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【再録】生前のカダフィは「国民に愛されている」と言っていた

ニューズウィーク日本版 2016年3月24日 18時30分


ニューズウィーク日本版 創刊30周年 ウェブ特別企画
1986年に創刊した「ニューズウィーク日本版」はこれまで、政治、経済から映画、アート、スポーツまで、さまざまな人物に話を聞いてきました。このたび創刊30周年の特別企画として、過去に掲載したインタビュー記事の中から厳選した8本を再録します(貴重な取材を勝ち取った記者の回顧録もいくつか掲載)。 ※記事中の肩書はすべて当時のもの。


※このインタビューを行った記者の回顧録はこちら:【再録】念願のカダフィ単独取材、私は砂漠の町へ飛んだ

[インタビューの初出:1994年4月6日号]

 今にいたるまで、30年以上も国の最高指導者であり続けている「革命家」といえば、キューバのフィデル・カストロとこの人、ムアマル・カダフィだ。

 88年の米パンナム機爆破事件の容疑者2人を引き渡さないリビアに、国連が制裁を科してから2年後、本誌デービッド・ケリーがカダフィ大佐のインタビューに成功した(記者の回顧録はこちら)。69年の無血クーデターで実権を握って以来、国を支配するカダフィは、制裁による物資不足などで社会不安が高まっていることを否定。だが99年には容疑者を引き渡し、03年に事件の犠牲者への補償金支払いを開始した。

◇ ◇ ◇

――ビル・クリントン米大統領は先ごろ、リビアはアメリカにとって特別な脅威だと発言しているが。

 クリントン自身の言葉とは思えない。周辺の誰かの作文だろう。私はクリントンという人間を信じている。彼は若い。ベトナム反戦デモを率いたこともある。平和を愛する善人だ。だからCIA(米中央情報局)には嫌われている。

 CIAはもっと邪悪な人物を大統領にしたいのだ。私は、クリントンがケネディのような運命をたどるのではないかと心配している。彼と彼の家族のために装甲車を贈ってやりたいくらいだ。

――指導者としての25年間に大きな誤りを犯したことは?

(86年、アメリカから)わが国が攻撃を受けたとき、徹底抗戦を貫けなかったのはまずかった。攻撃されたら、あくまで反撃を続けなければならない。

――リビアが支援してきた団体のなかで、支援すべきでなかったと思う団体はあるか。

 すべてのケースが完全に正しかったとは思わない。革命家と称して近づいてきた人物が、後にテロリストになったケースはある。

 たとえば、IRA(アイルランド共和軍)だ。わが国は彼らの活動をよく知らずに支援していた。北アイルランドの解放には賛成だが......IRAが軍人と民間人の区別なく無実の市民を殺しているのは問題だ。

 だが、われわれはアンゴラの解放運動を支持した。ジンバブエのロバート・ムガベ(大統領)も支持し、基地を提供してやった。彼らはテロリストではないだろう?

――しかし93年12月に、あなたはIRAの代表とパレスチナ過激派のアフメド・ジブリルやアブ・ニダルに招待状を出し、リビアで会談しようとした。

 会いたい人物には自由に会ってかまわないはずだ。

――だが、あなたがテロを支援しているという印象が強まった。

 それはアメリカの誤解だ。ジブリルやニダルはテロリストではない。彼らは聖戦を戦っている。

――リビアにニダルの基地はあるのか。

 いや、ニダルは基地などもっていない。彼が生きているのかどうかも不明だ。私が招待したのに来なかったからだ。しかし、ニダルがアメリカに何をしたのかね? 何もしていない。彼の土地を占領したイスラエルに対してさえ、彼は何もしなかった。

――パンナム103便爆破の黒幕はジブリル、あるいはイラン人だという報道があるが。

 もしジブリルの犯行なら、そう名乗りを上げていただろう。だがイランなら、それなりの理由があるかもしれない。彼らはアメリカに民間航空機を撃墜されている。

――最近の出来事に移るが、(94年2月にユダヤ人入植者がパレスチナ人29人を殺した)「ヘブロンの虐殺」に対するパレスチナの報復を支持するか。

 パレスチナ人は毎日のように殺戮の犠牲になっている。彼らには自分の命を守る権利がある。

――リビア国民の間に不安が広がっているのでは? 昨年末に軍の一部が反乱を起こしたと伝えられているが。

 何のために、彼らが私に歯向かうのかね? クーデターを起こしてなんの得がある? 私は何ももっていない。リビアの政治体制は他国のそれとは違う。権力は国民の側にあるのだから、権力闘争などは無意味なのだ。

――国民全員があなたに満足しているのか。

 権力も武器も富も国民のものだ。私が手に入れて、国民に渡した。だから彼らは私を愛し、尊敬しているのだ。

――昨年末にはカイロで、リビアの反体制派のマンスール・キヒアが消息を絶っているが。

 大変心配している。彼もリビアの国民だ。カイロにはアメリカの諜報員がうようよしている。奴らの仕業だろう。

――あなたはパンナム機爆破事件へのリビアの関与を否定している。それなら、なぜ容疑者の引き渡しを拒むのか。

 本人の意思に反して引き渡すことは絶対にできない。彼らの人権を侵すことになるし、わが国の法律にも反する。

――経済制裁でリビアが石油を輸出できなくなれば、困るのはリビア国民ではないか。

 ヨーロッパのほうがもっと困るだろう。リビアに進出しているヨーロッパ企業は多いが、彼らは契約も仕事も原油も失うことになる。

――西側の人間があなたに敵意をいだくのはなぜだと思うか。

 私を知らないからだ。私のイメージはゆがめられている。たとえば私が詩人であることも、哲学、社会学、歴史学の教授であることも知られていない。私は最高指導者でなければ、作家か教師になっていただろう。


※このインタビューを行った記者の回顧録はこちら:【再録】念願のカダフィ単独取材、私は砂漠の町へ飛んだ

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[2006.2. 1号掲載]

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