自分には「大きなビジョンを描いて羽ばたけた経験」も「小さなビジョンに縛られた経験」も両方あると、スタンフォード大学の起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグは言う。一体どういう意味だろうか。
シーリグは新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で、ビジョンを描くことの大切さを訴えているが、事はそう単純ではない。自分にはここまでしかできないと思い込み、それ以上の可能性に気づけなくなってしまうことも時にあるのだ。ビジョンそのものがチャンスの幅を狭めてしまうのである。
【お知らせ】『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』発売記念 ティナ・シーリグ来日特別セミナー 特典付き先行予約受付中!
とはいえ、そんな"限界"はほんの一瞬で消えるもの。以下、同書の「第2章 ビジョンを描く――世界があなたの舞台」から、ある女性の人生を変えた1枚の写真のエピソードを抜粋する。
◇ ◇ ◇
幸い、自分自身に対するイメージは変幻自在で、瞬時に変えることができます。これは、まさにアン・ミウラ=コウに実際に起きたことでした。科学者の娘としてカリフォルニア州パロアルトで育ったアンは、医者か研究者になるものと思われていました。イェール大学に進学すると、電子工学を学ぶかたわら、学費の足しにするために学部長室で事務のアルバイトをしました。
一九九二年の冬のある日、学部長からある訪問者を案内するよう頼まれました。このとき、アンがパロアルト出身だと知った訪問者から、春休みにパロアルトに戻ったら自分の鞄持ちをする気はないかと誘われます。どんな仕事かと尋ねたところ、なんと相手はヒューレット・パッカード社の社長ルー・プラットでした。アンは興味津々で、この誘いを受けました。
ヒューレット・パッカード社で、ルーの後をついて回ったアンは、実際にどのように会議を仕切り、意思決定を行なうかを目の当たりにしました。あるとき、ルーの提案で、彼の執務室で一緒に写真を撮ることになり、白いソファのルーの向かいに座りました。数週間経って送られてきた手紙には、アンの写真の他にもう一枚写真が同封されていました。おなじ週に、おなじ部屋で撮られたもので、ルーの向かいにはアンではなく、マイクロソフト社の社長のビル・ゲイツが座っていました。共同事業に合意し、サインするところでした。
アンは、おなじ部屋でおなじ角度から撮られた二枚の写真を見比べました。ゲストは二人ともおなじソファに座っています。この瞬間、アンには違う人生が見えました。将来の壁が取り払われ、世界的企業のリーダーとなる自分の姿が想像できたのです。アンは聡明でやる気もありましたが、自分が世界の舞台で活躍できるなどと考えたこともありませんでした。それが、一瞬で何もかも変わったのです。
時間を一気に早送りして二〇一五年現在、アンは、パロアルトでフラッドゲート・ファンドのパートナーを務めています。スタンフォード大学で工学博士号を取得した後、二〇一〇年にマイク・メイプルズと共同で設立したファンドです。世界的に影響力のある初期段階のスタートアップ企業にアドバイスし、シリコンバレーでも特に影響力のあるリーダーとして評判です。
アンの物語が示しているように、たいていの人は自分が生きている舞台に疑問をもちませんし、自分の影響力が広がることが心地いいとも感じません。ですが、そうした見方は、ほんの一瞬で変わることがあります。何気ない会話や一冊の本、一本の映画、あるいはたった一枚の写真が、自分の未来像をがらりと変えてしまうことがありえるのです。
◇ ◇ ◇
一方、シーリグは本書で、「叶えたい目標をイメージするだけでは不十分であること」も示している。将来をイメージするだけだと、それに注ぎ込むエネルギーが低下することが実験から明らかになっているという。要するに、目標にたどり着くまでに克服すべき障害についてもイメージしておく必要があるのだ。
大切なのは、チャンスの幅を狭めてしまうような小さなビジョンではなく、大きなビジョンを描くこと。そして、それを達成するための道筋を現実的に考えておくこと。
そのためのフレームワークが、シーリグが本書で提示する「インベンション・サイクル」だ。想像力がクリエイティビティを生み、クリエイティビティがイノベーションにつながり、イノベーションが起業家精神を呼び起こす。そして、起業家精神が新たな想像力を刺激し......というサイクルである。
シーリグによれば、思い描く未来にたどり着くために必要なことは3つある。第一が起業家的な心構えで、それは日本だけで32万部という世界的ベストセラーの著書『20歳のときに知っておきたかったこと』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)にまとめたという。第二は、問題を解決し、チャンスを活かすためのツール。それは2作目の著書『未来を発明するためにいまできること』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で取り上げた。
そして第三に必要なのが、ひらめきを形にするためのロードマップだ。最新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』のテーマである。このシリーズでは、本書に収められたさまざまなエピソードをいくつか抜粋し、シーリグのメッセージと共に紹介していく。
※スタンフォード大学 集中講義(1):悪行をやり尽くした末、慈善活動家になった男の話
※スタンフォード大学 集中講義(2):レゴ社の「原点」が記されていた1974年の手紙
※スタンフォード大学 集中講義(4):やる気の源を尋ねたら、その会社は数か月後に行き詰まった
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『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』
ティナ・シーリグ 著
高遠裕子 訳
三ツ松 新 解説
CCCメディアハウス
『20歳のときに知っておきたかったこと
――スタンフォード大学 集中講義』
ティナ・シーリグ 著
高遠裕子 訳
三ツ松 新 解説
CCCメディアハウス
『未来を発明するためにいまできること
――スタンフォード大学 集中講義II』
ティナ・シーリグ 著
