3月1日の「スーパーチューズデー」で、マサチューセッツ州の民主党予備選は激しい接戦になった。
直前の世論調査ではヒラリー・クリントンのほうがバーニー・サンダースよりも有利と出ていたが、近年、世論調査の数字はあまり信用できなくなってきている。世論調査のほとんどは自宅へかける電話調査だが、それに応じられるのは、専業主婦か引退した高齢者くらいだ。現代のアメリカの若者は、スマートフォンだけしか持たず、自宅に電話がない。だから、伝統的な調査方法には若者の意見がほとんど反映されていない。一方で、調査対象を抽出しないネットの世論調査があてにならないのは言うまでもない。
選挙予測の専門家たちは、こうした時代の変化に対応し、近年ではフェイスブックやツイッターを分析している。フェイスブックの「いいね!」の数では、マサチューセッツ州では圧倒的にサンダースが有利だった。
それだけでなく、マサチューセッツはサンダースに有利な条件が揃っていた。先月の予備選でサンダースがヒラリーに20 ポイントの差をつけて圧勝したニューハンプシャー州やバーモント州に隣接し、ほぼ「地元」と言えること。そして、米世論調査企業ギャラップ社によると、マサチューセッツはサンダースの地元バーモントの上を行く、「全米でもっともリベラルな州」である 。ハーバー大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)を筆頭に有名大学が多く、サンダースの支持基盤である大学生の活動が盛んだ。
サンダース陣営は勝利を確信していたし、ヒラリー陣営も選挙当日に「マサチューセッツで勝つことは期待していない」とメディアに答えていたくらいだ。ところが、90%以上開票されても「当確」が出ない接戦になり、結果的に50.1%対48.7%という僅差でヒラリーが勝利した。
なぜサンダースは、マサチューセッツ州でヒラリーに勝てなかったのか?
【参考記事】トランプ勝利で深まる、共和党「崩壊の危機」
今回の選挙結果の詳細 を、オバマとヒラリーが激しく争った2008年の予備選の選挙結果を比較してみると、あることに気付く。2008年にオバマを選んだボストンとその近郊が、今回はヒラリーを支持していたのだ。8年前にヒラリー支持だった地域はサンダース支持に、オバマ支持だった地域はヒラリー支持にシフトしている。これは、今回の予備選で有権者の選択が変化したことを示している。
目を引くのは、リベラルなマサチューセッツの中でも、特に「リベラル」として知られているケンブリッジ市とレキシントン町だ。2008年の予備選では、州全体ではヒラリーが勝っているのだが、この2つの地域では、「若き改革者」のオバマを選んでいた 。ところが、今回はサンダースではなくヒラリーを選んでいる。しかも、レキシントン町では37ポイントもの大差が付いている。
ケンブリッジ市は、ハーバードやMITのキャンパスがある世界的に有名な学術都市だ。住民には、学生や学者が多い。そして、ケンブリッジに住んでいたリベラルな学者たちが自然を求めて1960代以降に移住したのがレキシントン町だ。レキシントン町の住民には、言語学者ノーム・チョムスキー、ノーベル平和賞受賞者のヘンリー・エイブラハム、ウェブの発明者であるティム・バーナーズ=リーなどの知識人が多く、住民の多様性と教育を重視する点で、2つの地域には多くの共通点がある。思想的にはサンダースに近い住民が多いはずだ。
予備選の前に、ボストン周辺の住民に話を聞いた。
サンダースの支持者は、いずれも非常に情熱的だ。そして、その興奮を他の人と分かち合いたい、という気持ちが強い。
ある60代の女性は、サンダースのラリーにでかけ、すっかりファンになってしまったという。個人事業の経営者だった彼女は、現在は無職で、大邸宅を売り、生活を以前より切り詰めているらしい。子どもの学費ローンもまだ残っているようだ。
