになることが目に付くのも、無関係ではないだろう。

【参考記事】日本人の知的好奇心は20歳ですでに老いている

 昔の家族は、消費のみならず生産(家業)、子育て、介護など、多くの機能を担っていた。ピラミッド型の人口構成で、数世代が同居する大家族が多かった時代では、それも可能だった。しかし現在、家族をめぐる状況は大きく変化した。かつてのように、様々な機能を家族が一手に担うことは困難になっている。

 児童保育や高齢者介護など、日本の福祉は家族(私)依存型の性格が強い。しかしこれ以上、家族に負担を強いることには無理がある。家族依存型の福祉が限界に達していることを認識し、公的サポートを増やすことを本気で考えなければならない段階に日本は来ている。

<資料:ISSP「Family and Changing Gender Roles IV」(2012年)>

≪筆者の記事一覧はこちら≫

舞田敏彦(武蔵野大学講師)

この記事の関連ニュース