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台湾問題で習近平が激しい警告――全人代の上海市代表団分科会で

ニューズウィーク日本版 2016年3月8日 16時39分

 3月5日午後、全人代全体会議のあとに習近平国家主席は上海代表団の分科会に参加し、台湾問題に関して厳しい講話を行なった。中央テレビ局CCTVが大きく扱い、台湾のきたるべき蔡英文政権に対して警鐘を鳴らした。

上海市代表団審議会で警鐘

 全人代(全国人民代表大会)が開幕した3月5日、午前中は李克強首相の政府活動報告に全ての時間を使ったが、午後は、中国全土の省・自治区および直轄市という行政区分に分けた分科会の代表団が政府活動報告の審議に入る。

 習近平国家主席は上海市代表団の分科会に参加し、講演を行なった。

 その中で注目されたのは台湾問題に関する発言である。

 おおむね以下のような講話内容だ(講和の中に出てくる「九二コンセンサス」とは、「一つの中国を互いに認め合うという、一九九二年に中台間で交わされた共通認識」のことである。台湾が独立しないことを意味する。両岸は中台の意味)。


 台湾に対する大政方針は明らかで、一貫している。台湾の政局に変化があったからと言って変わることは絶対にない。われわれは「九二コンセンサス」を政治の基礎として、継続的に両岸関係の平和的な発展を推進する。そのために「九二コンセンサス」という線引きを我慢強く堅持していくことが肝心だ。「九二コンセンサス」の歴史的事実を承認し、その核心的含意に対する共通認識を持ちさえすれば、両岸双方は政治的基礎を共有し良性の訴いうご作用を保つことができる。今後も引き続き両岸の交流協力を推進し、両岸経済の融合発展を深め、同胞肉親としての福祉を増進させ、同胞としての心の距離を縮め、運命共同体としての認識を強めることができる。


 我々は、いかなる形における「台独(台湾独立)」に向かう分裂行動に対しても断固として抑え込み、国家主権と領土保全を守り抜き、国家分裂という歴史的悲劇を絶対に再演させない。これは中華民族の共同の願いであり確固たる意志だ。歴史と人民に対する厳正なる認識と責任でもある。


 両岸環形と平和的発展の成果は、両岸同胞がともに維持していかなければならず、美しい未来を切り開いていくには両岸の同胞の共同の努力が必要であり、中華民族の偉大なる復興は、両岸同胞が手を携え、心を一つにしてこそ実現されるものである。

 これは明らかに今年5月からスタートする、独立傾向の強い蔡英文・民進党政権に対する強烈なシグナルである。

 言葉は美しいかもしれないが、もし独立へと動く言動を示せば、直ちに「国家分裂法」が火を噴くぞ、という強烈な警告である。

 昨年9月3日に行われた軍事パレードも、昨年末から今年初めに実施された、中国建国以来の軍事大改革の目的の一つも、ここにある。

 これに対し、CCTVでは大陸側の絶賛を伝えるとともに、台湾の国民党議員や民進党の若者の声も伝えた。民進党の若者は、蔡英文・次期総統が「九二コンセンサス」に対して「明確な意思表示をしていない」などと、大陸側が言わせたい声を伝えた。

新五カ年計画に中台結ぶ高速鉄道

 3月5日午前の政府活動報告で李克強首相が新五カ年計画(2016年~2020年)を発表したあと、その詳細に関して多くの情報が出ている。

 その中の一つに中国と台湾を結ぶ「中台高速鉄道建設」計画がある。

 8万字から成る新五カ年計画なので、筆者も実物の全文に全て目を通しているわけではないが、たとえば「中華論壇」やその他多くのウェブサイトなどが「京台(北京‐台北)鉄道」計画が新五か年計画に記入されたと報じている。

 もともと福建省福州と台湾の台北をつなぐ高速鉄道に関しては、馬英九氏が総統に当選した2008年から提案され、「九二コンセンサス」の象徴として中台間で話し合われてきた。

 台湾人の抵抗勢力の抗議に遭い、なかなか実現されないままになっていたが、新五カ年計画の一環として正式に書きこまれたとなれば、実現に向かって一歩、踏み込んだことになる。

 海底トンネルにするのか橋を架けるのかは、まだ不明だが、中台鉄道は「北京-台北」を結ぶ鉄道として位置づけられているので、これはまさに「中台統一」を鉄道から実現させようという計画だということになろう。

 台湾では「大陸の勝手にはさせない」と厳しい反発の声が広がっており、特に習近平国家主席の上海代表団分科会における講話と絡めて「両岸統一を加速させようとするシグナルだ」として抗議運動が起きている。

二つの百年

 習近平政権には「二つの百年」という、壮大な計画がある。

 2020年と2050年が、その二つで、2021年が中国共産党建党100年であることから、キリのいいところで2020年を最初の「百年」にした。これは習近平政権期間内である。

 したがって新五カ年計画は、習近平政権が「一つ目の百年」を輝かしく飾るエポック・メイキングな年とならなければならないはずだ。

 しかし台湾にはまもなく民進党政権が誕生する。それにより、習近平が描く「中国の夢」の一つは、まず台湾問題で挫折しそうだ。

 それを食い止めるために行なったのが上海市代表団分科会における習近平講話とみなすことができる。こういったことは、これまでに見られない異例の現象なので、習近平の心の焦りをうかがい知ることができる。

 ちなみに、もう一つの百年は中国建国100周年記念である2049年を、キリのいいところで切った「2050年」である。2050年までは生きていないだろうから、習近平国家主席としては2020年の一つ目の百年に全てを賭けている。

 習近平政権の焦りは、ここにも表れていると言えよう。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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