「オバマケアには救われたけれど、それではまだ足りない。バーニー(サンダース)は、すべての人が医療を受けられるようにしてくれるだろう」と熱心に語った。「大学に行きたくても、お金がなくて行けない子はいっぱいいる。その子たちのために無料で行ける公立大学を作るべき」という彼女の意見も、若いサンダース支持者の意見と一致する。
2008年には「オバマではなく、ヒラリーが大統領になるべき!」と強く語っていたある害虫処理業者の男性は、今回は「ウォール街の連中が金を独占するのは許せない」とサンダース支援に乗り換えた。彼のように収入格差に不満を持つ労働者の人々は、前回は「庶民の味方」であるヒラリーに投票したが、今回はサンダースの支持にまわっている。彼らの選択の基準が、「自分の生活を良くしてくれそうな人」だからだ。
若いサンダース支持者はもっと理想的だ。バーニーは、アメリカ社会を根こそぎ変える革命を起こしてくれると信じている。以前も別の記事 で書いたが、サンダースに過剰な肩入れをする傾向があり、「ヒラリーは嘘つき」「ウォール街で演説して金を受け取っている」といったヒラリーへの個人攻撃や中傷も出てくる。
【参考記事】サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング
だが、ヒラリーの支持者からは、老若男女ふくめてサンダース個人への中傷や非難はない。ほとんどが「サンダースも好きだ」という。そこがまず大きな違いだ。
共和党候補を含めて、全員のイベントに参加して比べたという社会人の若者2人も、サンダースは好きだと言っていた。しかし「現実を最も良く理解し、具体的な対策を持っているのはヒラリーだという結論に達した」と話していた。
民主党のイベントでヒラリーの娘チェルシーにサインをもらう若者たち(筆者撮影)
あるIT企業のCEOで40代後半の男性は、「バーニーは好きだし、彼が実現したい北欧のような社会保障は素晴らしいと思う。しかし、そのためには北欧なみに税金を上げる必要がある。でも、それはアメリカという国や国民性にはあっていないと思う。良くも悪くも、アメリカはこういう国だからこそ、起業家が生まれ、アップルやフェイスブックが生まれるのだから」と説明して、バーニーよりヒラリーのほうが国にとって良い選択ではないか、と話していた。
ボストン近郊の民主党支持層の投票動向は全米の有権者の指標になる(筆者撮影)
ヒラリーのタウンホールミーティングに参加した40代の男性は、「大統領は、やりたい仕事だけやればいい職業ではない。反戦運動家であっても、泥沼化したイラク戦争の後始末をしなければならないし、内政から外交まで初日から全力疾走しなければならない。それができる経験と能力があるのは、候補者の中ではヒラリーだけ。ヒラリーと同じ経歴を持つ人が男性なら、(「メール疑惑」などについて)あれほど執拗な攻撃をするだろうか? 平然と嘘をつく男性政治家を許しているくせに、ヒラリーだけを細かく非難するとしたら、性差別者だといわれても仕方がないね」と、メディアやバーニーの支持者たちに批判的だった。
アイビーリーグの大学を卒業したばかりの若い女性の何人かは、「ヒラリーに投票するつもりだけれど、友人たちには話さない。とくに男性には」と打ち明けた。「バーニーの応援をしない奴は認識が足りない、と説教されてめんどうだから」と言う。彼女たちがヒラリーを選ぶ理由が面白い。「私たちが大学院に進学したり、就職したりするときには、これまでの成績、研究の成果、インターンの経験で実力を見せつけなければならない。『できる』という口約束だけで進学や就職はできない。アメリカの大統領は、さらに経験と技能を要する仕事で、履歴書ならヒラリーが適任なのは明らか。それなのに、なぜみんな口約束の人を選ぶのか?」と憤慨する。
先に登場したサンダース支持の60代の女性は、ヒラリーがファーストレディ時代に国民皆保険制度の導入を試みて共和党から徹底的に叩かれて潰された事実をまったく知らなかった。けれども、それが起こった頃に生まれた彼女たちは、ヒラリーの経歴の一部としてそれをちゃんと知っている。ヒラリーの支持者に共通するのは、大統領選挙を「大統領という職業の面接」と捉え、他の候補の政策と比較したうえで、「誰が適任か?」「もし共和党がホワイトハウスまで占領したら、アメリカや世界はどうなるのか?」考えて判断しているところだ。
