米大統領選の予備選は、今週20日に民主党のネバダ州党員集会と共和党のサウスカロライナ州予備選が実施されます。どちらも注目されますが、特にサウスカロライナの共和党予備選は「初めて南部で行われる」今回の結果が、これからの選挙戦の流れを見通す上で重要な指標になります。
問題は、ドナルド・トランプ候補の勢いがどうなるかです。アイオワ州では、予想ほど票が伸びずに「失速か?」と言われたものの、ニューハンプシャー州では大差で1位を取って勢い付いています。ですが、南部の「草の根保守」あるいは「宗教保守派」の票をどこまで取れるかは、未知数です。
依然としてトランプは、全国の世論調査で「共和党トップ」の支持率をキープしていますし、注目のサウスカロライナでもトップの数字が出ています。では、選挙戦を通じてやってきた「暴言パフォーマンス」はどうかというと、これがまったく止まっていないのです。
【参考記事】<ニューハンプシャー州予備選>左右のポピュリストを勝たせた米政界への怒り
例えばニューハンプシャーで勝った翌日の今月10日にCBSの朝の情報番組 「This Morning」 に出演した際には、ちょうど北朝鮮のミサイル発射の直後だったこともあって、いきなり「北の指導者を亡き者にする」などと口走っていました。
アイオワの直前に実施されたテレビ討論は、司会者が気に入らないという理由でボイコットしていますが、それで票を失ったことを自分でも認めていました。またサウスカロライナの予備選へ向けて先週13日に開かれたCBS主催のテレビ討論には参加しましたが、ここでも「暴言」を連発していました。
先週の討論会では、特にジェブ・ブッシュ候補をターゲットにして、兄のジョージ・W・ブッシュ前大統領を徹底的に攻撃したのです。トランプは「9.11(同時多発)テロはブッシュ時代に起きた」という攻撃を以前から「持ちネタ」にしているのですが、今回あらためてこの「ネタ」を取り上げました。
ジェブ・ブッシュは「仮に9.11テロが起きた時の大統領がアル・ゴアだったら、国を守れただろうか?」と反撃し、さらに「そもそもビル・クリントンが、オサマ・ビンラディンを殺すチャンスを逃したのが元凶だ」と抗弁しました。これに対してトランプは「ブッシュだって、ビンラディンを殺せたのに殺さなかった」とやり返し、暴言はエスカレートしていったのです。
これらのトランプの暴言、「北朝鮮の指導者を亡き者に」「ビンラディンはさっさと殺害しておけば良かった」などを並べてみると、トランプは危険なタカ派のように見えます。倫理も道徳もなく気に入らない人物は一方的に殺害する、そんな危険人物というイメージすら感じさせます。
この「殺害宣言」だけを取り出せばそうなります。ですが前後の発言を考慮すると、実はまったく違うイメージも浮かんでくるのです。
例えば「北の指導者を亡き者に」という点ですが、トランプは「アメリカとして実行するつもりはない」ようです。というのは「(自分の交渉術を使って)中国にやらせるように仕向ける」というのです。つまり、言葉は過激なのですが、要するに北朝鮮の問題はアメリカが直接手を下すのではなく、中国との協調で解決したいと言っているのです。
もちろん、「亡き者に」というのは乱暴だとしか言いようがなく、大統領を目指す人間としてまったく不適切です。ですが、そのような過激な「キャッチフレーズ」で注目させておいて、実際には「他力本願」というか「非干渉主義」、あるいは「孤立主義」とも言える姿勢を取っている、そこにトランプの真骨頂があるのです。
ブッシュ元大統領への攻撃も同様で、まるで「9.11テロに責任がある」ように攻撃したかと思えば、その勢いで「イラク戦争というのは本当にバカげている」と批判していました。「大量破壊兵器なんて嘘だった」「フセイン政権を除いたら地域全体がカオスになるのは分かっていたはずだ」と、徹底的に断罪したのです。
【参考記事】現実味を帯びてきた、大統領選「ヒラリー対トランプ」の最悪シナリオ
つまり、トランプの「暴言」というのは、その主張を「まともに分析」すれば、決してタカ派でもなければ、先制攻撃主義とか、敵政権の「すげ替え」などを志向するものでもないのです。強いて言えば、不介入主義とか、孤立主義と言えるものです。
サウスカロライナの会場では、この「イラク戦争批判」の部分で保守派から大ブーイングが起こりました。もちろん、ブッシュ元大統領を罵倒して、イラク戦争を全面否定するのは「草の根の軍事タカ派」には許せないに違いありません。ですが、会場では同時に支持者からの拍手も起きていました。ということは、共和党の支持者の中でも割れているのです。
トランプの暴言の根本にあるのが「孤立主義」だというのは、例えば「イスラム教徒を入国させない」とか「メキシコとの間に巨大な壁を作って移民を阻止する」という一連の暴言を重ねてみれば、ますます鮮明に見えてきます。
この選挙でトランプは、「偉大なるアメリカを取り戻す」というスローガンを掲げています。それだけを見ると、オバマの時代に軍縮と国際協調主義によって「世界の警察官から降りつつ」あったアメリカを、再び軍事大国にして世界の秩序を主導してくれそう――。支持者の中にはそんな期待もあるかもしれません。
しかし、彼の主張によく耳を傾ければわかりますが、そのような期待はまったく間違いと言っていいと思います。
