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東京五輪の「おもてなし」、現行の公共交通では大混乱になる - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2016年2月23日 17時30分

 今年は「うるう年」で「アメリカ大統領選挙の年」ですが、同時に「夏季五輪の年」でもあり、8月にはリオ五輪が開催されます。ということは、2020年の東京五輪まで残り4年しかありません。競技施設などの建設工事も気になりますが、今回は五輪開催の前後に滞在人数が激増する首都圏での訪日外国人に対して、公共交通機関がどのような利便性を提供したら良いか考えてみたいと思います。

 まず、現在の対応はどうなっているかというと、JRを使って日本国内を旅行する外国人には事前に「JRパス」という乗り放題切符を買ってもらうことになっています。約3万円で1週間JR全線が乗り放題になるので、長距離移動をする人には「お得感」はあると思います。またJR東日本管内だけの乗り放題切符もあります。その他については、外国人旅行者に対する特別な利便性の提供はされていません。

 この「現状のまま」で五輪を迎えるのは、かなり問題があると思います。というのは、まず現行の「乗り放題パス」は紙製で、自動改札には対応していません。JRでは有人改札の対応になります。現在でも人が溢れている状況ですから、これでオリンピックになって人が増えたら各駅の有人改札はパンクしてしまいます。

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 さらにJR以外の私鉄、地下鉄、バスに関しては特に外国人向けの「乗り放題」サービスはありません。SUICA や PASMO などを使えるのは日本ツアーの「上級者」であって、初心者は今でも「切符」を買うことが多いのが現状でしょう。しかし、どんどん「切符の販売機」が減っていることに加えて、自動改札もICカード専用に入れ替わっている中で、混乱は避けられないと思います。

 理想的な改善策としては、訪日外国人のほぼ99%がスマホを持っていると考えられるので、スマホに「電子マネー+チケットレス」のアプリをダウンロードさせ、それに運賃の試算システム、時刻表と乗り継ぎ案内、路線図案内を合体させ、各国語対応にすることが考えられます。課金はクレジットカードにするのです。

 こうしたサービスは、欧米でもアジアでも広範に実用化されていますから、アプリに関してはユーザーインターフェースも含めて既存のものも沢山あるでしょうし、そもそも訪日する外国人の間では「テクノロジー先進国の日本なら」当然このようなサービスがあると期待しているでしょう。

 しかし、実際にはこれは実現不可能です。まず、海外で売られているスマホが内蔵している非接触式の伝送システムは「NFC(近距離無線通信)」が主流です。iPhoneの「Apple Pay」などもそうですし、アンドロイド端末の多くもそうです。ですが、NFCという技術ですと、どうしても交信に数秒を要しますから、首都圏の改札のスピードには対応できません。しかも、改札をNFC対応にするには相当なコストがかかるのです。

 日本の現行のICカード改札というのは、「FeliCa」というテクノロジーを使っています。これなら速いのですが、残念ながら日本以外ではFeliCaを内蔵したスマホというのはありません。ということは、スマホを使ったシステムは、NFCもFeliCaも不可能ということになります。

 現実性があるのは、もっと単純なアプローチです。来日した外国人に「FeliCa」のICカードを全員に配布するのです。できれば、乗り放題パスもFeliCaに内蔵してしまうべきです。

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 1つのアイディアとして、その「訪日外国人向けのFeliCa内蔵カード」を、NFCでスマホと交信可能にしてスマホに入っているクレカ情報で課金するという考え方です。カードにちょっとカネがかかりますが、自動改札を改造することを考えれば安いものだと思います。また、日本人向けにも「FeliCaと Apple Pay を連動させる」という機能は活用の余地があると思います。乗換案内と料金試算の機能のついたアプリも連動させることは可能だと思います。

 もう1つの考え方は、この際ですから、五輪期間中とその前後だけでもいいので、訪日外国人用に「首都圏のJR・私鉄・地下鉄・バス」が14日間乗り放題で均一料金のICカードを売るというのはどうでしょうか? 外国人観光客からの複雑な料金体系に関する質問に答える労力がほとんどなくなるというメリットを考えれば、多少の減収には目をつぶることはできるのではないでしょうか?

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