先にご紹介したMITの言語学教授で思想家でもあるノーム・チョムスキーは、アメリカの国家資本主義に批判的な左寄りのリベラルで、「世界の良心」として日本でも知名度が高い。もちろん、現在の大統領候補の中では、サンダースに最も好意的だ。アラビア語の国際ニュース局アルジャジーラの取材でもそう答えている。だが、チョムスキーは「今の政治システムでは(サンダースが)選挙に勝つ見込みはほとんどない」と考えており、共和党と民主党の力が拮抗する州の住民は、共和党候補が大統領になるのを阻止するために、たとえ好きでなくても無投票ではなくヒラリーに投票するべきだと公言する。
「2008年の大統領選挙のときも、私はオバマが嫌いだったけれど、同じことを言った」とチョムスキーは言い、「あなたが11月にオハイオ州にいたらヒラリーに投票しますか?」というアルジャジーラの記者の問いに、「もちろん」と強く答えている。チョムスキーのヒラリー票は消極的だが、「候補の好き嫌いではなく、アメリカの大統領が世界に与える影響を考えて票を投じるべきだ」という考え方はリベラルなエリートに共通するところだ。
民主党の根強い支持層には、二つの異なるグループがある。
一つは、低学歴、低所得の労働者で、もうひとつは、高学歴、高所得のホワイトカラーだ。前者は「自分の味方になってくれそうな人」をリーダーに選び、後者は「国や世界のリーダーとして、地球温暖化や外交でまっとうな決断ができそうな人」を選ぶ。前者にとって好き嫌いの感情は重要だが、後者にとっては掲げる政策と実務能力の方が重要だ。
ボストンと近郊の裕福な町に暮らすリベラルのエリートには後者が多い。それがニューハンプシャーのサンダースの圧勝と、マサチューセッツのヒラリー辛勝という結果の違いを生み出している。
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>
≪筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」≫
渡辺由佳里(エッセイスト)
直前の世論調査ではヒラリー・クリントンのほうがバーニー・サンダースよりも有利と出ていたが、近年、世論調査の数字はあまり信用できなくなってきている。世論調査のほとんどは自宅へかける電話調査だが、それに応じられるのは、専業主婦か引退した高齢者くらいだ。現代のアメリカの若者は、スマートフォンだけしか持たず、自宅に電話がない。だから、伝統的な調査方法には若者の意見がほとんど反映されていない。一方で、調査対象を抽出しないネットの世論調査があてにならないのは言うまでもない。
選挙予測の専門家たちは、こうした時代の変化に対応し、近年ではフェイスブックやツイッターを分析している。フェイスブックの「いいね!」の数では、マサチューセッツ州では圧倒的にサンダースが有利だった。
それだけでなく、マサチューセッツはサンダースに有利な条件が揃っていた。先月の予備選でサンダースがヒラリーに20 ポイントの差をつけて圧勝したニューハンプシャー州やバーモント州に隣接し、ほぼ「地元」と言えること。そして、米世論調査企業ギャラップ社によると、マサチューセッツはサンダースの地元バーモントの上を行く、「全米でもっともリベラルな州」である 。ハーバー大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)を筆頭に有名大学が多く、サンダースの支持基盤である大学生の活動が盛んだ。
サンダース陣営は勝利を確信していたし、ヒラリー陣営も選挙当日に「マサチューセッツで勝つことは期待していない」とメディアに答えていたくらいだ。ところが、90%以上開票されても「当確」が出ない接戦になり、結果的に50.1%対48.7%という僅差でヒラリーが勝利した。
なぜサンダースは、マサチューセッツ州でヒラリーに勝てなかったのか?
