予備選最大のヤマ場「スーパーチューズデー」の結果、民主党はヒラリー・クリントン候補が勝利へ向けて大きく歩を進めた。ヒラリーの勝利演説は、本選を意識した威風堂々としたもので、すでに選挙戦のターゲットを「対共和党」に向けてきている。
一方で、対する共和党は混迷の中にある。いや「崩壊の危機」と言ってもいい。
ドナルド・トランプ候補が多くの州で勝利したということが問題なのではない。この時点では、2位以下の候補も代議員数を獲得できるので、代議員数ではまだ他の候補も追撃可能だし、そもそも今回の「トランプの勝ち方」は政界やメディアの関係者にとっては「想定内」の範囲だったからだ。
問題は、他の候補の動向だ。
まず、テッド・クルーズ候補だが、地元テキサスでは「仮に負けたら撤退」と言われていたが、フタを開けてみれば圧勝だった。しかも隣のオクラホマでも勝っていて、これで緒戦のアイオワを入れると3州で1位になった。この結果を受けてクルーズは、テキサスでの勝利集会で「反トランプ連合の結集軸は自分しかあり得ない」と胸を張った。
【参考記事】「トランプ降ろし」の仰天秘策も吹き飛ぶ、ルビオとクルーズのつばぜりあい
一方で、保守本流の期待を受けていたマルコ・ルビオ候補は、善戦が予想されていたバージニアで勝てず、マサチューセッツでも票が伸びずに3位に終わった。では「ボロ負け」かというと、決してそうではなく、「穏健保守の票が中道派のケーシック候補に流れた」ための後退だという立派な説明がついている。さらにミネソタでは1位になり、これで「本命のくせに、まだ1州も勝っていない」という批判も免れることになった。
つまり、両候補とも「トランプ追撃に必要な勢いは得られてないが、かといって撤退するような状況にもない」。
さらにオハイオ州知事のケーシックは、3月15日の地元オハイオの予備選までは歯を食いしばっても選挙戦を続けると見られていたが、今回のマサチューセッツ(2位)などでの善戦を受けて、「4位なりの勢い」をつけている。
以上のように、「反トランプ連合」が結集できる見通しは、スーパーチューズデー終了時点では見えてきていない。スーパーチューズデーが「以降実施の予備選では勝者総取り(代議員数)」になる前の最後の段階で「候補を絞り込む」のが目的であるなら、共和党はその「絞り込み」には完全に失敗した。
このままでは、共和党内に「全国レベルでは反トランプが53%(Fox News)」いるにもかかわらず、共和党はトランプの対抗馬を一本化できないまま、共和党は今後「勝者総取り」でトランプが代議員数をどんどん上乗せしていくのを「指をくわえて見ている」しかない。
共和党指導部の中では、7月の党大会の時点で、トランプ候補を「1位だが代議員数の過半数は取れていない」状態に持っていき、党大会の場で代議員の談合によって「保守本流候補」にスイッチする作戦が囁かれていた。だがこのままでは、このシナリオは成立せず、トランプが予備選で「代議員の過半数」を取ってしまう可能性が見えてきた。
【参考記事】トランプは今や共和党支持者の大半を支配し操っている
ワシントン政界では、「共和党の統一候補はトランプにジャックされた」ため、それとは別に「保守本流の大統領候補を無所属で立てる」という作戦すら検討されているという。ただその場合、南部の一部の州では「万単位の署名」を集めないと選管が候補を受け付けないそうで、そのためには「時間がない」という疑念の声もある。
まさに共和党にとって「存亡の危機」だが、それは単純にトランプが嫌だとか、トランプではヒラリーに勝てないからという理由ではない。トランプの主張は「排外、政治的正しさへの反抗」といった「表層」をはがしてしまえば、その中身は、「小さな政府ではなく必要な福祉施策は行う」「自由貿易より国内雇用」「世界の警察官でなく仲介役」といった政策から成り立ち、妊娠中絶に理解を示すなど宗教保守派とも一線を画している。
つまり、共和党の中核イデオロギーと真っ向から対立しているわけで、このまま「トランプを大統領候補として担いだ」格好では、上下両院、あるいは州知事の選挙は戦えなくなってしまう。
党大会の場で「談合」して「トランプ外し」をしようとか、「保守本流の無所属候補」を擁立するというと、まるで陰謀渦巻くテレビドラマのようだ。だが、実はアメリカの長い歴史を見てみると、ポピュリズムと連邦政府の衝突というのは何度も経験している事態でもある。
このまま保守本流が引き下がるとは思えない。共和党は「崩壊の危機」に瀕しているが、同時にトランプを「外し」てこの危機を乗り越えるために、驚くべきドラマを演出する可能性は残されている。
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>
≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)
一方で、対する共和党は混迷の中にある。いや「崩壊の危機」と言ってもいい。
ドナルド・トランプ候補が多くの州で勝利したということが問題なのではない。この時点では、2位以下の候補も代議員数を獲得できるので、代議員数ではまだ他の候補も追撃可能だし、そもそも今回の「トランプの勝ち方」は政界やメディアの関係者にとっては「想定内」の範囲だったからだ。
問題は、他の候補の動向だ。
まず、テッド・クルーズ候補だが、地元テキサスでは「仮に負けたら撤退」と言われていたが、フタを開けてみれば圧勝だった。しかも隣のオクラホマでも勝っていて、これで緒戦のアイオワを入れると3州で1位になった。この結果を受けてクルーズは、テキサスでの勝利集会で「反トランプ連合の結集軸は自分しかあり得ない」と胸を張った。
【参考記事】「トランプ降ろし」の仰天秘策も吹き飛ぶ、ルビオとクルーズのつばぜりあい
一方で、保守本流の期待を受けていたマルコ・ルビオ候補は、善戦が予想されていたバージニアで勝てず、マサチューセッツでも票が伸びずに3位に終わった。では「ボロ負け」かというと、決してそうではなく、「穏健保守の票が中道派のケーシック候補に流れた」ための後退だという立派な説明がついている。さらにミネソタでは1位になり、これで「本命のくせに、まだ1州も勝っていない」という批判も免れることになった。
つまり、両候補とも「トランプ追撃に必要な勢いは得られてないが、かといって撤退するような状況にもない」。
さらにオハイオ州知事のケーシックは、3月15日の地元オハイオの予備選までは歯を食いしばっても選挙戦を続けると見られていたが、今回のマサチューセッツ(2位)などでの善戦を受けて、「4位なりの勢い」をつけている。
以上のように、「反トランプ連合」が結集できる見通しは、スーパーチューズデー終了時点では見えてきていない。スーパーチューズデーが「以降実施の予備選では勝者総取り(代議員数)」になる前の最後の段階で「候補を絞り込む」のが目的であるなら、共和党はその「絞り込み」には完全に失敗した。
このままでは、共和党内に「全国レベルでは反トランプが53%(Fox News)」いるにもかかわらず、共和党はトランプの対抗馬を一本化できないまま、共和党は今後「勝者総取り」でトランプが代議員数をどんどん上乗せしていくのを「指をくわえて見ている」しかない。
共和党指導部の中では、7月の党大会の時点で、トランプ候補を「1位だが代議員数の過半数は取れていない」状態に持っていき、党大会の場で代議員の談合によって「保守本流候補」にスイッチする作戦が囁かれていた。だがこのままでは、このシナリオは成立せず、トランプが予備選で「代議員の過半数」を取ってしまう可能性が見えてきた。
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ワシントン政界では、「共和党の統一候補はトランプにジャックされた」ため、それとは別に「保守本流の大統領候補を無所属で立てる」という作戦すら検討されているという。ただその場合、南部の一部の州では「万単位の署名」を集めないと選管が候補を受け付けないそうで、そのためには「時間がない」という疑念の声もある。
まさに共和党にとって「存亡の危機」だが、それは単純にトランプが嫌だとか、トランプではヒラリーに勝てないからという理由ではない。トランプの主張は「排外、政治的正しさへの反抗」といった「表層」をはがしてしまえば、その中身は、「小さな政府ではなく必要な福祉施策は行う」「自由貿易より国内雇用」「世界の警察官でなく仲介役」といった政策から成り立ち、妊娠中絶に理解を示すなど宗教保守派とも一線を画している。
つまり、共和党の中核イデオロギーと真っ向から対立しているわけで、このまま「トランプを大統領候補として担いだ」格好では、上下両院、あるいは州知事の選挙は戦えなくなってしまう。
党大会の場で「談合」して「トランプ外し」をしようとか、「保守本流の無所属候補」を擁立するというと、まるで陰謀渦巻くテレビドラマのようだ。だが、実はアメリカの長い歴史を見てみると、ポピュリズムと連邦政府の衝突というのは何度も経験している事態でもある。
このまま保守本流が引き下がるとは思えない。共和党は「崩壊の危機」に瀕しているが、同時にトランプを「外し」てこの危機を乗り越えるために、驚くべきドラマを演出する可能性は残されている。
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≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)