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【写真特集】企業人目指す黒人女性の不安

ニューズウィーク日本版 2016年2月29日 19時20分

 ノースカロライナ州を拠点に活動する、アフリカ系アメリカ人アーティストのエンディア・ビール。ウィンストン・セーラム州立大学の准教授でもある彼女は写真やビデオを使って、人種問題やジェンダー意識の今を表現している。

 最新の写真シリーズ「私はあなたが求めている人ですか?」は、社会へ巣立つ前のアフリカ系アメリカ人の女子大学生たちを被写体にしている。撮影場所は彼女たちの自宅。背景には、ビール自身がかつて勤めていたエール大学のIT部署の廊下の写真をつるした。

 学生たちには就職の面接で着たいと思う服を着て、面接に臨むふりをしてもらった。カメラが捉えたのは、企業社会でマイノリティーとなる黒人女性たちの不安や将来の不確かさだ。

 ビールは白人男性の多い大学の職場にいたとき、とても居心地が悪かったという。アフロヘアで目立つ風貌の自分は浮いていて、「見せ物のように感じることも多かった」と彼女は言う。

 黒人女性が企業社会になじむには、自己表現を抑えたほうがいいと考えられている。ビールも面接には髪をストレートにし、青いブラウスにスラックス、小ぶりのイヤリングという格好で出掛けていった。一方、今回の写真に登場する学生たちは体にぴったりしたワンピース、明るい色のセパレーツ、アフロや編み込みヘアなど思い思いの華やかさにあふれている。つまらないグレーのスーツとは無縁だ。

 ビールが芸術に目覚めたのは、高校生のとき。初恋の人が殺人の犠牲になり、その悲しみと折り合いをつける手段がアートだった。声にならない感情をカンバスに表現した。

 大学時代にイタリアで勉強し、世界的にマイノリティーの経験が語られていないことに気付いたという。「同じように、現代のアート界でも少数派の存在があまり表現されていない。しかも企業で働く黒人女性について語られることはめったにない」と、彼女は言う。

 ビールが目指すのは、存在の見えない人々の生き方を記録すること。主流から外れた彼らを骨抜きにすることで平常を保とうとする社会によって、その声はかき消されている。

「多くの人にとって異質な場所から来たからといって、輝くことができないわけではない。私は自分の作品の力で、そのことを示したい」

キアラ(26)
「企業とは『自分自身』であることを歓迎してくれず、ひたすら『標準的』なことにこだわっている場所に思える。私には居心地が悪い」


ドンシャ(21)
「自分がアメリカの企業社会に入るには、白人の人たち以上に人脈をつくる必要がある。でもいったん入ったら、抜きんでて重要な地位に就けると思う」

マルティニーク(21)「アメリカ企業で働いた経験があるが、公平な待遇を受けた。その道のプロと信頼関係を築き、マイノリティーを対象とする市場について私の意見を聞いてもらえた」


アレクサス(19)「統計によれば、米企業で専門職に就くアフリカ系アメリカ人の女性はわずか5%だ。私はマーケティング専攻の学生として、企業のリーダーになる将来を思い続けなければ」


ジェシカ(28)
「より大きな市場シェアを得るための企業戦略とともに多様な視点を持つこと、そして多様性を受け入れることはアメリカ企業のためになる」


ジャスミン(21)「若いマイノリティー女性の私にとって、企業は少し気後れする場所。私みたいな外見で、地位の高い人はあまりいないから。でもそのことが、後に続くアフリカ系アメリカ人に道を開くため、もっと努力しようと思わせてくれる」

アシュレー(25)「白人男性に有利で、有色人種の女性に不利なのがアメリカの企業社会だと感じる。でも専門知識を持って企業を監督し、成長させているマイノリティー女性もいる」


サブリナ(23)
「アメリカの企業は近寄り難いが、成功したい私にとっては将来が期待できる場所でもある。尊敬と報酬を勝ち取るには人の倍は努力しないといけない」カトリーナ(23)「私も顔の見えない主人公として、米企業社会の中のマイノリティー女性の一員になる。大企業が、マイノリティーや女性のリーダーを雇うことで、均等な機会を与える努力をしていることは認める。それはベンチで出番を待つ腕のいい選手たちがいるということでもある」


アジャ(19)「私は企業には入らない。人々が創造性やアイデアを自由に表現できる、もっと偏見がなくて自由な環境に行くと思う」

Photographs by Endia Beal

<本誌2015年12月8日号掲載>

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Photographs by ENDIA BEAL

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