【参考記事】トランプ勝利で深まる、共和党「崩壊の危機」
今回の選挙結果の詳細 を、オバマとヒラリーが激しく争った2008年の予備選の選挙結果を比較してみると、あることに気付く。2008年にオバマを選んだボストンとその近郊が、今回はヒラリーを支持していたのだ。8年前にヒラリー支持だった地域はサンダース支持に、オバマ支持だった地域はヒラリー支持にシフトしている。これは、今回の予備選で有権者の選択が変化したことを示している。
目を引くのは、リベラルなマサチューセッツの中でも、特に「リベラル」として知られているケンブリッジ市とレキシントン町だ。2008年の予備選では、州全体ではヒラリーが勝っているのだが、この2つの地域では、「若き改革者」のオバマを選んでいた 。ところが、今回はサンダースではなくヒラリーを選んでいる。しかも、レキシントン町では37ポイントもの大差が付いている。
ケンブリッジ市は、ハーバードやMITのキャンパスがある世界的に有名な学術都市だ。住民には、学生や学者が多い。そして、ケンブリッジに住んでいたリベラルな学者たちが自然を求めて1960代以降に移住したのがレキシントン町だ。レキシントン町の住民には、言語学者ノーム・チョムスキー、ノーベル平和賞受賞者のヘンリー・エイブラハム、ウェブの発明者であるティム・バーナーズ=リーなどの知識人が多く、住民の多様性と教育を重視する点で、2つの地域には多くの共通点がある。思想的にはサンダースに近い住民が多いはずだ。
予備選の前に、ボストン周辺の住民に話を聞いた。
サンダースの支持者は、いずれも非常に情熱的だ。そして、その興奮を他の人と分かち合いたい、という気持ちが強い。
ある60代の女性は、サンダースのラリーにでかけ、すっかりファンになってしまったという。個人事業の経営者だった彼女は、現在は無職で、大邸宅を売り、生活を以前より切り詰めているらしい。子どもの学費ローンもまだ残っているようだ。
「オバマケアには救われたけれど、それではまだ足りない。バーニー(サンダース)は、すべての人が医療を受けられるようにしてくれるだろう」と熱心に語った。「大学に行きたくても、お金がなくて行けない子はいっぱいいる。その子たちのために無料で行ける公立大学を作るべき」という彼女の意見も、若いサンダース支持者の意見と一致する。
2008年には「オバマではなく、ヒラリーが大統領になるべき!」と強く語っていたある害虫処理業者の男性は、今回は「ウォール街の連中が金を独占するのは許せない」とサンダース支援に乗り換えた。彼のように収入格差に不満を持つ労働者の人々は、前回は「庶民の味方」であるヒラリーに投票したが、今回はサンダースの支持にまわっている。彼らの選択の基準が、「自分の生活を良くしてくれそうな人」だからだ。
若いサンダース支持者はもっと理想的だ。バーニーは、アメリカ社会を根こそぎ変える革命を起こしてくれると信じている。以前も別の記事 で書いたが、サンダースに過剰な肩入れをする傾向があり、「ヒラリーは嘘つき」「ウォール街で演説して金を受け取っている」といったヒラリーへの個人攻撃や中傷も出てくる。
【参考記事】サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング
だが、ヒラリーの支持者からは、老若男女ふくめてサンダース個人への中傷や非難はない。ほとんどが「サンダースも好きだ」という。そこがまず大きな違いだ。
共和党候補を含めて、全員のイベントに参加して比べたという社会人の若者2人も、サンダースは好きだと言っていた。しかし「現実を最も良く理解し、具体的な対策を持っているのはヒラリーだという結論に達した」と話していた。
民主党のイベントでヒラリーの娘チェルシーにサインをもらう若者たち(筆者撮影)
あるIT企業のCEOで40代後半の男性は、「バーニーは好きだし、彼が実現したい北欧のような社会保障は素晴らしいと思う。しかし、そのためには北欧なみに税金を上げる必要がある。でも、それはアメリカという国や国民性にはあっていないと思う。良くも悪くも、アメリカはこういう国だからこそ、起業家が生まれ、アップルやフェイスブックが生まれるのだから」と説明して、バーニーよりヒラリーのほうが国にとって良い選択ではないか、と話していた。
