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やる気の源を尋ねたら、その会社は数か月後に行き詰まった

ニューズウィーク日本版 2016年2月19日 15時42分

 スタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム(STVP)は、スタンフォード大学の起業研究の拠点。その責任者を務めるのが起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグ教授だ。STVPで彼女は、正式な講座のほか、特別なプログラムや、世界各国の学生や大学との共同のワークショップも開いている。

 このたび刊行されたシーリグの新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)には、STVPの授業や実験、プログラムがたびたび登場する。その1つが「もっぱらお金の話しかしない」ベンチャー経営者のエピソードだ。

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 そのエピソードが示唆するのは、金銭的な報酬などの外的動機と、仕事への意欲などの内的動機の違い。以下、本書の「第3章 やる気を高める――顧客は自分自身」から抜粋する。

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 私はその実例を間近で見てきました。STVPのメイフィールド・フェローズ・プログラムでは、学生一二名が夏のあいだ、創業まもないスタートアップ企業で働く機会を設けています。これは起業リーダーシップに焦点をあてた九か月の研修・教育プログラムの一環です。学生はまず春学期に、スタートアップ企業の戦略と組織行動について学びます。そして、夏のあいだに各自が企業で働き、クラスメートや教官を招くオープンハウスを主宰します。そして、この研修の経験を踏まえて、秋学期に事例研究を発表するのです。

 数年前の夏のオープンハウスで、携帯電話用広告アプリの開発企業のプレゼンテーションを聞いていて、その会社の事業目的がはっきりしないと思ったことがありました。これといった課題に取り組んでいる様子はなく、その会社の理念がまったく見えなかったのです。創業者はもっぱらお金の話しかしません。純粋な興味から、あなたのやる気の源は何ですか、と丁重に尋ねてみました。創業者はあきらかに狼狽した様子で、明確な答えは返ってきませんでした。わずか数か月後にその会社が行き詰まったと聞いても、驚きはしませんでした。事業をしていれば必ず壁にぶつかる時があるものですが、それを乗り越えて会社を支えるために必要な気概が、この創業者はなかったのです。

 この件があって、その後のメイフィールド・フェローズのオープンハウスでは、どの企業についても起業の動機を尋ねることにしましたが、その答えの落差に驚きました。この質問をあらかじめ予想していたリーダーと、そうでないリーダーの差は歴然でした。学生の一人は、この経験を振り返って、こう書いています。「夏のあいだ、一〇人あまりのCEOを見てきて、完璧なリーダーになるためのレシピなどないことがはっきりしました。成功しているリーダーの共通点は、事業の将来ビジョンが明確であり、目標実現に向かってがむしゃらに働くように周りを鼓舞できていた、ということです」

 やる気と成功の関係については、アップルの元「伝道師(エバンジェリスト)」であり、ハイテク企業の投資家として起業関連の著書も多いガイ・カワサキがその重要性を指摘しています。

 儲けだけを追い求める企業よりも、強い使命感をもった企業が成功する確率の方がかなり高いと、ガイは言います。スタンフォード大学起業リーダー連続講演の一部を紹介しましょう。


 起業家精神について、私が時に痛い思いをしながら発見し学んだことは、事業の意義を見出すことがすべて、ということです。カネ儲けを狙って起業する人が非常に多いのは事実で、手っ取り早くカネを稼ごうと、ネット企業が次々と出現しました。ですが、私が起業した企業や出資した企業、または関係のある企業を見てきて気づいたのは、成功する企業は例外なく、最初から世界をがらりと変えようとか、世界を良くしよう、有意義なことをしようという意図をもって設立された企業だということです。こうした企業なら成功します。

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【参考記事】起業家育成のカリスマに学ぶ成功の極意

 理想主義的だとか、実用的なスキルではないなどと軽視してはいけない。アメリカの一流大学の起業家育成プログラムで重視されていることの1つが、やる気(モチベーション)なのである。夏のインターンシップを終えた学生たちが大学に戻って来る秋には、学生1人ひとりに「どうしたらやる気になるかを探る機会」が設けられるほどだという。

 想像力がクリエイティビティを生み、クリエイティビティがイノベーションにつながり、イノベーションが起業家精神を呼び起こす。そして、起業家精神が新たな想像力を刺激し......という「インベンション・サイクル」を、シーリグは本書で提唱している。ここで取り上げた「強い意欲」は、サイクルの1要素であるクリエイティビティの原動力となる。

 シーリグによれば、思い描く未来にたどり着くために必要なことは3つある。第一が起業家的な心構えで、それは世界各国でベストセラーとなった著書『20歳のときに知っておきたかったこと』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)にまとめたという。第二は、問題を解決し、チャンスを活かすためのツール。それは2作目の著書『未来を発明するためにいまできること』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で取り上げた。

 そして第三に必要なのが、ひらめきを形にするためのロードマップだ。最新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』のテーマである。このシリーズでは、本書に収められたさまざまなエピソードをいくつか抜粋し、シーリグのメッセージと共に紹介していく。

※スタンフォード大学 集中講義(1):悪行をやり尽くした末、慈善活動家になった男の話
※スタンフォード大学 集中講義(2):レゴ社の「原点」が記されていた1974年の手紙
※スタンフォード大学 集中講義(3):ある女性の人生を変えた、ビル・ゲイツがソファに座った写真

※次回は2月23日に掲載予定です。

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『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』
 ティナ・シーリグ 著
 高遠裕子 訳
 三ツ松 新 解説
 CCCメディアハウス



『20歳のときに知っておきたかったこと
 ――スタンフォード大学 集中講義』
 ティナ・シーリグ 著
 高遠裕子 訳
 三ツ松 新 解説
 CCCメディアハウス



『未来を発明するためにいまできること
 ――スタンフォード大学 集中講義II』
 ティナ・シーリグ 著
 高遠裕子 訳
 三ツ松 新 解説
 CCCメディアハウス


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