Infoseek 楽天

ポーランドの「プーチン化」に怯えるEU

ニューズウィーク日本版 2016年2月26日 20時34分

 ポーランドは冷戦後長いこと、旧東欧における民主主義のお手本として広く認められてきた。しかし、右派野党の「法と正義(PiS)」が昨年10月の議会選挙で政権を奪取して以降、それが大きく変わろうとしている。

【参考記事】ベルリンの壁崩壊20年、中欧の失望

 カチンスキ元首相率いるPiSは政権の座に就くや、行政、司法、メディアに対する締め付けを強化。全土に大規模な抗議デモが広がっただけでなく、欧州連合(EU)への警鐘にもなっている。だが、経済的にも大きくNATO(北大西洋条約機構)の同盟国である国に対し、欧州委員会が制裁措置を科す可能性はほとんどない。

 国際情勢を専門とするシンクタンク、アトランティック・カウンシル主催の年次カンファレンスのポーランド理事長を務めるミカル・コボスコによると、PiSは「秩序」を重視している。そして彼らによれば、ポーランドの歴代政権、とくに2007~2015年まで政権を担ったドナルド・トゥスク前首相の「市民プラットフォーム」はひど過ぎたという。

 PiS政権は「革命的変化」の構想を持っていると、コボスコは言う。

 その構想に、欧州委員会は危機感を募らせている。なかでも衝撃的だったのは、国営テレビおよびラジオの経営トップと憲法裁判所の判事を政府が任命できるようにするという強権的な法案を、ドゥダ大統領が承認したこと。欧州委員会は1月13日、「法による統治」という民主主義の原則に反する可能性があるとして、EU加盟国に対して初めてとなる審査を開始した。

【参考記事】ヨーロッパに忍び寄るネオ排外主義

試されるEU

 欧州委員会はポーランドに対する制裁として、全加盟国の首相・大統領で構成する最高意思決定機関、欧州理事会におけるポーランドの議決権を停止することもできる。だが、実際にはそううまくはいかないだろう。

 EUによる制裁発動は、全会一致でなければならないが、既にハンガリーが、ポーランドを対象とするあらゆる制裁に拒否権を行使すると表明している。ポーランドのシドゥウォ首相は1月14日、EUは制裁措置を発動しないだろうと述べた。ポーランドが法治国家か否かについての最終的な判断は、EUの意思を試す大きな試金石になる。

 いくらEUが圧力をかけても、ポーランド政府が進路を変える見込みはない。欧州委員会の審査には協力するだろうが、賛否を巻き起こしている法案を取り下げる可能性は低い。

ポーランドとドイツの亀裂

 ポーランド政府のほうは、EUからの圧力に苛立ちを覚えている。内政干渉と見なしているのだ。うしたいがみ合いの最大の犠牲者はおそらく、対独関係だろう。

 4年前、ポーランドのシコルスキ外相はドイツを「不可欠の国」と呼んだ。こうした好意的な姿勢はこれまで、ドイツのポーランドに対する不満を和らげるのに役立ってきた。

 ドイツの政治家で欧州議会議員のマルティン・シュルツはポーランドの変わりようを「欧州政治における危険な『プーチン化現象』」だと言う。

【参考記事】プーチンが築く「暴君の劇場」

 ドイツがポーランドに指図をしているという反感は、第2次大戦中の両国の歴史と重なって、さらにエスカレートする。右傾化したポーランドのメディアは、ドイツ政府を非難する際にしばしば、ナチスを引き合いに出してきた。ポーランドの人気雑誌『Wprost』の最近の号では、ナチスの制服を着たドイツ首相アンゲラ・メルケルが表紙を飾っている。

【参考記事】ポーランド誌表紙にウェブ騒然、「欧州をレイプするイスラム」

ポーランドは右傾化しているのか?

 ポーランドで共産主義が崩壊してから20年あまりが経った。ポーランド政府の動きは、一部のアナリストが考えているように、右傾化、あるいはソ連時代への回帰を示すものなのだろうか?

「PiS政権がやっていることは、ポーランドが共産主義国家だったときと同じ全体主義を目指しているように見える」と、コボスコは言う。「メディアや司法制度を政府が支配し、人々を愛国主義へと煽動する。これらは旧ソ連時代の政治の要素だった」

 ポーランドがどこまで右傾化するのはわからない。PiSは、カトリック教会に深く根付いたEU懐疑派の保守政党だ。一方で、社会保障の拡大と、労働組合との連携を探るPiSの経済プログラムは左派的な政策に見えると、コボスコは指摘する。

「欧州全体で今後愛国主義、ポピュリズム、排外主義が勢いづいていくようだと、EUにおけるポーランドと似た者同士のハンガリーの発言力はますます強くなるだろう」と、コボスコは言う。

 明らかなことは、ポーランドの取り扱いは非常に慎重でなければならないということだ。

The article first appeared on the Atlantic Council site.

アシシュ・クマール・セン(アトランティック・カウンシル)

この記事の関連ニュース