ボストン近郊の民主党支持層の投票動向は全米の有権者の指標になる(筆者撮影)
ヒラリーのタウンホールミーティングに参加した40代の男性は、「大統領は、やりたい仕事だけやればいい職業ではない。反戦運動家であっても、泥沼化したイラク戦争の後始末をしなければならないし、内政から外交まで初日から全力疾走しなければならない。それができる経験と能力があるのは、候補者の中ではヒラリーだけ。ヒラリーと同じ経歴を持つ人が男性なら、(「メール疑惑」などについて)あれほど執拗な攻撃をするだろうか? 平然と嘘をつく男性政治家を許しているくせに、ヒラリーだけを細かく非難するとしたら、性差別者だといわれても仕方がないね」と、メディアやバーニーの支持者たちに批判的だった。
アイビーリーグの大学を卒業したばかりの若い女性の何人かは、「ヒラリーに投票するつもりだけれど、友人たちには話さない。とくに男性には」と打ち明けた。「バーニーの応援をしない奴は認識が足りない、と説教されてめんどうだから」と言う。彼女たちがヒラリーを選ぶ理由が面白い。「私たちが大学院に進学したり、就職したりするときには、これまでの成績、研究の成果、インターンの経験で実力を見せつけなければならない。『できる』という口約束だけで進学や就職はできない。アメリカの大統領は、さらに経験と技能を要する仕事で、履歴書ならヒラリーが適任なのは明らか。それなのに、なぜみんな口約束の人を選ぶのか?」と憤慨する。
先に登場したサンダース支持の60代の女性は、ヒラリーがファーストレディ時代に国民皆保険制度の導入を試みて共和党から徹底的に叩かれて潰された事実をまったく知らなかった。けれども、それが起こった頃に生まれた彼女たちは、ヒラリーの経歴の一部としてそれをちゃんと知っている。ヒラリーの支持者に共通するのは、大統領選挙を「大統領という職業の面接」と捉え、他の候補の政策と比較したうえで、「誰が適任か?」「もし共和党がホワイトハウスまで占領したら、アメリカや世界はどうなるのか?」考えて判断しているところだ。
先にご紹介したMITの言語学教授で思想家でもあるノーム・チョムスキーは、アメリカの国家資本主義に批判的な左寄りのリベラルで、「世界の良心」として日本でも知名度が高い。もちろん、現在の大統領候補の中では、サンダースに最も好意的だ。アラビア語の国際ニュース局アルジャジーラの取材でもそう答えている。だが、チョムスキーは「今の政治システムでは(サンダースが)選挙に勝つ見込みはほとんどない」と考えており、共和党と民主党の力が拮抗する州の住民は、共和党候補が大統領になるのを阻止するために、たとえ好きでなくても無投票ではなくヒラリーに投票するべきだと公言する。
「2008年の大統領選挙のときも、私はオバマが嫌いだったけれど、同じことを言った」とチョムスキーは言い、「あなたが11月にオハイオ州にいたらヒラリーに投票しますか?」というアルジャジーラの記者の問いに、「もちろん」と強く答えている。チョムスキーのヒラリー票は消極的だが、「候補の好き嫌いではなく、アメリカの大統領が世界に与える影響を考えて票を投じるべきだ」という考え方はリベラルなエリートに共通するところだ。
民主党の根強い支持層には、二つの異なるグループがある。
一つは、低学歴、低所得の労働者で、もうひとつは、高学歴、高所得のホワイトカラーだ。前者は「自分の味方になってくれそうな人」をリーダーに選び、後者は「国や世界のリーダーとして、地球温暖化や外交でまっとうな決断ができそうな人」を選ぶ。前者にとって好き嫌いの感情は重要だが、後者にとっては掲げる政策と実務能力の方が重要だ。
ボストンと近郊の裕福な町に暮らすリベラルのエリートには後者が多い。それがニューハンプシャーのサンダースの圧勝と、マサチューセッツのヒラリー辛勝という結果の違いを生み出している。
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>
≪筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」≫
渡辺由佳里(エッセイスト)