<ニューストピックス:2016米大統領選 最新現地リポート>の記事一覧はこちら
問題は、ドナルド・トランプ候補の勢いがどうなるかです。アイオワ州では、予想ほど票が伸びずに「失速か?」と言われたものの、ニューハンプシャー州では大差で1位を取って勢い付いています。ですが、南部の「草の根保守」あるいは「宗教保守派」の票をどこまで取れるかは、未知数です。
依然としてトランプは、全国の世論調査で「共和党トップ」の支持率をキープしていますし、注目のサウスカロライナでもトップの数字が出ています。では、選挙戦を通じてやってきた「暴言パフォーマンス」はどうかというと、これがまったく止まっていないのです。
【参考記事】<ニューハンプシャー州予備選>左右のポピュリストを勝たせた米政界への怒り
例えばニューハンプシャーで勝った翌日の今月10日にCBSの朝の情報番組 「This Morning」 に出演した際には、ちょうど北朝鮮のミサイル発射の直後だったこともあって、いきなり「北の指導者を亡き者にする」などと口走っていました。
アイオワの直前に実施されたテレビ討論は、司会者が気に入らないという理由でボイコットしていますが、それで票を失ったことを自分でも認めていました。またサウスカロライナの予備選へ向けて先週13日に開かれたCBS主催のテレビ討論には参加しましたが、ここでも「暴言」を連発していました。
先週の討論会では、特にジェブ・ブッシュ候補をターゲットにして、兄のジョージ・W・ブッシュ前大統領を徹底的に攻撃したのです。トランプは「9.11(同時多発)テロはブッシュ時代に起きた」という攻撃を以前から「持ちネタ」にしているのですが、今回あらためてこの「ネタ」を取り上げました。
ジェブ・ブッシュは「仮に9.11テロが起きた時の大統領がアル・ゴアだったら、国を守れただろうか?」と反撃し、さらに「そもそもビル・クリントンが、オサマ・ビンラディンを殺すチャンスを逃したのが元凶だ」と抗弁しました。これに対してトランプは「ブッシュだって、ビンラディンを殺せたのに殺さなかった」とやり返し、暴言はエスカレートしていったのです。
これらのトランプの暴言、「北朝鮮の指導者を亡き者に」「ビンラディンはさっさと殺害しておけば良かった」などを並べてみると、トランプは危険なタカ派のように見えます。倫理も道徳もなく気に入らない人物は一方的に殺害する、そんな危険人物というイメージすら感じさせます。
この「殺害宣言」だけを取り出せばそうなります。ですが前後の発言を考慮すると、実はまったく違うイメージも浮かんでくるのです。
例えば「北の指導者を亡き者に」という点ですが、トランプは「アメリカとして実行するつもりはない」ようです。というのは「(自分の交渉術を使って)中国にやらせるように仕向ける」というのです。つまり、言葉は過激なのですが、要するに北朝鮮の問題はアメリカが直接手を下すのではなく、中国との協調で解決したいと言っているのです。
もちろん、「亡き者に」というのは乱暴だとしか言いようがなく、大統領を目指す人間としてまったく不適切です。ですが、そのような過激な「キャッチフレーズ」で注目させておいて、実際には「他力本願」というか「非干渉主義」、あるいは「孤立主義」とも言える姿勢を取っている、そこにトランプの真骨頂があるのです。
ブッシュ元大統領への攻撃も同様で、まるで「9.11テロに責任がある」ように攻撃したかと思えば、その勢いで「イラク戦争というのは本当にバカげている」と批判していました。「大量破壊兵器なんて嘘だった」「フセイン政権を除いたら地域全体がカオスになるのは分かっていたはずだ」と、徹底的に断罪したのです。
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つまり、トランプの「暴言」というのは、その主張を「まともに分析」すれば、決してタカ派でもなければ、先制攻撃主義とか、敵政権の「すげ替え」などを志向するものでもないのです。強いて言えば、不介入主義とか、孤立主義と言えるものです。
サウスカロライナの会場では、この「イラク戦争批判」の部分で保守派から大ブーイングが起こりました。もちろん、ブッシュ元大統領を罵倒して、イラク戦争を全面否定するのは「草の根の軍事タカ派」には許せないに違いありません。ですが、会場では同時に支持者からの拍手も起きていました。ということは、共和党の支持者の中でも割れているのです。
トランプの暴言の根本にあるのが「孤立主義」だというのは、例えば「イスラム教徒を入国させない」とか「メキシコとの間に巨大な壁を作って移民を阻止する」という一連の暴言を重ねてみれば、ますます鮮明に見えてきます。
この選挙でトランプは、「偉大なるアメリカを取り戻す」というスローガンを掲げています。それだけを見ると、オバマの時代に軍縮と国際協調主義によって「世界の警察官から降りつつ」あったアメリカを、再び軍事大国にして世界の秩序を主導してくれそう――。支持者の中にはそんな期待もあるかもしれません。
しかし、彼の主張によく耳を傾ければわかりますが、そのような期待はまったく間違いと言っていいと思います。
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