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広告ブロック技術のShineはネット業界の「核兵器」

ニューズウィーク日本版 2016年2月24日 17時0分

 スペイン・バルセロナで開催中の「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」は、世界最大の携帯電話の見本市。テクノロジーの祭典だ。

 満席の講演会場で参加者が仮想現実(VR)ヘッドセットを付け、その脇をフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグがさりげなく笑顔で通り過ぎた写真は、瞬く間に拡散した。

 しかし、グーグルとヤフー、イスラエルのモバイル広告ブロックのスタートアップ企業「Shine(シャイン)」の代表者が集ったトークセッションは結構、荒れた。

 Shineのロイ・カーシーCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)は、通常ならば勝手に読み込まれて表示されるオンライン広告を"消してしまう"自社の広告ブロック技術を、オンライン広告を消滅させる「核兵器」になぞらえて業界に挑戦状を叩きつけた。さらにはテクノロジー企業各社に対し、Cookieなどを仕込んで、消費者のデータを「軍事レベル」で収集・追跡していると非難した。

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「そもそもこのトークセッションが行われているのは、わが社が業界に核兵器を持ち込んだからだ」と、カーシーは言った。ヤフー副会長のニック・ヒューは、この発言は「少々大袈裟」と指摘したが、カーシーは他に、Shineは「広告の歴史において単独の脅威としては最大のもの」とも言っている。

 グーグルのメディア・プラットフォーム担当マネージング・ディレクター、ベンジャミン・ファースはこれに反論。Shineの技術は、ユーザーにスパムではなく良質な広告を提供する企業を罰する「配慮に欠けた」手法であり、「白か黒かで二分する考え方には懸念を抱いている」と語った。

個人ではなくキャリアが広告ブロックを導入する例も

 2011年の創業以来、Shineは世界中で少しずつ、広告ブロックのテクノロジーを広めてきた。テッククランチの報道によれば、今月初め、同社はヨーロッパで初めて携帯電話キャリアとの契約を締結した。カリブ海の携帯電話キャリアに次ぐ2社目のパートナーで、これによりユーザー個人ではなく、キャリアとして広告ブロックを導入することになる。

 ここ数年、広告ブロック技術はネット業界の注目の的だった。広告収入に依存するオンラインメディアに大打撃を与え得るテクノロジーだからだ。ワイアードやワシントン・ポストなど多くのメディアで、広告ブロック使用に関する警告が表示されたり、ウェブサイトの記事を読み始める前に広告ブロックを強制的に遮断する対策が導入されたりしている。

 一方、多くのユーザーにとって、オンライン広告は災難でしかない。2012年にアドビ社が発表したオンライン広告に関する調査報告によれば、68%の消費者がオンライン広告を「邪魔」だと感じているという。

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 MWCのトークセッションに話を戻せば、激しい応酬にもかかわらず、Shineのカーシーとグーグルのファースには共通認識があることも明らかになった。オンライン広告がウェブページの容量を増大させ、ページの表示に時間がかかる原因になっていることに、双方とも同意したのだ。

 だからこそ、フェイスブックは昨年10月、「インスタント・アーティクルズ」を導入したのである。パートナーメディアの記事を、そのメディアサイトへのリンクを貼るのではなく、最後までフェイスブック上でユーザーに読ませる仕組みであり、ニュースフィード上に素早く表示されるのが特徴だ。同社は先週、関心があればどのメディアにもインスタント・アーティクルズを開放すると発表した。

 グーグルも同様で、モバイルにおける表示時間を短縮させるためにオープンソースのツールを公表すると、ファースがトークセッションで発表した。「変に聞こえるかもしれないが、ある1点においてはカーシーと意見が一致する」と、ファース。「業界も広告主もパブリッシャー(サイト運営者)も、これまでは速度の問題に甘すぎたと思う」

リー・スン

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