予備選中盤の大きなヤマ場となった今週15日――とりわけ共和党ではフロリダ州(代議員数99)とオハイオ州(同66)の予備選が「天王山」と言われていた。何より、共和党だけのルールだが、この両州以降、多くの州で予備選のルールが「勝者総取り」に変わるからだ。
もし両州でドナルド・トランプ候補が勝利して彼だけが「代議員数165」を確保して他はゼロということになれば、トランプの過半数獲得に向けて大きく弾みがつくことになる。そんな中で、フロリダでは地元選出のマルコ・ルビオ候補(上院議員)が1位を狙い、オハイオでは地元知事であるジョン・ケーシック候補が同じく1位を狙って、それぞれに「トランプの総取り」にストップをかけようとしていた。
その結果は、明暗が分かれた。ルビオは、トランプ候補に20%近い差を付けられて敗北、トランプに代議員数99の「総取り」を許すと共に、選挙戦の軸となるべき地元での惨敗という結果を受けて、選挙戦からの撤退を表明することになった。
一方オハイオでは、ケーシックが1位となって、代議員数66を「総取り」してトランプに「ブレーキ」をかけると同時に、「最後の保守本流候補」として以降の選挙戦に望みをつないだ。
ルビオの敗因は、前にも述べたように「トランプの挑発に乗って品性のない中傷合戦に巻き込まれた」ことだが、そのような迷走全体が「頼りなさ」として受け止められたことが大きい。これに加えて、主張そのものが迷走したことも、根本的なミスだった。
【参考記事】トランプとの「お下劣舌戦」で撃沈したルビオ
当初はジェブ・ブッシュ候補を推していた「共和党の保守本流」が、ジェブの低迷を見て急遽ルビオを「保守本流の希望」として期待を寄せた時期がある。ルビオ自身も、その時は、胸を張って「いかにも保守本流」らしい態度で演説をしていたのだが、ここへ来て地元での選挙が苦戦になると「自分はティーパーティー出身のチャレンジャー」という言い方に変わっていた。そんな態度の変節も、有権者に見放された原因だろう。
反対にケーシックは、いくら「地元の人気知事」だとは言え、「トランプ旋風」の吹き荒れる中で、この時期に1位を獲得した意義は大きい。共和党の本流の中には、このままケーシックがペンシルベニア、ニューヨーク、カリフォルニアなどをおさえていけば、1位にはならなくても「トランプの過半数阻止」を実現する重要なコマになるという期待も出てきている。
ケーシックの強みは、20代から州議会、30代から連邦下院議員を長く務め、政治の実務、とりわけ予算や通商政策に強いことだ。
例えばTPPに関しては、「国内雇用を奪う」という感情論に迎合してトランプ、ヒラリー、サンダースなどは「反対」を表明しているが、ケーシックは「21世紀のグルーバリズムの時代には国際競争は避けられない」として、「アメリカは堂々と勝負するが、ダンピングなどの不正行為は絶対に許さない」という主張を堂々と展開している。彼が胸を張って、しかも丁寧に説明すると、こうした真正面からの政策論にも有権者は耳を傾ける。
一方の民主党では、今月8日のミシガン州におけるサンダース勝利を受けて「中部でのサンダース・ドミノ現象」が起きるのではないかという観測もあった。だが15日のオハイオでは、ヒラリー・クリントン候補が安定した強さを見せて、そんな噂を払拭した。それだけでなく、フロリダ、ノースカロライナといった大票田でも1位になっており、これで過半数の代議員獲得に大きく近づいた。
【参考記事】ボストンのリベラルエリートが、サンダースを支持しない理由
ヒラリーは勝利演説の中で、これからのアメリカは「経済の安定、安全保障、国内の和解」の3点を目指すという目標を掲げて、弁舌をふるった。一時期はサンダースの勢いにおされて、政策の左シフトが見えていたヒラリーだが、この日の姿勢には、中道実務家に戻って正々堂々と戦う姿勢が見えていた。
依然として「トランプ旋風」は猛威をふるい続けているし、現政権批判の厳しい州ではサンダースの勢いは残っている。だが、この大統領選の全体が左右のポピュリズムに流されているわけではない。今月15日の結果だけを見れば、ケーシック、クリントンという実務家の政治家に対しても、強い支持が向けられていることがわかる。
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>
≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)
