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どうして日本人は「ねずみのミッキー」と呼ばないの?

ニューズウィーク日本版 2016年2月20日 7時5分

 以前は日本に住んでいたものの、イギリスに帰ってもう5年。そんな英国人ジャーナリストが、日本の読者向けに日本社会の"入門書"を書いた。コリン・ジョイスならば、それも可能である。本誌ウェブコラム「Edge of Europe」でもお馴染みのジョイスは、92年に来日し、高校の英語教師や本誌記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員などを経て、2007年に日本を離れた(ちなみに、詳しいプロフィールはこちら)。

 06年に著した『「ニッポン社会」入門』(谷岡健彦訳、NHK生活人新書)は10万部を超えるベストセラーに。その後も、『「アメリカ社会」入門』(谷岡健彦訳、NHK生活人新書)、『「イギリス社会」入門』(森田浩之訳、NHK出版新書)と、鋭い観察眼と無類のユーモアを注ぎ込んだ一連の著作で多くのファンを獲得している。

 このたび、そのジョイスが新刊『新「ニッポン社会」入門――英国人、日本で再び発見する』(森田浩之訳、三賢社)を上梓。思いもよらない新たな発見が綴られた「目からウロコ」の日本論であり、抱腹必至のエッセイ集でもある本書から、一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。

※第1回:飛べよピーポ、飛べ。そしてズボンをはきなさい

 以下、シリーズ第2回は「1 永遠に解けないニッポンの謎」から。

◇ ◇ ◇

 すみません、ちょっといいですか。

 お忙しいところ申し訳ありませんが、そんなに時間はかかりません。ぼくはイギリスから来た記者なんですが、日本についていくつかお尋ねしたいことがありまして。

 記事を書くための取材といいますか......どちらかというと、ぼく自身がもう少し日本を理解したいんです。

 だから、あの、ぼくは自分が日本のことをけっこう知っているとは思うんです。この国にはわりと長く住みましたし、それ以外に何度も来ています。日本語も勉強して、見るもの聞くものすべてを吸収しようとしてきました。

 それでも、まだわからないことがいくつかあるんです。で、もしかすると何か教えていただけないかと思ったものですから......。

 日本はグルメの国といわれていますよね。じゃあどうして、ミルクティーを注文すると、ちっぽけなプラスチックの容器に入ったクリームが出てくるのでしょう? 

「ミルク」という言葉を日本語に翻訳すると、「牛乳」ではなくて、「環境にやさしくなくて、ひどい味のするベタベタした液体」ということになるのでしょうか。

 レストランの入り口に、料理のサンプルが飾ってありますよね。あれは、外国人が食べたい料理を指させばすむように置かれているのでしょうか。それとも日本の人たちは、プラスチック製の食べ物を見ると食欲がわくのでしょうか。

 あと、どっちが先なのでしょう。レストランのコックのほうが、サンプルの料理の量や盛りつけ方に合わせるのですか。それともサンプルのほうが、コックの注文に合わせて作られるのでしょうか。

【参考記事】日本の外食文化を消費増税が壊す

 日本は料理の見映えが美しいことでも有名です。そこで思ったのですが、もんじゃ焼きというのは、ああいう外見になるべきものなのでしょうか。仮にもんじゃ焼きの味が本当に好きな人がいたとしても、あの小さなへらを使って苦労して食べるだけの価値はあるのですか。というか、東京に「もんじゃストリート」などという場所が本当に必要なのでしょうか(もしかしたら「もんじゃストリート」というのは、もんじゃ焼きをある地域に「囲い込む」ためのものなのでしょうか)。

 東京には本当にすてきな公園がいくつもあります。それに(ぼくはそういう場所がとくに好きなわけではありませんが)ショッピングを楽しめるエリアもいくつもあります。だったら、どうして池袋に行きたがる人がいるのですか。

 生きていてよかったと思えるほど、すばらしく晴れた朝がやって来ます。しかも、それが週末の始まりだったりします。そのとき、パチンコ店の前には開店を待つ人たちが列までつくっているのです! あれは何なのですか。何か悪いことでもして、ひどい罰を受けているのでしょうか。

 ぼくは長いこと日本語を勉強してきました。そこで思ったのですが、一九歳と二一歳の間の年齢を「はたち」と呼ぶと誰が決めたのですか。「水」が「湯」になるのは何度からでしょう。炊飯器の中にあるときは「米」なのですか、「ご飯」なのですか。

 ぼくは日本式の英語も勉強してきました。「ジンギスカン」という怖そうな名前を聞くと、世界を征服しようとした人物よりも、羊肉のバーベキューを思い出すというのは本当なのですか。「パレス(宮殿)」という言葉に「狭いアパート」という意味合いが生まれたのは、なぜですか。

 焼きいも屋は、一年の半分は何をしているのですか。ええ、そのことについて書いた本があるとは聞きましたが、できれば手っ取り早く答えを知りたいと思いまして。

 どうしてみんな、こんなに長生きするのですか。お酒をけっこう飲んで、たばこもけっこう吸っているのに......。

 どうして女性は太らないのですか。ぼくは「ケーキ・バイキング」の店で、OLの人たちを目撃してしまったのですが......。

 外国人が納豆を食べられるかどうかに、どうしてみなさんはそんなに関心があるのですか。関西出身の人たちにも、納豆を食べるようすすめているのでしょうか。

 「仕方がない」と、みんな言います。でも、いつもそうだとは限らないのではないですか。このあいだ、「仕方がない」という日本語は何かをあきらめるときの言い訳だとはっきりわかる出来事がありました。ぼくが「仕方がある」と言ったら、まわりの人たちにおかしなやつだという目で見られました。

 なぜみんな「ちょっとそこまで」出かけるのですか。「ちょっとそこ」には、どんな面白いものがあるのですか。

 どうして通りや公園がこんなにきれいなのですか。ぼくにはごみ箱のひとつも見つけられないのに。

 人々が信号などおかまいなしに道を渡る国もあれば、車がまったく来なくても歩行者がじっと待っている国もあります。けれども日本の人たちは信号が青に変わるのを待っていても、ぼくが車の流れが途切れたときに道路を渡ると、いっせいにあとからついてくるのはなぜなのですか。

 ちょっとあわてていらっしゃるご様子ですが、あともう少しだけいいですか。

 猫のしっぽは誰が切っているのです? なぜしっぽを切り、それをどうするのです? コンビニで売っているサンドイッチのパンの耳の場合は?

【参考記事】ディズニーの魔法が消えた日

 「くまのプーさん」「ひつじのショーン」と呼ぶのに、どうして「ねずみのミッキー」とは言わないのですか。

 最後の質問ですが、あなたがたはどうしてそんなに辛抱強いのですか。

※次回は2月22日に掲載予定です。

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『新「ニッポン社会」入門
 ――英国人、日本で再び発見する』
 コリン・ジョイス 著
 森田浩之 訳
 三賢社


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