君たちは、アメリカを代表する産業資本家であり、ウォール街の大立者であり、億万長者だ。何十年もの間、共和党の屋台骨を支えてきた。
君たちは、自分の莫大な財産をGOP(共和党の愛称。Grand Old Partyの略)に注ぎ込んだ。目的は、節税と補助金。規制緩和と知的所有権の保護。市場シェアを上げて製品を値上げすること。労組を骨抜きにして移民を低賃金で働かせること。住宅購入者や学生債務者には容赦なく自己責任を追及しながらも、自分の会社が破綻したときには公的資金で助けてもらうこと。そして、自分たちのインサイダー取引を見逃してくれる裁判官を任命することだ。
君たちはあらゆる手を尽くして途方もない富を築いた。おめでとう。
だが今日は、君たちに残念な知らせがある。君たちはいま大きな代償を払わされている。今後、その負担はいや増すばかりだろう。
第一に、いま君たちの会社の大半は、リーマンショックに端を発した「グレート・リセッション(大不況)」前のような急成長はしていない。売り上げも伸び悩んでいるし、株価も弱含みだ。
それは君たちが、自分の会社で働く従業員が消費者でもあるということを忘れたせいだ。君たちが賃金カットで消費者のお金を搾り取ってしまったので、君たちが売りたい商品を買う余裕がなくなってしまったのだ。
個人消費はアメリカ経済の70パーセントを占めている。だが、実質購買力で見ると、標準的な家計の収入は2000年より減っている。
利益の大半は、君と君の同類の懐に入った。荒稼ぎをする一方で、そのほんの一部しか使わない君たちの下へ。これが経済、そして君たちにとって、大きな災いをもたらすことになる。
君たちは低金利で借りた金で自社株を買い戻し、人為的に株価を吊り上げてきた。しかし、こんな無理はいつまでも通用しない。金利も上がりはじめている。
第二に、君たちは過去30年間、法人税や所得税を大幅に下げさせ、一方でより多くの補助金と救済資金を要求してきた。そのせいで政府は借金まみれだ。
君たちとその事業が政府に依存している多くの事、例えば幹線道路や橋、トンネルなどのインフラや質の高い基礎研究、高学歴の人材供給などは賄う余裕は政府にはない。もし現在の傾向が続けば、行政の質はさらに悪化するだろう。
最後に、君たちは経済を操作して自分だけが儲けたため、かつてない規模の政治的反感を買ってしまった。人々は今、貿易や移民、グローバリゼーションに対して反感を持ち、そして共和党エスタブリッシュメント(保守本流)に怒りを感じている。
これまで以上に必死に働いているのに成果が得られず、深刻な経済的不安を抱える数百万人のアメリカ人たちの、抑圧された怒りとフラストレーションがついに噴出した。アメリカの政治は、不満と罵声がうずまく汚水タンクと化してしまった。
とりわけ共和党の政治家たちは、偏見や憎悪、そしてウソの汚泥に首まで浸かっている。彼らはアメリカを、人種と民族、宗教によって分断しようとしている。民主主義と良識の範として、かつてアメリカが世界に誇った道徳的権威が危険にさらされている。それは、君たちの会社にとっても決して好ましいことではない。
君たちが生み出す不確実性もまたしかりだ。怒りに基づく政治は、いつ何どき、どんな方向に向くかわからない。企業経営者としての君たちは本来、政治の安定性と予見可能性を何より求める立場であるにもかかわらず、だ。
おわかりだろうか? 君たちは、自ら仕掛けた罠にはまったのだ。君たちが目先の利益を得るために共和党に注ぎ込んだ金は無駄になろうとしている。
急成長する経済からの自分の取り分を少し減らして、中間所得層を大きく成長させていれば、君たちはいまよりもはるかに繁栄していただろう。
君たちのお金に毒されていない政治体制――すなわち、安定して穏健で、中間所得層のニーズに応える政治体制をつくっていれば、君たちもより良い結果を得ていたはずだ。
しかし、君たちは利己的で強欲で、目先の利益のことしか考えていなかった。
君たちは、前世代の保守本流が持っていた価値観を忘れてしまった。前世代は、世界恐慌と第二大戦がもたらした荒廃を目撃し、戦後は輝かしい中産階級の形成を助けた。
あの世代とて、寛容や社会的責任を理由に行動していたわけではなかったが、すそ野の広い繁栄こそが、彼ら自身の事業にとっても長期的に良い結果をもたらすことを正しく理解していた。
さて、君たちはどうする。政治家と取引するための資金を引き揚げ、アメリカの民主主義を回復し、所得や富、政治力で広がる格差の是正することで、現在の混乱を収拾する気になってくれただろうか?
それとも、まだ納得してもらえないだろうか?
*筆者は、カリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院教授。ビル・クリントン政権で労働長官を務めた
Robert Reich is the Chancellor's Professor of Public Policy at the University of California at Berkeley. He served as Secretary of Labor in the Clinton administration
This article first appeared on RobertReich.org.
ロバート・ライシュ(元米労働長官)