もし両州でドナルド・トランプ候補が勝利して彼だけが「代議員数165」を確保して他はゼロということになれば、トランプの過半数獲得に向けて大きく弾みがつくことになる。そんな中で、フロリダでは地元選出のマルコ・ルビオ候補(上院議員)が1位を狙い、オハイオでは地元知事であるジョン・ケーシック候補が同じく1位を狙って、それぞれに「トランプの総取り」にストップをかけようとしていた。
その結果は、明暗が分かれた。ルビオは、トランプ候補に20%近い差を付けられて敗北、トランプに代議員数99の「総取り」を許すと共に、選挙戦の軸となるべき地元での惨敗という結果を受けて、選挙戦からの撤退を表明することになった。
一方オハイオでは、ケーシックが1位となって、代議員数66を「総取り」してトランプに「ブレーキ」をかけると同時に、「最後の保守本流候補」として以降の選挙戦に望みをつないだ。
ルビオの敗因は、前にも述べたように「トランプの挑発に乗って品性のない中傷合戦に巻き込まれた」ことだが、そのような迷走全体が「頼りなさ」として受け止められたことが大きい。これに加えて、主張そのものが迷走したことも、根本的なミスだった。
【参考記事】トランプとの「お下劣舌戦」で撃沈したルビオ
当初はジェブ・ブッシュ候補を推していた「共和党の保守本流」が、ジェブの低迷を見て急遽ルビオを「保守本流の希望」として期待を寄せた時期がある。ルビオ自身も、その時は、胸を張って「いかにも保守本流」らしい態度で演説をしていたのだが、ここへ来て地元での選挙が苦戦になると「自分はティーパーティー出身のチャレンジャー」という言い方に変わっていた。そんな態度の変節も、有権者に見放された原因だろう。
反対にケーシックは、いくら「地元の人気知事」だとは言え、「トランプ旋風」の吹き荒れる中で、この時期に1位を獲得した意義は大きい。共和党の本流の中には、このままケーシックがペンシルベニア、ニューヨーク、カリフォルニアなどをおさえていけば、1位にはならなくても「トランプの過半数阻止」を実現する重要なコマになるという期待も出てきている。
ケーシックの強みは、20代から州議会、30代から連邦下院議員を長く務め、政治の実務、とりわけ予算や通商政策に強いことだ。
例えばTPPに関しては、「国内雇用を奪う」という感情論に迎合してトランプ、ヒラリー、サンダースなどは「反対」を表明しているが、ケーシックは「21世紀のグルーバリズムの時代には国際競争は避けられない」として、「アメリカは堂々と勝負するが、ダンピングなどの不正行為は絶対に許さない」という主張を堂々と展開している。彼が胸を張って、しかも丁寧に説明すると、こうした真正面からの政策論にも有権者は耳を傾ける。
一方の民主党では、今月8日のミシガン州におけるサンダース勝利を受けて「中部でのサンダース・ドミノ現象」が起きるのではないかという観測もあった。だが15日のオハイオでは、ヒラリー・クリントン候補が安定した強さを見せて、そんな噂を払拭した。それだけでなく、フロリダ、ノースカロライナといった大票田でも1位になっており、これで過半数の代議員獲得に大きく近づいた。
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ヒラリーは勝利演説の中で、これからのアメリカは「経済の安定、安全保障、国内の和解」の3点を目指すという目標を掲げて、弁舌をふるった。一時期はサンダースの勢いにおされて、政策の左シフトが見えていたヒラリーだが、この日の姿勢には、中道実務家に戻って正々堂々と戦う姿勢が見えていた。
依然として「トランプ旋風」は猛威をふるい続けているし、現政権批判の厳しい州ではサンダースの勢いは残っている。だが、この大統領選の全体が左右のポピュリズムに流されているわけではない。今月15日の結果だけを見れば、ケーシック、クリントンという実務家の政治家に対しても、強い支持が向けられていることがわかる。
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≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫
冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)