高遠裕子 訳
三ツ松 新 解説
CCCメディアハウス
シーリグは新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で、ビジョンを描くことの大切さを訴えているが、事はそう単純ではない。自分にはここまでしかできないと思い込み、それ以上の可能性に気づけなくなってしまうことも時にあるのだ。ビジョンそのものがチャンスの幅を狭めてしまうのである。
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とはいえ、そんな"限界"はほんの一瞬で消えるもの。以下、同書の「第2章 ビジョンを描く――世界があなたの舞台」から、ある女性の人生を変えた1枚の写真のエピソードを抜粋する。
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幸い、自分自身に対するイメージは変幻自在で、瞬時に変えることができます。これは、まさにアン・ミウラ=コウに実際に起きたことでした。科学者の娘としてカリフォルニア州パロアルトで育ったアンは、医者か研究者になるものと思われていました。イェール大学に進学すると、電子工学を学ぶかたわら、学費の足しにするために学部長室で事務のアルバイトをしました。
一九九二年の冬のある日、学部長からある訪問者を案内するよう頼まれました。このとき、アンがパロアルト出身だと知った訪問者から、春休みにパロアルトに戻ったら自分の鞄持ちをする気はないかと誘われます。どんな仕事かと尋ねたところ、なんと相手はヒューレット・パッカード社の社長ルー・プラットでした。アンは興味津々で、この誘いを受けました。
ヒューレット・パッカード社で、ルーの後をついて回ったアンは、実際にどのように会議を仕切り、意思決定を行なうかを目の当たりにしました。あるとき、ルーの提案で、彼の執務室で一緒に写真を撮ることになり、白いソファのルーの向かいに座りました。数週間経って送られてきた手紙には、アンの写真の他にもう一枚写真が同封されていました。おなじ週に、おなじ部屋で撮られたもので、ルーの向かいにはアンではなく、マイクロソフト社の社長のビル・ゲイツが座っていました。共同事業に合意し、サインするところでした。
アンは、おなじ部屋でおなじ角度から撮られた二枚の写真を見比べました。ゲストは二人ともおなじソファに座っています。この瞬間、アンには違う人生が見えました。将来の壁が取り払われ、世界的企業のリーダーとなる自分の姿が想像できたのです。アンは聡明でやる気もありましたが、自分が世界の舞台で活躍できるなどと考えたこともありませんでした。それが、一瞬で何もかも変わったのです。
時間を一気に早送りして二〇一五年現在、アンは、パロアルトでフラッドゲート・ファンドのパートナーを務めています。スタンフォード大学で工学博士号を取得した後、二〇一〇年にマイク・メイプルズと共同で設立したファンドです。世界的に影響力のある初期段階のスタートアップ企業にアドバイスし、シリコンバレーでも特に影響力のあるリーダーとして評判です。
アンの物語が示しているように、たいていの人は自分が生きている舞台に疑問をもちませんし、自分の影響力が広がることが心地いいとも感じません。ですが、そうした見方は、ほんの一瞬で変わることがあります。何気ない会話や一冊の本、一本の映画、あるいはたった一枚の写真が、自分の未来像をがらりと変えてしまうことがありえるのです。
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一方、シーリグは本書で、「叶えたい目標をイメージするだけでは不十分であること」も示している。将来をイメージするだけだと、それに注ぎ込むエネルギーが低下することが実験から明らかになっているという。要するに、目標にたどり着くまでに克服すべき障害についてもイメージしておく必要があるのだ。
大切なのは、チャンスの幅を狭めてしまうような小さなビジョンではなく、大きなビジョンを描くこと。そして、それを達成するための道筋を現実的に考えておくこと。
そのためのフレームワークが、シーリグが本書で提示する「インベンション・サイクル」だ。想像力がクリエイティビティを生み、クリエイティビティがイノベーションにつながり、イノベーションが起業家精神を呼び起こす。そして、起業家精神が新たな想像力を刺激し......というサイクルである。
シーリグによれば、思い描く未来にたどり着くために必要なことは3つある。第一が起業家的な心構えで、それは日本だけで32万部という世界的ベストセラーの著書『20歳のときに知っておきたかったこと』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)にまとめたという。第二は、問題を解決し、チャンスを活かすためのツール。それは2作目の著書『未来を発明するためにいまできること』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で取り上げた。
そして第三に必要なのが、ひらめきを形にするためのロードマップだ。最新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』のテーマである。このシリーズでは、本書に収められたさまざまなエピソードをいくつか抜粋し、シーリグのメッセージと共に紹介していく。
※スタンフォード大学 集中講義(1):悪行をやり尽くした末、慈善活動家になった男の話
※スタンフォード大学 集中講義(2):レゴ社の「原点」が記されていた1974年の手紙
※スタンフォード大学 集中講義(4):やる気の源を尋ねたら、その会社は数か月後に行き詰まった
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高遠裕子 訳
三ツ松 新 解説
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――スタンフォード大学 集中講義』
ティナ・シーリグ 著
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『未来を発明するためにいまできること
――スタンフォード大学 集中講義II』
ティナ・シーリグ 著
高遠裕子 訳
三ツ松 新 解説
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