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日本は世界一「夫が家事をしない」国

ニューズウィーク日本版 2016年3月1日 15時30分

 最近、国会議員の育休取得宣言が社会的な議論(とその後のスキャンダル)を呼んだが、日本は相変わらず「男は仕事、女は家庭」という性別の役割分業観が強い社会だ。それは各種の意識調査からもうかがえるが、では実際の行動時間の統計データではどうだろうか。

 例えば夫婦間の家事・育児の分担率。国際社会調査プログラム(ISSP)が2012年に実施した「家族と性役割に関する意識調査」では、家事や家族ケア(育児・介護等)に男女がどれだけの時間をかけているかたずねている。

 配偶者がいて18歳未満の子がいる男女が家事にかける週間平均時間は、日本の男性が12.0時間、女性は53.7時間となっている。従って、男女の合算に占める男性の割合(家事分担率)は、12.0/65.7(h)=18.3%となる。男性の分担率は、わずか5分の1程度しかない。

【参考記事】育児も介護も家族が背負う、日本の福祉はもう限界

 いかにも少ない気がするが、では他の国ではどうだろうか。33カ国について同じ数値を計算し、高い順に並べてランキングにしたのが<図1>だ。上記調査の対象は38カ国だが、分析対象のサンプルが少ない国は除外している。(ドイツは旧西ドイツと旧東ドイツに地域が分かれて統計が出ている。)



 日本の男性の家事分担率18.3%は、世界で最も低い。1つ上のチリとの差も大きく、2割に達していないのは日本だけだ。日本で日常的に行われている夫婦の家事・育児の分担は、国際的に見ると特異であることがわかる。

 一方、上位の北欧諸国では、男性の分担率が4割を超えている。女性の社会進出が進んでいる国々だが、それに呼応して男性の「家庭進出」も進んでいる。失業率が高いメキシコが2位に入っているのは、失業して自宅にいる男性が多いためかもしれない。7位の南アフリカについても、同様の事情が考えられる。ただ欧米の主要国はいずれも30%台で、日本と比べると格段に高い。

 日本の男性の家事・育児時間が短いのは、仕事の時間が長いからだ。男性の週当たりの平均勤務時間は47.8時間(女性は20.2時間)。冒頭でも述べたが、日本は男女の役割差が大きい「男は仕事、女は家庭」の社会だ。その傾向は世界のどの国にも見られるが、国によってレベルは異なっている。

 子育て期の男女の役割差を可視化してみよう。横軸に仕事の時間、縦軸に家事・家族ケアの時間をとった座標上に、主要国の男女のドットを配置し、線でつないだグラフをつくってみた。<図2>を見て欲しい。



 勤務時間が長い男性が右下、家事時間が長い女性が左上にあるのは、どの国も同じだ。しかし、男女間の距離(乖離)は国によって異なる。各国の男女の役割差は線分の長さで示され、日本(図表の赤い線)が最も長い。主要国だけでなく、33カ国全体で見てもそうだ。スウェーデン(青い線)は、男女の役割差が小さい。

【参考記事】日本人の知的好奇心は20歳ですでに老いている

 現在日本では、女性の社会進出がさかんに奨励されている。しかしそのためには男性の家庭進出が必要であることがわかる。男女双方の取り組みによってドットが均等線(仕事=家事・育児)付近に収束することが理想だ。それが「ワーク・ライフ・バランス」の実現につながる。現状ではスウェーデンがその状態に最も近く、日本が最も遠い。

 男女の家事分担率から見れば、日本は世界でも極めて特異な社会だ。その現実を直視することが、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた第一歩となるだろう。

<資料:ISSP「Family and Changing Gender Roles IV」(2012年)>

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舞田敏彦(武蔵野大学講師)

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