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「トランプ降ろし」の仰天秘策も吹き飛ぶ、ルビオとクルーズのつばぜりあい - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2016年2月25日 16時0分

 今週開かれた共和党のネバダ州党員集会では、ドナルド・トランプ候補が45.9%の得票率を獲得し、遂に40%の大台を突破。2位のルビオ(23.9%)、3位のクルーズ(21.4%)両候補に大差をつけています。来週3月1日の「スーパー・チューズデー」(南部の州が多いので大学スポーツリーグの名称を取って別名「SECプライマリー」とも呼ばれる)」では、共和党の場合14州で予備選または党員集会が行われますが、現在のトランプ陣営は絶好調と言っていいでしょう。

 共和党系のアナリストたちは、この事態に「真っ青」になっています。「小さな政府論」も「ブッシュのイラク戦争」も「自由貿易」も否定するトランプの存在は、共和党の中核イデオロギーを破壊するだけでなく、11月に大統領候補として担ぐことになれば、上下両院から地方選挙まで含んだ「巨大な同時選挙」が総崩れになる可能性もあるからです。

 そこで、多くのワシントンの保守派は「トランプは1位になるかもしれないが、代議員数で過半数は取れない」だろうから、その場合は7月の党大会の現場で「代議員の中で各州の予備選結果に縛られずに自由に再投票ができる州の代表」が「談合」して決選投票に臨み、トランプを排除するというシナリオを描いてきました。

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 この「党大会の現場での自由な決選投票」のことを「ブローカー・コンベンション(Brokered Convention)」と言い、その場合に起きる「現場での談合」のことを「フロア・ファイト(Floor Fight)」というのですが、64年ぶりにそれに持って行こうというのです。共和党の全国委員会のラインス・プリーバス委員長も「あらゆる可能性を排除しない」と明言していました。

 ところが、この「構想」に暗雲が漂ってきました。というのは、トランプはもしかしたら、この調子で行くと、代議員数で過半数を取ってしまうかもしれないのです。プリーバス委員長は、現在の情勢を見て「誰が当選しても自分は祝福せざるを得ない」とトーンダウンをしてきています。さすがに代議員数で過半数を取った人間を「降ろす」のは難しいし、そんなことを口にしては共和党の党内民主主義が制度的にも崩壊するからです。

 しかし、それでもトランプが予備選に勝って統一候補になるのは困ると考える人は沢山いるようです。そこで、ある「秘策」が検討されていると言われています。ターゲットは終盤に予定されている6月7日の予備選です。実は3月15日以降に予定されている予備選の多くは「1位が代議員を総取り」する規定になっていて、例えばこの6月7日に実施される5州はすべてそうなっています。ここには代議員数が全米最大(172人)のカリフォルニアと、都市型選挙区のニュージャージー(代議員数51人)が含まれています。

 この合計223人の代議員を「トランプに渡さない」ことに成功すれば、トランプは「1位だが過半数ではない」ということになり、見事に「ブローカー・コンベンション」が成立し「フロア・ファイト」という「談合」に持ち込めるというのです。

 NBCのベテラン政治記者チャック・トッドは、カリフォルニアを取るだけの目的でミット・ロムニー前大統領候補を担ぐ動きもあると指摘していますが、トッドのような「ビッグネーム」が言い始めているというのですから、あながち根拠のない話ではなさそうです。

 ところが、これには異論もあります。仮に「フロア・ファイト」となった場合、現在の勢いからすると「2位のルビオ」と「3位のクルーズ」を、どちらかに一本化しなくてはなりません。ですが、この一本化が政治的に不可能だというのです。

 これはワシントン・ポスト紙のジム・タンカーズリー記者が指摘しているのですが、「ルビオはクルーズが大統領になるのは困る」「クルーズはルビオが大統領になるのは困る」という強い政治的な「利害」対立を持っているというのです。というのは、2人は共に44歳(ルビオ)、45歳(クルーズ)と若いところがミソで、仮に今回がダメでも「将来大統領になるチャンスがある」と考えているに違いないからです。

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 例えば、クルーズの側から見ると、仮に今回ルビオが大統領になってしまうと、8年やって退任する場合には、その副大統領が有力な後継者になる可能性があります。そうなると12年とか16年待たされる危険が出てきます。

 では、クルーズがルビオの副大統領になればいいかというと、その場合でも8年待って禅譲に期待するしかなくなります。それ以前の問題として、ルビオの副大統領候補にしてもらっても、今回負ければ、「自分も一緒に負けて」しまうことになり、ペイリンやライアンのような立ち位置に追いやられてしまいます。

 また、ルビオが4年やって再選で負けた場合、仮に自分が副大統領であれば、敗北の責任は自分も背負わされます。また2020年に民主党の若い実力者に政権を取られると、そこから4年後の相手の再選狙いの際にチャレンジャーになっても勝ち目は薄くなります。ルビオの側から見ても、この構図は全く一緒です。

 では、このままの勢いでトランプが共和党の統一候補になるのはどうなのでしょうか? 実は、この2人にとってはそんなに悪い話ではありません。トランプが本選で負けて、ヒラリーが勝ったとして、ヒラリーの最初の4年が好景気で推移するとはとても思えないし、年齢の問題もあるので、2020年にヒラリーに挑戦する形で出馬すれば勝ち目はあるというわけです。

 年齢的にも48歳とか49歳という「大統領選適齢期」に勝負をかけることができるし、「ヒラリーを打ち負かす」チャンスとしては、今年より2020年の方が可能性は高いという計算もできます。

 ですから、ルビオとクルーズにとっては、「自分が予備選に勝って統一候補になる」のが良いのは当たり前ですが、次善の策としては「トランプを予備選で勝たせて本選で負けさせる」シナリオなのです。そして「ルビオにとってはクルーズが」「クルーズにとってはルビオが」党大会で勝利するのは「絶対に避けたいシナリオ」だというのです。政治家らしいゲーム理論ですが、これはこれで説得力があります。

 しかし、4位以下はもう「泡沫候補」のレベルとなって撤退が始まっている現状では、「トランプを降ろす」ためには、2位のルビオと3位のクルーズを一本化させるしかありません。それでもこの2人が組めないというのであれば、「トランプ勝利」の可能性は相当高くなるでしょう。

 こうした現状をうかがって、これまでゼロだった議会共和党からの「トランプ支持」がポツポツ出始めました。「スーパー・チューズデー」直前の共和党は大混乱の中にあります。

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